75.ユーコの小刀
次の日は、早速、鍛冶屋『ノルド』に向かった。
「なんじゃ、ずいぶん遅かったのう。一週間も待ちわびたわ。」
「いやいや、今日が受け渡し日だろう」
「商売上、コンサバに納期を決めるのは当たり前じゃろ。」
ノルドから、コンサバ(控えめ)などという言葉を聞くとは思っていなかった俺が、一瞬固まっていると、
「これを持って見よ。」
まずはユーコの小刀から見せてもらった。思った以上に素晴らしい出来上がりだったが、実は、俺の方からある依頼をしていた。
「居合刀(刃のない刀)にしてくれ。名刀などを持てば、好むと好まざるにかかわらず、使ってみたくなるのが心情というものだ。ユーコに無駄なものを切らせたくはない。」
しぶしぶ承諾してくれたが、仕事には一切手抜きはなかった。
「これ、気に入った。」
ユーコも気に入ったようである。特に、刃がないことにも不満はないようだ。
「まあ、刃はないが、剣を受け止めたぐらいでは壊れやせんから、安心しろ。」
性能の良いものが、『身を守る』とは必ずしも言えない。
車だってそうだ。いい車を手にすればスピードを出したくなるのが心情だ。それなのに、なぜ、無駄にスピードが出る車を作るのか?
商売というものは、貧乏人のために存在せず、金持ちのためな存在するということだ。
ただし、金持ちのために、貴重な資源を無駄に浪費するのは許さることではない。
貴重な資源は未来のためにも、必要最小限を使用すればいいではないか。
「どうじゃ、似合うか?」
「ああ、似合う。」
ユーコが脇に小刀を挿した姿を見ながら、俺はその小刀が抜かれることがないこを祈った。




