56.禅譲
ユーコとの手合わせが終わったあと、その男は、
「では、私の部屋中へ行こう。私がドナルドだ。」
なんと、ユーコの相手はこの冒険者ギルドのギルマスであるドナルドであった。
手合わせのときの気合いもなかなかのものであったか、ギルマスの部屋へと入り、ソファにどっしりと腰を落とした姿は、威厳に満ちあふれていた。
「わざわざ、王都まで来てもらって申し訳ない。報奨金だけだったら送金すれば、済む話しだったのだが、こんど、王の位が禅譲されることになったのだ。」
ドナルドはそこまで話をすると、小声になり、
「次の王都に決まったのが、没落した貴族の若い当主で、リョータ殿に一度、お会いしたいというのだ。どうだ、お願い出来るか?」
この国の王位は世襲制ではなく、血縁者でない有徳の人物に譲る決まりになっていることはランケからは聞いていた。
世襲制による専横政治はなにかと弊害があるが、民主政治も安くはない。
古代ギリシャのように、全員平等の政治参加を旨とするのは現実的ではない。
一方、ローマのように「見識のある人」に政治を任せる場合も、30人や50人では、民主政治にはならない。必ず組織を牛耳るものがあらわれる。したがって、日本のように、何百人もの議員が必要になるのだ。
そこで、禅譲という方式に決められたわけだ。
しかし、まさか自分がそれに関わるとは思っていなかったので、俺は突然のことで、しばらく考えていたが、
「リョータ殿、何を迷っているのです。こんな名誉なことはありません。お会いしましょう。」
ランケの力のこもった説得で、俺達はその貴族に会うこととなった。




