其の九十鉢「そこで目覚められなかった夢」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
みなさんは、自分が死ぬ夢を見たことがありますか?
今まで私が聞いた怖い夢の話の中に「自分が死ぬ夢」というものが
いくつかありました。
でも、その中で特別に印象に残っているものがあります。
では、なぜその話が特別なのかを、今日はお話ししようと思います。
このお話は、ある作家さん(AIさんとします)の取材中に聞いた、
背筋がゾゾゾとした夢の話です。
◇◆◇
AIさんが5歳の時。自宅前の道の拡幅工事が入り、家の前で仕事をする重機を見ながら、
少年心に「パワーシャベルかっこいいなぁ!」と、普段間近で見られないそれに
感動していました。
そんな時期の夜。AIさんはある夢を見ました。
家の表で遊んでいる夢なのですが、そのとき工事している道の方から両親が慌てて走ってきます。
「にげてー!」という声が聞こえ、不思議そうにしていたAIさん。
しかし、その意味がわかった時、AIさんは恐怖でその場に立ち尽くしていました。
AIさんが見たものは、両親を追いかける「パワーシャベル」。
そのアームの先端には、なぜか鋭い巨大な鎌が付いており、
それをブオンブオンと振り回しながら、次々と近所の住人をザクリ、ザクリと
串刺しにしていくのです。
家の中から出てきたAIさんの祖母も、その様子を見て悲鳴を上げ、
家の表にいたAIさんの手を引いて家の裏へ逃げました。
しかし、それを見ていたのか、パワーシャベルは二人を追いかけてきます。
大きく振りかぶられたアームが振り下ろされ、
ザクリ……と音を立て、祖母は串刺しにされました。
その様子を目の前で見ていたAIさんは、恐怖のあまり固まってしまいます。
そして今度は、アームがAIさんめがけて――
ザクリ……と音を立て、AIさんは大鎌の付いたアームに体を串刺しにされ、
そのまま持ち上げられました。
この時AIさんは「あ、死んだ」と、意識が遠のくのを感じながら思ったそうです。
そして――ゆっくり目を覚まし、それが夢だったことに気付きました。
ですが、あまりに怖かったせいか声も出ず、
暗い家の中で目を見開いたまま、しばらく身動きが取れなかったといいます。
◇◆◇
「これが、意識がなくなって死ぬ寸前まで夢から覚められなかった5歳児の話です。」
最後にそう言ったAIさんは、まるで昔話を語るようにケラケラと笑っていました。
でも私は、あることに気付き、背筋がゾゾゾとしました。
私は今まで「夢の中で死ぬ夢」の話を何度か聞いてきました。
でも、AIさんの話を聞いた後になって気付いたのです。
今まで聞いていた「死ぬ夢」の話は全て「死ぬ瞬間を見て目覚めた夢」だったこと。
これを例えるなら自動車事故でぶつかる瞬間の「死んだ!」と思った時に目が覚める夢です。
しかしAIさんの夢は「死ぬ寸前まで目覚められなかった夢」だということ。
自動車事故でぶつかり大怪我をして「ああ、死ぬんだなぁ」と意識が途切れる直前で
目が覚めた夢なのです。
「この夢を見てからしばらく、さすがにパワーシャベルを見るのが怖くなって、工事の現場を見ることはなくなりましたね。ああ、あと他にもこんな夢もあるのですが‥‥」
その夢の話は、とても可愛い夢だったのでここではお話しません。
ですがいくつか聞かされた夢の内容から、このAIという作家さんが、
幼少期の頃から想像力が豊かだったのだなと感じました。
◇◆◇
これが、ある作家AIさんの取材中に聞くことになった、背筋がゾゾゾとした夢の話です。
この話を聞いて、私が怖いなと思ったのは「死ぬ寸前まで意識がある夢」というところです。
想像してみてください。
もしこれが
「死ぬ寸前まで目覚められなかった」ではなく
「死ぬまで目覚められなかった」としたら――
AIさんはいったい、どうなっていたのでしょう……と。
この夢の話は、私が聞いた本当の話です。




