其の壱百八「増えすぎた”いわれ”」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
いわれが多すぎて、どれが本当のいわれなのかわからない。
そんな話を、あなたも一度は耳にしたことがあると思います。
たとえば歴史上の人物のいわれ。
服部半蔵は忍者だと言われていますが、武士だったという説もあるそうです。
また、源義経は英雄であり、悲劇の逃亡者であり、
さらには天狗に育てられたとも、チンギス・ハーンになったとも語られています。
真実は一つのはずなのに、いわれは増え、
いつしかそれは真実を覆い隠し、どれが本当なのかわからなくなる――
それは心霊スポットにも同じことが言えるでしょう。
◇◆◇
これは先日、私がある方(私との関係・名前は伏せてほしいとのことでした)から
聞いた話です。
その心霊スポットには、十以上のいわれが存在するそうです。
そのいわれというのは、
自殺者の霊が出る、落ち武者が彷徨う、白い女が立つ、
夜中に子どもの声が聞こえる、首のない影が歩く……。
その場所について語る人によって、語られるいわれの内容はさまざま。
時が経つごとにいわれは増え、
それはまるで、その場所自体が“いわれを食べて怖さを増強している”かのようなのだとか。
◇◆◇
その方から話を聞いたとき、私はその場所を特定しようとは
とくに思いませんでした。
なぜなら、私の住む町にも、これを読んでいるあなたの住む町にも、
似たような場所がきっとあるからです。
古いトンネル、使われなくなった神社、廃屋、山道、橋。
どこにでもある、心霊スポット――。
場所はともかく
複数のいわれをもつ心霊スポットという言葉に興味を持った私は、
それを調べていくうちに、ある心霊研究家の論文にたどり着きました。
「いわれが増えすぎる場所には、必ず“核”がある」。
核――つまり、その場所に最初に刻まれた“本当の出来事”。
それがあまりに強烈で、人々は恐怖を薄めるために
別の物語を上塗りしていくのだと、そこには書かれていました。
そして続けて、もしその上塗りされた数々の噂を調べ、
その場のいわれの根源となる最初の“核”に触れたとき――
私はその論文の最後の一行を読んだ瞬間、背筋がゾゾゾとするのを感じ、心に決めました。
複数のいわれを持つ心霊スポットの“最初のいわれ”だけは、私は決して調べない、と。
◇◆◇
いわれが多い場所ほど、その根源たる最初のいわれ――真実は深く沈んでいます。
もしあなたが興味本位で、複数のいわれを持つ心霊スポットの根源を調べようとするなら、
私が読んだ論文の最後の一行を思い出して、考え直してほしいと思います。
その論文の最後の一行――
「もし、その上塗りされた数々の噂を調べ、その場のいわれの根源となる最初の“核”に触れたとき――
その場所の“核”が、あなたを見つけてしまうこともある」。
この話、本当なんです。




