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Chapter 009_天駆ける船

『バサバサバサ…』


夕暮れ…



「…」


終始忙しい仕事から解放されたベルナールは甲板の手すりに(もた)れて暮れなずむ空を眺めていた。

食事を摂ったあと、既に眠っている同僚も少なくなかったが

昨晩早く眠りについたせいか、不思議と眠気を感じなかった…



「…」


ベルナールの隣にはベルナールよりも大きな金属の筒…大型アンチマテリアルライフル”型”人工妖精(アニマ)…【クリシュベーナ】を担いだユキアがベルナールにピッタリとくっつき、手すりに寄りかかりながら

小さな舌でアイスを『ペロペロ、ちゃぷちゃぷ』と

舐めていた…



『…』


眼下には黄金に映える平原が遙か彼方まで広がっていた。


飛空船は驚くほど滑らかに天を駆け、

耳に届くのは風の音と、船内の喧騒だけだった。


茜の陽が、

何処までも続く平原が、

天を滑る船たちが、

頬を走る風の音が、

船の喧騒さえ、


美しいものと思えた…






「…」


黄金の平原を眺めていたベルナールは、ふと、眼下を走る馬の群れを見つけた。


「馬…(くつわ)を嵌めていないし、野生の馬かな?だとすれば今は、馬が名産のコルート王国の上を飛んでいるんだろうか…はは。ずいぶん遠くまで。簡単に来ちゃったなぁ…」


…と、

そんなコトを考えていた。



「ぅ…」


隣のユキアは聞き取れないほど小さな声と共に『フ…』と首を横へ…進行方向へと向けた。


未来の”ナニカ”を感じ取ったのか。先行する戦艦オベロンが気になったのか。アイスに飽きたのか。はたまた、ソレ以外の何かか…?


…それは、本人にしか分からない。



「…」

「…」


作業着のベルナールと、白いローブのユキア

アイスを手にするユキアと、無手のベルナール

雑用のベルナールと、守護者のユキア

ナニカを見つめるユキアと、何かを眺めるベルナール…



「ユキアちゃん。」

「………ぅ?」


正反対の2人がピッタリ寄り添い佇んでいる姿を見た者がいれば。きっと…




「日も暮れてきたから。そろそろ戻ろうか…」


…いや、間違いなく。



「………………ん…」


2人は兄妹だ。と、

そう、思ったことだろう…






「…今日もお疲れ様でした。」

「おにーちゃんも。ね…」


………

……





















「・・・どうして。私に。聞くの・・・?」


時を同じく。

戦艦オベロンの晩餐室にて…



「…」


広い晩餐室でひとり、

フォニアが食事を摂っていると扉がノックされ、


作戦が始まって初めて。

顧問であるフォニアの元にアドバイスを求めて

提督と隊長が現れた。



「…ど、どうしてってソレは…も、勿論フォニアの意見を聞きたいからさ!」


ファントム・ジ・オペラが越えるべき最初の関門は

出発地であるアドゥステトニア大陸と南のパド大陸を隔てる海峡…近年になって【ウトム海峡】と名付けられた…大陸超えのランドマークであった。


この海峡には既に飛空船による交易路があるため、定期的に貨物船や旅客船がウトム海峡を横断している。しかし、横断の度に海峡上空に吹き荒れる気まぐれな風に翻弄されてしまうため、飛空船乗りには難所として知られていた。



「・・・意見と言われましても・・・ニコライ提督?」

「はっ…」

「・・・ウトム海峡周辺の地理。風向と風速の観測値。過去の事例。ファントム・ジ・オペラを構成する各艦のスペック・・・その全て。把握されておられますよね?私より・・・」


ウトム海峡が難所であることは間違いないが、そうは言っても十数年前から民間機が行き来しているのだからデータがある。

海峡横断はファントム・ジ・オペラが編成された時から想定されていたコトなのだから。当然…



「…魔女様”より”かは自信がありませんが…はい。勉強させて頂きました…」

「・・・私より。ですよ。だから、お任せしたのです」


提督と隊長の相談とは

・今のペースで進むと夜明け数時間前にウトム海峡に辿り着いてしまう

・見通しの利かない夜間より、夜明けを待って海峡横断をすべきでないか?

・でも、フォニア!


というモノだった。

要するに、慎重派のニコライ提督とドゥウィディ隊長の間で意見が隔たってしまったからフォニアの意見を聞きたい。というものだった



「っ…ご、ご期待に応えられるよう。精進させていただきます…」


「意見」と言えば聞こえはいいが戦艦オベロンの人型端末が”同席している”場でのフォニアの言葉は事実上の「確定事項」である。


“実権のない”顧問 なんて立場は名ばかり。


ソレは誰よりもフォニア自身が

一番理解しているコトだ…



「で、でもフォニア!軍艦は民間機に比べてずっと大きいじゃないか!出力も段違い!ソレを証明するためにも…」

「・・・」


・・・にゃるほど。

艦隊運用に口出し出来ないはずのドゥウィディ様が何で一緒に来たのか?慎重派のニコライ提督が”そんな話”を持ち出したのか。

ソレなら・・・



「・・・ニコライ提督。」

「はっ」

「オベロン・・・そして、他艦の艦長や飛行妖精、機関長や錬金術師達は。なんと?」


異世界人であるフォニアはある程度現代異世界の戦争や兵器・航空機の知識なら少しあるケド

ミリオタではない。



「それは…」


だから正直、何と言ってあげればいいか分からない。

ま。

魔法やら何やらを使えば幾らでも誘導できちゃうけど、さ・・・



「・・・艦船には私の弟子である錬金術師”雀”ちゃんが作った通信機もあります。オベロンの艦内には広いカンファレンスルームもあるのですから。関係者を集めて”作戦会議”をしてみるのも良いのではないですか?」


何でもカンデモ

尋ねられていてはキリがない・・・



「で、でも。フォニア…」


それでも食い下がろうと、

王子様が一歩前へ出ようと身構えた…



「…いけない!」


…その時。

魔女様の侍女長…ローズさんがフォニアの前に『パッ』と割り込んで



「お嬢様!まもなく御息女様との約束のお時間ですよ!」


と、フォニアだけに見えるようにウィンクしながら

声を張った。



「・・・んふふふ・・・」


ローズの意図に気付いたフォニアは



「・・・そうだった。」


と、

爪先を遊ばせていた椅子から『ピョン』と飛び降りた



「魔女様!?」「フォニア!」


そんなフォニアに提督と隊長は不満の声を上げたが



「お話はここまでですー!」


と、もう1人の侍女であるコットンが、小さな体で…

しかし臆せず…王子と騎士の前に立ち塞がり

進路を塞いだ



「・・・んふふふ・・・」


侍女たちの機転と、

”当然”とばかりに食べかけの食事を片付けはじめたシェフたち

に期限を良くしたフォニア…いや、



「・・・それでは、御二方。」


気紛れな魔女は。


来客に優雅なカーテシーを披露し、そして…



「ご機嫌。麗しゅう・・・」


足取りも軽く

部屋を後にした

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