Chapter 011_初めて
「うをっ!?」
紙上初めての飛空船事故はベルナールが乗る補給艦【デスデモーナ】と
巡空艦【ミランダ】の空中衝突によるものだった。
「今の揺れは…」
「地震か!?」
「空の上でも揺れるのか?」
戦艦に次いで巨大であるデスデモーナにとって
事故の衝撃は大したものではなかった。しかし…
『カンカンカン!!』
“直後”に鳴らされた
緊急事態を知らせる早鐘と
「総ぉ員、緊急態勢ー!!」
艦内放送と通路から聞こえてきた
怒号のような命令に
「緊急事態!?」
「魔物か!?」
「うそっ!じゃあ、今の揺れって…!!?」
食事を放り出した船員たちは持ち場に向かって駆け出し
「お、おい!」
「こういう時は確か…」
「つ、机の下に隠れろ!!」
隊員…船の航行に関わらない荷運びや護衛の人員…は理性で
パニックになるのを抑え、
事前に受けた訓練を思い出して
食堂の机の下へと潜っていった。
「火を消せー!!」
「「「イエッサ!」」」
そして、厨房にいたベルナール達、K班の面々は慌てふためきながらも
「ほ、包ちょ…」
「戸棚にぶち込め!総員、食堂の机の下に隠れろ!」
「「「「「イエッサー!!」」」」」
上長の指示に従った!
「「「「「…」」」」」
早鐘と、周囲を駆け回る誰かの足音…
艦内を満たした不安と焦りに押し潰されながら
事情も知らず、何もできない隊員達は息を殺して
ただ、祈った。
そして”ようやく”思い出した。
ココは致死の高さである事を。
落ちた先に柔らかい干し草など無い事を。
この先に続くのは、地図も筆跡もない空白であることを。
この空には、万象を司る御方ですら
”備えなければならない”相手がいる事を…
『カンカンカン…』
しかし、やがて
不安を煽る早鐘の下、ベルナールはじめ全員が
無言で黙り込んでいると…
『パチッ』
と、音により艦内通信が繋がり…
「えー…総員に告ぐ。艦長のディエゴだ。」
覇気のある壮年の男性の声…艦長の声が
「当艦は訓練中の接触事故に見舞われた。」
その言葉に
「じ、事故!?」
「さっきの揺れか!」
「大丈夫なのかよ、」
ドコかから声が上がったが、しかし
「お前ら黙れ!!」
上官の叱責により沈黙が広がり
「だが落ち着いて聞け!事故に遭ったと言っても航行に支障はない…繰り返す。航行に支障はない!」
艦長の力強い言葉に多くの乗員が安堵して息を突いた。
そして、
「支障はないが…しかし、手順に従い着陸地点を見つけ投錨し、着陸せねばならない。総員、着陸手順に移れ」
食堂の机の下に隠れて押し黙っていた面々は
「よし!」
『パンッ!』という弾くような手を打つ音と
「お前ら聞いたな!?着陸だ!総員、持ち場に戻れ!!」
上官のその言葉に
「「「「「イエッサー!!」」」」」
机の下から次から次へと、
人間、獣人、ドワーフが…蜘蛛の子を散らすように…飛び出していった。
そしてその姿を目の当たりにした
「…」
ベルナールは、
リブラリア史に残る事件になるとか、
艦隊運用の未熟さが露呈したとか、
この事件により獣人王国の獣王の怒りを買うことになるとか…
そんな可能性に一切気にもとめず。ただ、単純に…
「…食堂に。こんなにいっぱいヒトがいたんだなぁ…」
…と。
「おい、退けよ!」
「邪魔よ!」
「ボケっとするん!」
ヒトビトの雑踏に踏まれて一瞬でかき消されてしまうような独り言を呟いたのだった…
「あ。ごめんなさい…」
………
……
…
「おーい!ソコの補強材持ってこーい」
「あれ?この部品はドコに…?」
「マイスター鳶!雀ちゃんが呼んでるよー!」
ファントム・ジ・オペラには操縦士である船員と様々な仕事をこなす隊員。そして、彼らをサポートする妖精や治癒術師、魔法使いの他に…
「はぁー…思ったより損傷大きいな。そんなに衝突が強かったのか?」
「どーなんだろうな?なにしろ、事故なんて紙上初だからな…」
…艦船の整備と修理を行う
機関士や錬金術師。現代異世界で言うところの”技師”が乗船している。
今回の作戦は軍艦・艦隊の試運転・試行…つまりテストを兼ねているので
飛空船の生みの親…親鳥である錬金術師【烏】に加え、
その弟子も参加していた。
「しかし…飛空船って風魔法と重力魔法で守られているんだろ?なんで衝突なんか…?」
「あ!ソレ私も気になった!!何でぇ…?ねー、マイスター鳶。何でなのー?」
「…え?あぁ…ソレは。船同士の接近を許容しないと緊急時に乗り換え出来ないからさ。だから、そういう時は部分的に魔法の効果を相殺するんだ。」
「「「「「なるほどぉ〜」」」」」
「まー、今回はソレが裏目に…」
全ての技師にとって初めての事故修理であるため経験などなく、作業のひとつひとつが手探りであった。
手を動かすのが好きな技師の中には職人としての好奇心を押さえられない者がいたコトも否めない。
しかし、その様子は…
「おい!余計な事言ってないで手を動かせ!手を!」
「「「「「イ、イエッサー!…」」」」
…”自分達のミス”だと考え、焦る船員の癇に障るに違いない
「マイスター!あなたもですよ!グランドマイスターに言いつけますよ!?」
「うえぇ!?か、烏ちゃんの名前を出すなんて卑怯だよぉ〜…」
沢山の諍いと修整と、
それ以上の発見と議論と経験を積みながら
魔法仕掛けの雛鳥はパド大陸の大平原で初めての足留めを経験していた…




