Chapter 008_補給艦の雑用
午前4時
『タタタッ…』
補給艦デスデモーナは24時間眠らない船だ。
戦闘の可能性は最も低いが、有事も平時も関係なく
働き続けなければならない
「…起きて。ベルナールさん起きて下さい」
補給艦の役割は当然、補給…兵站の保管・管理・配給・運搬だ。
運用期間3ヶ月間を目指しているファントム・ジ・オペラにおいて補給艦は文字通り”生命線”だ。各艦から届く補給要請を吟味して要不要を判断し、在庫を管理し、必要に応じて艦載機で”迅速かつ効率的に”補給に赴く…
…それをコレから繰り返すのだ。
何千・なん万回と…
「う、うぅん…」
「ベルナールさん!」
他艦からの補給要請に常に対応できるように…
補給艦は3交代制のローテーションが組まれており、隊員のスケジュールは厳密に決められている。
「あと、ご分…」
「既に5分の寝坊ですぅー!!…あぁっ、もうっ!?」
寝坊なんてしようものなら…
「ザァーツゥ用ぉー!!」
…その小さな歪が積み重なって
大きな結果を招いてしまうかもしれない…
「うをわぁ!?」
主に隊員の生活管理を補助する為に乗せられた宙舞妖精が起こしに来てくれたのに…
「初日から寝坊とは良いご身分じゃねーか雑用!!」
ついつい、いつも通り甘えてしまったベルナールは、
上司である管理部生活課K班班長によってベッドの床板ごと持ち上げられ、そのまま床に転げ落ちた!
「いててて…!?」
「ベルナールさ…」
お母様の家族であるベルナールは宙舞妖精【ロザリア】にとっても大事な人だ。
しかし、同時に…
「っ…」
他でもない、そのお母様から艦隊に所属する事になったアニマに向けて
「あなた達も含めた誰かに命の危険が迫ったり、客観的な理不尽を言われない限り…許せる範囲で…ヒトの命令に従いなさい。ヒト同士の争いに不干渉でありなさい。ヒトの役に立ちなさい…」
と、厳命されている。
コレまで1度も。全てのアニマに「〜しなさい」と言ったことがなかったお母様の口から飛び出したその言葉はアニマ達にとって天命であり存在理由であり理であった。
「雑用!!持ち場に戻れ!!」
「うぎゃ!?」
…だから。
彼を優しく起こしてあげたかったロザリアは
「…」
悔しさと。悲しみと。喜びと。無力感と。達成感と…
「ロザリア殿。君も持ち場に戻ってくれ」
…そんな複雑な心を抱えながら
「はい。直ちに…」
覚えたての軍式敬礼のあと
部屋を離れた…
………
……
…
「雑用!パン足りねーぞ取ってこい!!」
「はいっ!」
「チーズもそろそろ…」
「一緒に取ってきます!!」
班長に引きずられたベルナールが辿り着いたのはK班の仕事場…船体のほぼ中央にある、隊員の憩いの場である食堂のキッチンであった
「はぁ、はぁ…も、持ってきま…」
「おせーぞ雑用!」
「次、コールスロー減ってきたからキャベツ持ってこい…20玉!!」
「に、20たまぁ!?…りょ、了解ましたー!!」
非戦闘艦でありながら艦隊で2番目に巨大な船である補給艦デスデモーナはその責務ゆえ、兵装や居住スペースを犠牲にしてでも”倉庫”を広く設けている。
しかし、物資の運搬にはやっぱり人手が欠かせないので乗員は多い。ソレでもギリギリなのでメチャクチャ忙しい。しかしスペースは無くてキチキチ。だから…
「やぁーっと終わったぁ…」
「メシだ!早く寄越せー!!」
「メニューは…ポークとコールスローサラダのバケットサンド!?…オ、オレらにはシャレ過ぎてないか…?」
「いいからサッサと受け取れよ!!」
…だから皆。ちょっぴりピリピリしてて、疲れてて
そして、ご飯がとっても楽しみ!
「も、持ってきまし…」
「おい、雑用!お前、下ごしらえ出来るか!?」
「へ!?ま、まぁ…」
「なら任せた!」
「えぇー!?」
「具材、ちゃんと細かく切ってよね。パンに挟むんだからね!」
「くっ…ハ、ハイ!喜んでー!!」
3交代制のこともあり、この船の食事は1日8回!
キッチンは常にフル稼働!!
提供と下ごしらえは同時進行!
「うぅ…め、眼に沁みる…」
小さな魔女の家の食事時も忙しかったけど、ココの忙しさはその比じゃない。宿の経験を買われてキッチンに配属された時は慣れた仕事に喜んだベルナールであったが、タマネギ60玉を前に、早くも心が挫けそうだった…
というか、サスガに60玉は多すぎない!?
…え?下ごしらえは他の艦の分もココでしているの?
なら、仕方ないか…
『トントントン!』
と、小気味良く…しかし、泣きながら…ベルナールが包丁を動かしていると
「ざつよー君、雑用君!」
…と、水魔法で野菜を激しく洗っていた…同じ班の…青い瞳の女の子が
「はい!」
洗い立てツヤツヤのリンゴ…コールスローの具材…を
ベルナールに押し付けて
「味見”しながら”ガンバロー!!」
と、ウィンクし…
「…ついでに瞳を洗ったげる!』
「へっ!?」
「『雫よ 天の恵みを』「ちょ、まっ!?」ウォーターボール!」
余計な気遣いまで
「ブハッ!?」
してくれたのだった…




