049
「そっち持って!」
「良し!縛った!」
「ギャーー!」
自爆!そして増殖!
倒せば倒すほど数を増す敵を、それならばと持参した強化ビニール紐でふん縛ろうとしてみたが、結果はこのざまでございます…
メガフロートにやってきた俺たちを追ってくる星喰の数はいまや数千匹。
メガフロート内でこれなんだ…朔望月全体となれば、いったいどれだけの数になることやら…
四方八方から現れる星喰は、メガフロート内をすれ違うドローンたちには目もくれず、俺たちにだけ襲いかかってくる。
しかもあれは…食おうとしているな…俺たちを…
アップルたちが撃退してくれているから良いものの、俺ひとりだったらあっという間に胃袋の中だな。
しかし…星喰はアンドロイドの冒険者とドローンたちをどうやって見分けているのかしら?
どちらも機械の身体だけど、心を持ってるアンドロイドのことがわかるのかしら?
「ドローンみたいに星喰にも道を譲ってお辞儀をすればわかんねぇんじゃね?」
「試す価値はありそうですな!」
「ギャーー!」
「…。」
こういうおバカなことをしちゃうからいけないのかしら?
なるべく数を増やさないよう真っ二つにされた星喰の中から救出される冒険者たち。
頭から丸飲みされ身体はヌラヌラしているけど、消化はされていないみたいだから、彼女たちアンドロイドなら食べられても平気かな?
「マスター!ハグをしようよ!」←寄るんじゃねえ!!
いまは星喰の数をなるべく増やさないようにしながらヘイムダルの到着を待つしかない。
それと…それまでに星喰を弱体化させる方法を見つけないと…
いまのままでは捕獲器に押し込んでも一斉に自爆されて失敗するだろうし、そもそも一ヶ所に集めるのだって難しい。
星喰を管理していたバルタザールにアクセスできれば、何かしらの情報が手に入るかも知れないけど…
相変わらずアルフヘイムと連絡が取れないのが痛いねぇ〜…
『マスター!みんなー!』
メガフロートの外に出ると、俺たちの機体を抱え手を振りながらやってくるバトルドール部隊の姿と…そのうしろ…空中に浮かぶもうひとつのメガフロートから球状建造物へと向かう飛行型のドローンにしがみつく大量の星喰が見える。
…こいつら、飛べないのか…
「だったら飛行型ドローンを全部撃ち落としてやるわい!」
妹ズは自分たちのバトルドールに飛び乗ると飛行型ドローンに照準を合わせる。
だがアップルがそれを止めた。
そう…移動手段を失えば星喰は何をするかわからない。
その気になれば朔望月内部に溢れかえるくらい増殖することだって出来るんだからね。
飛行型ドローンが運べる星喰の数には限界がある。
だったらいまは数をコントロールできる現状を維持して時間を稼ごう。
しかし…ドローンはなぜ星喰に気がつかない?
「ねえ…カスパールに細工した時、どんな風にしたん?」
「全ての機能を停止した訳ではありません…新たに進入した人間や亜人はここにはいない…存在しないはずのもの…だから警戒する必要はない…みたいな感じでしたけど…やっちゃいましたかね?」
俺の質問にアップルは頭をポリポリとかきながら答える。
見えてはいてもそれは危険性のない、人間ではない別のなにか。
だけどそこにいるのだから、すれ違えばとりあえず道を譲るし頭も下げる。
…といったところかな?
ドローンの俺たちに対する対応は予定通りで、アップルや実際にデータを改ざんしたアルフヘイムにいる冒険者たちに落ち度はない。
ではなぜ星喰にも同様の対応をするのか?
あれを解き放った何者かがカスパールに俺たちと同様の細工をしたのか?
では、そいつはどこの何者で、どうやって俺たちの作戦を知り得たのか?
「マスター。そろそろ行きますよ。」
「はいはい!ごめんなさい。」
わからない事だらけだが、とにかく今はここを出よう。
ブリュンヒルデのコクピットに押し込まれた俺は、まごまごしながら起動するとメガフロートを飛び立つ。
「マスタービリっけつ!」
「わざとだい!」
遠のいていくメガフロートを拡大して見てみると、あとを追えない星喰たちは次々と海に向かって飛び降りていく。
「海上のメガフロートや海中の動物は大丈夫なのかしら?」
「逃げ回ってはいるようですが、襲われてはいないようです。アレの標的は私たちだけみたいですね。」
「そう。それなら良かった。」
…ゲームの設定では星喰は人類の敵対者。
新種のアレにもその設定が適用されるのなら、この朔望月から出すわけにはいかない。
それも人間や亜人を捕食し、倒し方もわからないときては尚更だ。
だがこの朔望月には、あの星喰を管理していた黄金の林檎のメンバーがいる。
言い訳は面倒だけど、彼らなら攻略の手がかりを知っているかも知れない。
ブリュンヒルデは部隊の最後尾から一気に先頭へ飛び出すと、そのスピードを更に上げる。
「球状建造物まで競争じゃー!」
「舐めんなーー!!」×全員
「ビリは罰ゲームでデコピンな!」
◆
球状建造物に向かってくる飛行型ドローンは田舎の電車みたいに一日数本のはずなのだが、どうやらそこも細工されているようで10分おきにやってくる。
飛行型ドローンの大きさはギルド艦と同程度で、それにしがみつく星喰は数えるのも嫌になるほど…しかもバトルドールで相手をすると星喰はガンガン自爆してガンガン増殖する有り様だ。
まあ大きさが違うから当然かも知れないが、どうやらそれなりの知能もあるようだね。
そこでみんなはバトルドールを使わずに星喰の相手を始めた。
朔望月には戦いに来たわけではないので予備の弾薬やエネルギーがないからでもあるのだが、そもそもアンドロイドは生身でもバトルドールより強い。
彼女たちアンドロイドの冒険者にバトルドールが必要なのは、まあゲームの都合ではあったのだけれど、現在ではエネルギーの供給問題だけ。
バトルドールの整備にかかる時間やアイテムを考えれば、エネルギーパックでも携帯すれば良いと思うのだけれど…
「そこに浪漫はあるのかい?」
そう言って言うことを聞いてくれません。
彼女たちは身体の各所に内蔵された小型スラスターで空を飛び、飛行型ドローンにしがみつく星喰を目からビーム、口から炎、腕から飛び出るレーザーカッターと様々な武器で撃破していく。
…目には見えないワイヤレスエネルギー伝送システム…いったいどういう仕組みなんだろう?
まあ、ここは彼女たちに任せて進みましょう。
おっと、申し遅れましたがわたくし只今幽体です。
自分で言い出した事とは言え、本気になった彼女たちの操縦技術に勝てる訳もなく…
正座をする私に繰り出されたデコピン一発でこのざまです。
真っ赤です…そしてまた薬です…前髪も逝きました…
《 ꉂꉂ(๑˃▿˂๑) 落武者かよ!! 》
「ゲラゲラ!!」×全員
━〈マスター魂の叫び〉━━━━━━━━━
帰ったら覚えておきなさいよ!!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
さて、身体も修復されたので元に戻れるのですが、何度も死んだおかげで何だかコツをつかみました。
生き返ったところで出来ることは何もないし、今しばらくはこのままでいきましょう。
降り立った球状建造物はスペースコロニーより一回り小さい程度で、俺たちのバトルドールを収容するスペースは十分にあった。
だけどその内部は…
バトルドールでの移動は困難だけど、人が歩いて移動するには広すぎる。
クルマやデンシャがあれば良いのだけれど、どうもここには似つかわしくないか…
広い通路の高い天井には天井画がびっしり描かれ、そこまで伸びる巨大な柱やピカピカの床は高価そうな天然石。
そしていかにも成金趣味の照明や調度品の数々は黄金や宝石があしらわれ、壁には美術の教科書に載っていそうな絵画や彫刻。
そんな通路を冒険者たちは早足で進んでいく。
走らないのは通路ですれ違う廊下は走らないと言いたげなドローンを気にしてのことでもあるのたが、アップルがおんぶする俺の身体…頭皮に負担をかけないようにしているようだ。
これ以上散らないようにメガフロートから拝借してきたラップフィルムをグルグル巻きにされた俺の頭は、まるでターバンを巻いているみたい。
《 ꉂꉂ(๑˃▿˂๑) 頭が蒸れちゃうよ!! 》
「くすくす!!」×全員
《 ꉂꉂ(๑˃▿˂๑) ハゲラップ!! 》
「ゲラゲラ!!」×全員
━〈マスター魂の叫び〉━━━━━━━━━
もうイジメだよ!!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そして行き着いた先。
この球状建造物で唯一鍵のかかった巨大な木製の扉の先。
そこに黄金の林檎がいる。
本来であればアルフヘイムにいる冒険者に扉のロックを外してもらうはずだったのだが、いまだにアルフヘイムとの連絡は取れないまま。
不本意ではあるが今は緊急事態ということで、みんなは扉をこじ開けることにしたようだ。
「…?!」
「お姉ちゃん…どうしたの?」
俺をおんぶしたままのアップルは、扉のノブに手を伸ばしたまま動きを止める。
「開いてる。」
先ほどまでのピクニック気分がウソみたい。
幽体の俺にも伝わるくらい、みんなの緊張が一気に高まる。
両開きの扉を蹴破ると彼女たちは一気になだれ込み、俺を背負ったアップルを中心とした妹ズが静かに扉をくぐっていく。
そこはこの世界の最高意思決定機関。
モニター代わりの床には第五地球の映像が映され、その第五地球を中心に取り囲み高台から見下ろすように配置された八つの台座。
そして高い天井付近に浮かぶのは、黒光りする立方体状のコンピュータ〈メルキオール〉
効きすぎた空調の冷たさと、部屋全体から伝わる威圧感。
足音が響くほど静まり返る部屋を照らすのは、第五地球の光だけ…
…でも…誰もいない。
◤◢緊急事態発生◤◢◤◢WORNING◤◢
◤◢緊急事態発生◤◢◤◢WORNING◤◢
◤◢緊急事態発生◤◢◤◢WORNING◤◢
…緊急事態というよりも異常事態ではなかろうか…そう思ったがそれもそのはず…
耳ざわりだからこそ意味のある緊急を知らせるその音は、朔望月から発せられたものではなく、俺やみんなの携帯端末から…
《 ( •̀ㅁ•́;) みんな大変だよ!アルフヘイムが何者かの襲撃を受けていたみたい!なんとか通信が繋がったから、はやくマスターを起こして! 》
「起きてるよ…とっくにね。」
身体に戻った俺はアップルにおんぶされたまま、自分の携帯端末を取り出す。
そんな…いったい…いつから?
ヘイムダルもみんなも突然の出来事に言葉も出ない。
いつから意識があったのか…
いつから自分たちの会話を聞いていたのか…
そして彼女たちが出した答えは…
《 (*´∇`*) お似合いです!! 》
「お似合いです!!」×全員
━〈マスター心の叫び〉━━━━━━━━━
じゃかあしいわ!!
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アップルに降ろしてもらった俺は、床に座るとあぐらをかく。
アップルは俺の頭に巻かれたグルグル巻きのラップを剥がしにかかると、気不味いみんなは異変調査のために部屋中に散らばる。
《 ( •̀ㅁ•́;) それでは繋ぎます! 》
携帯端末の画面に映ったのは悲壮感…そんな言葉がぴったりの表情をした梓がひとり。
「…ずいぶん逝ったね!」
「うるさいよ!」
…まだ俺をイジる余裕はあるのかな?
梓のうしろには数人の怪我をした冒険者が映っているが、アルフヘイム自体には目に見える被害はないようだ。
「送られたデータは受け取った…そこで報告したい事は二つ。まずはマスターたちを襲っている星喰について…」
梓は一度呼吸を整えると、ゆっくりとした口調で話しを続けた。
星喰の名前は〈人食いミジンコ〉
この世界で、この世界の人間によって作られた、人間と星喰の融合体…
「…アレは私が作った…人工授精させた私の受精卵に星喰の遺伝子を組み込んだ…人にも星喰にもなれなかったもの…」
ドローンがあの星喰に気がつかない理由はそれか…
人でも星喰でもないもの…だけど人間の遺伝子が含まれる、訳のわからない不思議なもの…
だからドローンたちは俺たち同様、見えているけど見えないものとしたわけだ。
つまりは、まんまと踊らされた俺たちのせいか…
「…アレが人だけを襲うのも生命を弄んだ当然の結果…」
梓は大きく息を吸い込むと、機械の両腕を俺に見せる。
「…ばちが当たった私はこのざま…だからこれ以上、人に危害を与える前に全て廃棄したつもりだったけど、何処かの誰かが黄金の林檎に献上していたみたいだね。」
「…何処かの誰かか…」
「…アレを知っているのはユグドラシルでもごく一部…うちの家族くらいなんだけどね…」
「…それでアレは止められるの?」
「もちろん。」
人食いミジンコのツルツルの頭頂部には、細長い毛のような触角が一本ある。
それが弱点だ!
それを引き抜けば増殖できずに消滅する。
つまり…
ハゲを殺すにゃ刃物は要らぬ、毛抜き一本あれば良い!
「…ってことさ!」
━〈マスター心の叫び〉━━━━━━━━━
いちいち心に刺さるんだよ!!
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「だけど一つだけ注意してほしいのは、人食いミジンコは追い込まれると合体し、巨大な別の個体に生まれ変わる…その名も〈暗黒スベスベマンジュウガニ〉」
《 ꉂꉂ(๑˃▿˂๑) ハゲが集まってスベスベってか?! 》
「ゲラゲラ!!」×全員
━〈マスター心の叫び〉━━━━━━━━━
どこまでハゲに厳しいの?
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さて、そろそろいい加減にしなさいよ!
そう言おうとしたが、彼女たちの空元気もそこまでだった…
梓からもたらされた情報をみんなに伝え、星喰の掃討戦が開始されようとしたまさにその時、この室内からもある物が発見された。
妹ズのドーナツが台座の上で発見したそれは小型の機械。
どうやらそれはホログラムによって録画した映像を再生する機械だったようで、ドーナツがスイッチを入れると一人の男が映し出された。
「…やっぱり…こいつらが…」
この映像はアップルたちの目を通してアルフヘイムにも送信されている。
それまでの顔が嘘みたいに、本気で怒った梓の顔が見る見る真っ赤に染まっていく。
きっとアルフヘイムにいるみんなもそうだろう…
これがアルフヘイムで起こった…梓が伝えようとした、もう一つの報告。
こいつらに希望ちゃんとお母さんが奪われた。
やっぱりと梓は言った。
第五火星の一件以来、更に強化されたアルフヘイムの防衛システムと警備システム。
それをこうもあっさりと…しかも、二人を奪われるまで…破壊活動が行われるまで…誰も気づけなかった…
こんな事ができる連中となればそうはいない。
それなのに…何処の誰かと予想は出来ても、それと断定するだけの証拠さえ見つけらず、手を出せずにいた…
…まあ、そんなところかな?
彼らがアルフヘイムにやって来たのも、最初から二人の居場所を確定するため…
朔望月の星喰も、単なる時間稼ぎというわけか…
その目的はおそらく座標。
俺たちより先にそれを手に入れ、俺たちを足止めする。
考えることはみんな一緒だね。
「捜索に出している全艦隊を急行させる!」
「…いや…まずは彼らの言い分を聞いてやろう。潰すのは、それからでも遅くない。」
黄金の林檎は何処へいった?
希望ちゃんとお母さんの遺骨を奪った目的は?
そして俺たちの計画をどうやって知った?
その答えを彼はどう語るのか…
俺たちの見つめるその先で…
地球教の枢機卿…天草が不敵な笑みを浮かべている。
一度リズムが狂うとダメですな(´д`)
今月中にあと一本…無理かな…
書く気も失せる熱帯夜…
夏は本当に嫌いです。
Gも嫌いな十でした。




