Chapter 006_補給艦【デスデモーナ】
「…さて。ベルナール君。君は何ができる?」
フォニアとその家族と共に降りてきた小型艇に乗り込み
補給艦へと移動したベルナールを待ち構えていたのは
この船の部隊長であった。
因みに、調査艦隊は船を動かす飛空隊と人員を動かす部隊が共存しており指揮系統が複雑である。
もっとも、カースト最底辺である「雑用」のベルナールには、あまり関係がなく。要するに、瞳に映る全のヒトの命令を聞いていればいいのだが…
「おにーちゃんは、おねーちゃんのお宿で働いてたんだよ!お料理とっても、じょーずなんだよ!」
フォニア…魔女様…は別の船乗ると聞いていたベルナールは
てっきり、船に乗ったら1人になると考えていた。
「ユ、ユキア様。だからソレは内緒だと…」
「う?」
しかし、どうやら。そうではなかったらしい…
「ユキアちゃん。オレと魔女様。あと、君のお姉様たちとの関係は秘密にしろって。魔女様に言われただろう?」
「うー…」
偶然か?はたまた魔女様の図らいかは分からないが
補給艦にはベルナールと共にユキアが乗り込んでいた
ベルナールがユキアが会うのはコレがまだ2回目だが、
えらい懐いたユキアは今、彼の膝の上に座っている…
「魔女様に怒られてしまいますよ?」
「ふみっ!?」
ただでさえ、途中乗船…しかも、【夜の魔女 フォニア】と同時に…して目立っているベルナールが、
更に飛空艦隊の母である魔女様の”お気に入り”だなんて知られたら雑用なんてやっている場合ではなくなってしまう。
ソレでは本末転倒なので彼とフォニア…そして、フォニアの身内との関係は機密事項であり、部隊長と艦長ほか、数名だけが知っている。
「ヤ!」
ベルナールにはできるだけ大人しくしていて貰いたい…と、いうのが上層部の総意だ。
補給艦の隊長アルマン少佐がフォニアの娘であるユキアとベルナールが仲良く手を繋いで船に乗り込む姿を苦々しい表情で見守っていたのは、言うまでもない
「で、でしたら…」
補給艦デスデモーナは非戦闘艦ではないが、1隻で艦隊全ての補給物資を支える重要な輜重船である。
物資の運搬・管理・分配には多くの人手を要する為、他艦に比べて乗員数が多く出自もバラバラ。人選は慎重に行われたが、
それでも小さな諍いの絶えない船であった…
「ぶぅー…」
”この船”で隊長をやらされているアルマン少佐はコレでも戦場で名を馳せた騎士であった。
先の大戦では近衛隊長と共に敵軍が立て籠もる王城に果敢に挑んだ勇猛果敢な重騎士隊隊長であった。
夜の魔女さえ帰ってこなければ、もしかしたら
”永代”貴族になっていたかもしれない…
「な、なんとか堪えて下さいませ…」
ソレが今はどうだ?
“ほぼスラム”の補給艦で毎日のように巻き起こるイザコザに対処し、煩いだ何だと艦長に怒られ、
獣人の子供のお守りをさせられ、配慮がなっていないと妖精に怒られ、
挙句の果てに、ワガママ魔女がねじ込んだ貧乏臭い少年の世話まで任せられた。
かつての栄光はなんだったのか?
これも全部。あの魔女のせ…
「ル、ルボワ市で4級冒険者として活動していました!こ、ここ1年くらいはダンジョンに潜っていませんが…」
危うく、艦内で思うには危険な思想に耽りそうになったアルマンだったが、居心地の悪いこの場所から早く退散したかったベルナールの言葉のおかげで現実に戻ることに成功した。
気を取り直したアルマンはベルナールの言葉に…
「…なるほど?つまり白紙だな?」
と…
「い、いえ。よんきゅ…」
「冒険者として活躍したいなら、せめて2級になってから言え。艦隊には2級や1級…特級冒険者だっているんだぞ?”白紙”のお前が何の役に立つ?」
…残念ながらアルマンの言葉は事実だった。
4級冒険者といえば、”一般には”セミプロ…「職業である」と名乗っても恥ずかしくない立場である。
しかし、
「………はい。な、なんでも…ありません。」
”危険である”…それも、”種類の分からない危険”が
待ち受けている未踏領域に筆を走らせるこの艦隊には
どんな魔物が現れても
どんな危機に陥っても
砂漠のド真ん中に取り残されても文句を言わずに生還するだけの実力と実績と覚悟と資格がある者だけが乗っている。
「艦内では二度と冒険者などと名乗らぬ事だ。…コレは”親切”で言っているのだぞ?」
「はい…」
この船においてベルナールは「守られる」存在であり
「乗せてもらった」立場であり、
端的に言えば「お荷物」だ。
護衛として雇われている冒険は最低2級…1級や特級も少なくない。
艦隊運営に携わる人間は全員爵位持ち。
艦長に至っては名のある領地の騎士団長や国軍の幹部クラス。
アドゥステトニア大陸全体の1割近い予算をつぎ込んで
編成された、文字通りの精鋭部隊…
「…よろしい。」
ここは。そういう場所だ…
「むぅ~…」
不穏な空気を感じ取ったのか…ユキアはベルナールに
『ピタッ』とくっつきながらも顔を背けていた。
家族の一員となったベルナールを守らなければならないという想いと、母の言いつけの折衷案がソレだったのだろう
「だ、大丈夫だよ。ユキアちゃん…」
しかし…
「ぅ〜…」
ベルナールに頭を撫でられたユキアの唸り声は小さくなり。
そして、
「えぇと…さ、先ほどは失礼しました隊長様」
今度は、アルマンの瞳をしっかりと見つめて
「ユキアちゃん…お、終の魔女様の言っていた通り冒険者向けの宿屋の業務全般の経験があります。料理や配膳、ベッドメイクに掃除、修繕に調達までなんでもこなして来ました!」
「…」
「…よ、よろしくお願いします!」
「…」
ベルナールの顔を見つめていたアルマンは
「………付いてきたまえ」
そう言って、
立ち上がったのだった…




