Chapter 019_未来のための後悔
林檎です!
こっそり…久しぶりの投稿です。
お待たせしていたら、ごめんなさい…
「ふ〜…お疲れー」
季節は初夏。
今のところ晴れてはいるが、遠くに見える黒い雲が心配になる
そんな、暑い日のこと…
「お、お疲れ様…」
ベルナールは徐々に元気を取り戻し、宿の手伝いを再開するまでに至った。こんなに早く回復できたのも、諦めずに彼を励まし続けた姉妹の愛と努力のおかげであった
「アー疲れた!…まったく!ナニよ、あの客!?自分で備品壊しておいて、な〜にが「早く直せー」…よ!コッチは家具屋じゃ無いのよ!」
「セ、セルディアさん、聞こえちゃうよ。もう少し小さぃ…
「聞ーかーせーてーいーるーのーよー!」
魔力で身体強化ができるリブラリアでは女性であっても
苦もなく力仕事ができるが、
体格差はあるので高い所の作業や酔っ払い相手などの場面で
男であるベルナールは大いに役立った。
「ハ、ハハハ…」
その事実は、居場所を見失いかけていたベルナールに
やる気と生き甲斐を与えた。
自分を支えてくれる人がいる
自分を必要としてくれる人がいる
自分は一人ぼっちじゃない。
そう、実感できるようになってからというもの
ベルナールの回復は目覚ましかった
「たっだいまー!」
「う?あっ、おかえりミーリア!」
「…おかえりミーリアちゃん。」
「んぅ〜!…ねー、見て見て!お肉屋さんがいっぱいオマケしてくれたよ!今夜は生姜焼き定食だぁ〜!」
「あの店のオッサン。相変わらずミーリアに甘いわねぇ〜…もしかしてロ」
「し、仕込み手伝うよミーリアちゃん!」
「んー!ありがと、おにーちゃん!」
いつも明るいミーリアと…
「ベルナールさん。屋根裏部屋の片付けだけど…」
「あれ?この間、リチアちゃんと一緒にやったよね…」
「そ、そうなんだけど。あの時に本を見つけたって話をしたら、スタカッティシモ様が読みたいから貸してほしいって…全部を。」
「ぜ、全部!?たしか、本棚3つ分くらいあったような…」
「う、うん…全部で107冊。お母様に確認したら、錬金術と治癒術の本が大半だけど、ソレでもいいなら構わないって…」
「…あ、後で。スタカッティシモ様の所に運んでおくよ」
「ご、ごめんなさい。お、お願いします…も、もちろん私も手伝うわ!」
しっかり者のリチア。そして…
「あら…ふふふ!でもそんなの、皆でやればスグに終わるわよ!ね、ミーリア!」
…セルディア。
「もっちろぉん!」
「セルディアさん、ミーリアちゃんも。どうもありがとう!」
「お姉様、ミーリア。どうもありがとう」
セルディアもまた、誰の目にもあきらかなほど…本人すら自覚するほど…明るく、積極的になっていた。
ベルナールを励ますことで、同時に自身のトラウマと向き合うことができたからだ。
「それじゃ、さっそく始めましょう!」
「はーい!」
「えぇ!?い、今から!?」
「そんなコト言ってると、夜になっちゃうわよ!」
「明日がんばるんじゃない!今日だけ頑張るんだぁ!!」
「え!?…い、いや。別に明日まで引き延ばすつもりは…」
「いいからサッサと行くわよ!」
「うわぁ!?」
「レッツらゴーゴー!!」
「ま、待ってくださいお姉様!ベルナールさん!ミーリアまでぇ!?」
あんな事件があったのに…いつの間にか。
小さな魔女の家には元通りの笑顔と賑やかさが戻っていたのだった…
………
……
…
「…」
…降り始めた雨は日没とともに本降りとなり、
やがて雷を伴う土砂降りとなった。
いつもなら賑わう宿の食堂も今夜はまばらで
食堂へ食事にやってきたお客は早々に家路につき、宿泊客も夜更けを待たずに部屋に引いた。
ベルナールは姉妹と共にユックリ後片付けをし、
早い時間に賄いを平らげ
ミーリアとセルディアの妖精の力を借りて
離れへ戻った。
雨音と遠雷を聞きながら、
暗闇に眠気を求めてながら、
ベッドの上でボンヤリと過ごしていた…
「…」
…ふと。
”あの日”も雨が振っていたと思い出した。
いつ振り出したのかは、思い出せなかった…
………
……
…
『カッ…チャッ…』
深夜近く。
「…ベル?」
人生の半分近くを冒険者として過ごしてきたセルディアは
短時間で寝たり起きたりを苦もなく意識的にすることができた。
夜中に宿全体の見回りをするのを習慣にしていた。
宿には水龍達も居るけれど…ケド、最近
黒指の連中がまた活発になって来たって話だ。
油断はならない。
もう、あんな思いはしたくない。
妹たちにもさせたくない。
だから強くなったんだ。だから…
…誰かに言われたからじゃない。
「大丈夫?ベル…」
見回りの最期に離れに立ち寄ったセルディアが
慎重に扉を開いて中をのぞくとソコには
ベッドの上にしゃがみ込んだ人の影が見えた。
セルディアが赤い灯火のランプを向けてみると
ソレは確かにベルナールだった。
けれど彼は、セルディアの声に応えなかった…
「、…」
セルディアは入口のサイドボードに、
そっ…と、ランプを置いた
「…」
初めは、ドキドキしたけれど慣れたもの。
ベッドに腰掛けたセルディアは布をユックリ静かに払い、綺麗に畳んでから近づいた。
「よし…よし…」
…初めは恥ずかしくて。ドキドキして。身が熱くなって。
変じゃないかとか…早鐘が聴こえてしまわないかとか…冷や汗に気付かれてしまうとか…
…余計な心配をしたものだ。
「…いい子。いい子…」
…けれど、そんなの杞憂だった。
治癒術師が捧げる祈りと同じ、魔法の儀式の1つだった。
だって、他でもない月天使様がやっていたコトだもの。
適正の無い私にも許された
治癒魔法の奥義だった…
「っ、っっ…」
ベルナールはスグに溜めていた涙を、ようやく、流すことができた。
これが奇跡でなくて、なんだというのか…
「あっ…ときっ…」
「んぅ…」
「ぼ、ぼくっ…」
「んぅ…」
「っ…sいっ…」
「…それは違うわ。ベル」
「でもっ!」
「…」
「でも…」
「うん…分かる。分かるよ…痛いほど、よく、分かるわ…」
何十回…何百回繰り返したか分からないやり取り。
忘れた瞬間など無かった。一度も…
「………な…で…」
セルディアは
自分の頬にも流れ出したことに気づかぬまま
「…しかた。無かったのよ…」
身体に流れる大天使の血潮に従って
あの時、剣を握っていた両手を
今は、優しい翼にかえて
優しく優しく…卵を温めるように…
「…よし。よし…」
誰かが立てた物音や風の声、虫の声…そして、
夜の影すら
2人の邪魔は出来なかった…




