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「上から目線的なアレですな。」

「老害とはまさにこのこと。」

「撃っちゃえば良かった。」


アルフヘイムに戻った俺たちは、すぐさまラグナロクの全冒険者を招集し、スポンサーであるユグドラシルと三星重工、そして第五火星のヴァルハラと通信を繋ぐように指示を出した。

一応これは極秘回線でということにはなっているのですが、それを管理しているのが鉄入ブラザーズなので、おそらく政府にも筒抜けでしょう…

全ての意識と知識を共有する兄弟の絆…恐るべしです。

政府にばれれば内通者もいるだろうから地球教へもばれるでしょうし、そんな事はお見通しの最高意思決定機関の黄金の林檎にもばれる…

もう泣いても良いでしょうか…


満員御礼となった冒険者管理局のメインホールには、地球教の教皇や天草への不満の声が、最早ひそひそ話しというレベルではない声量でこだましています。

メインホールの巨大モニターには、ユグドラシルに戻った徳川社長と三星重工の織田社長、エインヘリアルのO-103の三人が映し出される。

織田社長とO-103の二人の顔は、事前に徳川社長から報告が入ってはいたものの、まだ信じられないといった表情をしている。


死んだ人間が生き返る。


そんな実現するはずのない事が実現する…かも知れないのだから当然といえば当然かな。


「これはあくまでも地球教の希望であり、全人類がそれを望むかは分かりません。ですから我々も彼らとどこまで協力するべきか…そもそも協力する必要があるのかどうか…より慎重に協議して行かなければなりません。」

良し、決まった!

そう言いたげな表情で顔の前で両手を組む徳川社長は、依然として土方姿のまま頭に団結と書かれたハチマキを上下逆さまにつけている。

でもそれが場の空気を和らげるために、わざとやっている訳ではないという事が、チラチラ画面に見切れているネイの表情から伺える。


織田社長もO-103も徳川社長のソレには敢えて触れず、何やら考えこんでしまっている。

二人にも会えるものならもう一度…

会って話しをしたい人がいる。

会って見せたい景色がある。

きっと誰にだって、そんな人がいるんだよね。


「…もし彼らの望みを、俺が代わりに書き換えると言ったら、彼らは止まってくれるだろうか?」

空中をぼんやり見つめ、まるで独り言でもいうかのような俺の声にメインホールはどよめき立つ。


なるほど…マスターはどのみちソール恒星系を追い出されるのだから、危険な事は全てマスターに押し付けてしまえば良いのだ。

そうすれば彼らについてくる理由はない。

例え他に叶えようとする良からぬ企みがあったとしても、ついてくる大義名分もないのだ。

しかしマスターにしては良く考えたものだな!

本当にごく稀にだけど、お前はやれば出来る子だ!

よっ!マスター!カッコ良い!!


そんなのいらない…

悪意のない彼女たちの黄色い声が背中に突き刺さる。


「…地球教のシスターたちの信頼が得られれば可能かも知れません。ですが…」

間抜けな格好のままの徳川社長が顔を曇らせる。

信頼か…

確かに、このソール恒星系で初めての戦争行為を引き起こし、突然艦隊を引き連れてコロニーに乗り込んでくるような無法者を、どうしたら信用できる?

シスターたちに与えた俺の印象は、俺の本意では無かったとしても最悪だろう。

そんな人間に自分たちの大切な想いを託してくれるお人好しなんて、この世にいるはずがない。

自分で蒔いた種とはいえ…良し、もう泣こう。


「…なんでこんなことに…」

画面に映る織田社長は、ずっと眉間に寄せている。

ヴァナヘイムにあった護衛艦…それが全て宇宙軍仕様のものだったと報告したのもあるのかな?

つまりは三星重工製ということだから。

でもそれは三星重工から直接納品されたものではなく、政府に手を回し宇宙軍から横流しさせたもののようだ。

だけど結果だけを見れば、三星重工は彼らの戦力増強にも手を貸してしまった事になる。

知らなかったで済む話ではないかも知れないが、でも知らなかったのだから仕方がない。

だから三星重工に責任はないし、それを感じる必要もない。

でも、彼女の性格がそれを許さんようだね。


それにこんなことになったのは、俺にも責任がある。


彼らに夢を見させてしまった。

彼らに希望を与えてしまった。


第五地球に住む人間以外、その存在さえ認められていなかった人々に、俺は手を差し伸べた。

世界は変えられる。

それを強く望み、信じて突き進めば、やってやれない事はない。

でもそれは、もともとこの世界に存在した可能なこと…


「…しかし…そもそもなんですが、そんな事が本当に可能なのですか?この世界は…ゲームだったこの世界は、すでに終了しているのでしょう?」

ずっと黙っていたO-103が口を開く。

O-103が酒呑童子として守ってきた第五火星の人々は、ゲームに登場することは無かったが、この世界にもともと存在していた。

俺はただそれを認めさせただけ…だから出来た。


でも地球教の連中は、この世界に“存在しないもの”をデータを書き換えることで“存在するもの”に変えようとしている。


でもそのデータは、まだ残っているのだろうか?

O-103が言ったように、すでにゲームは終わっているのに…


慈善事業ではないソーシャルゲームの運営会社の収入源といえば、主にプレイヤーの課金にある。

だから収入の見込めない用済みとなったゲームはさっさと終わらせ、また新しいゲームを開発する。

しかし新しいゲームを作るにはそれを運用する為のサーバーの空きが必要になる…でも、そのサーバーは無限に増やせるわけじゃない。


だから…終わったゲームのデータは当然削除される。


「それは彼らも理解していると思います。たとえ削除されたデータでも、この世界の技術を用いればなんとか復旧できるはずです。…まあ、やってみない事にはなんとも言えませんがね。」

「…なるほど。」

「…彼らは私たちが何をしようと決して止まらないでしょう。…そんなことで揺らぐ決意ではないでしょうから。」

「…ではどうします?このまま彼らの同行を許すのですか?」

「彼らは止められない。それならこちらはその主導権を握るまでです。」

「…というと。」

「彼らより先に最初の地球の座標を手に入れます。」


「もう帰れちゃうの?!」

あっ…

つい…すっとんきょうな声で、徳川社長とO-103の会話に割って入ってしまった。

「あっ…いや、俺はてっきり…第四地球の座標から順番に探していかなきゃいけないと思っていたから…」

うろたえる俺を見てニッコリ笑った徳川社長は、ネイから一冊の本を手渡された。

それは古い日記帳。


これはシャマシュ恒星系から逃げ出すことが出来た、うちのご先祖が書き残した日記のその一部。

これにはソール恒星系に至るまでの、新天地を探す旅の出来事が書かれています。

何度も何度も危険なワープを繰り返し、新しい星を見つけては調査し、それがダメならまた新しい星を探す。

ここにはご先祖が体験した苦労話が、いくつも書かれています。


でもこれはあくまでも個人の体験談。


この程度の記録なら、探せばいくらでも出てくるありふれたもの。

ただ残念ながら、自分たちが何処から来たのか…その座標までは書かれていませんでしたけどね。


「…何が言いたいの?」

つかみどころのない徳川社長の話に、織田社長が口を出す。

「いや、個人でも自分に起きた出来事や、日々の歩みを記録として残すのです。それなら、集団をまとめる立場にある者も…人は何処から来て何処へ行くのか、何を犠牲にして何を得たのか…そんな人々の記憶を記録として残したはずです。」


あの船にならそれがある。


「…朔望月か…」

やっぱりそこしかないのかな…

この世界で一番のお偉いさんがいるあの船なら、確かにそんな記録もあるかも知れない。

「朔望月?…でも黄金の林檎がそれを知っていたとして、すんなり教えてくれるかしら?それに謁見申請に何ヵ月かかると思ってるの?」

織田社長はそう言って頭を抱える。

えっ?そんなに凄い人たちなの?

会いたくないんですけど…


「そんなもの直接乗り込んじゃえば良いのです!私はいつもそうしてますよ!意外となんとかなるもんです!」

鼻息も荒く得意げな徳川社長ですが…


それは君がアレだからじゃない?


「それに黄金の林檎も、元々は最初の地球の座標を教えるつもりだったと思います。」


目障りな害虫を殺さず、この世界から追い出すなら、それが一番確実です。←《害虫って俺のこと?》

でも地球教の存在がそれを難しくした。

第五火星の一件以来、いまだに追い出されないのはそのせいでしょう。


このまま本当の最初の地球の座標を教えては、この世界の不利益に繋がりかねない。

それならどうするか?

彼らにしてみれば、面倒な害虫は自分たちの知らない所で、適当にまとめて死んでくれた方が都合が良い。


「…嘘を教える。」

「それが一番簡単でしょう?」


いま冒険者管理局のメインホールにあるものは、冒険者たちの不満の声と舌打ちの音。

いまの彼女たちに、徳川社長の言葉に思わずついた俺の溜め息なんて聞こえない。


確かにそれなら自分たちの手を直接汚さずに済むし、この世界の人たちに気づかれる心配もない。

それに俺たちにしたって、教えられた座標が本物かどうかなんて確かめる術もない。


「ではどうするんです?地球教も抑えられない!黄金の林檎もあてにならない!それならどうやって座標を見つけるんです?」

珍しくO-103が声を苛立たせる。

そりゃあそうだ…嘘かも知れない場所に行ってもただ死ぬだけだし、かと言って世界に散らばる情報をのんびり一つひとつ検証なんてしてられない…


「ですから乗り込むんです。」


乗り込むんで奪い去れば良いのです。

彼らが秘匿する最初の地球の本当の座標を!


「バカ?!」←《言っちゃった!…》

君はヤカンか?…

俺の隣で会議の進行状況をメモしていた鉄入1192号は、頭から白い煙をピーピー出している。

「なんで私の前で言うのかな?私がそれを聞いちゃったら、兄弟みんなに伝えない訳にはいかないでしょう?まったく貴方は前々からちょっとおつむのネジがユルユルなんじゃないかと…プシュ〜…」

まだまだ言い足りないであろう秘めた想いを口にした鉄入1192号は、プルプル震えながらオーバーヒートでぶっ倒れる。

でもそれだけじゃない。

ホールにいるブラザーズも次々と倒れていく。


「…これで良い…皆さんどうかご心配なく!わざとです!気を失えば鉄入ブラザーズの情報伝達は行われません。」

…本当かな?…徳川社長はそう言うが、まだちょっと動ける鉄入1192号は、震える手で頭の電源スイッチを指差している。

すまんのぉ…

俺が電源を切ると、他の冒険者たちも同じように近くの鉄入くんの電源を切る。

…やれやれ…


「それでは、鉄入ブラザーズが目覚める前に作戦をお伝えします!まず…」

「その前にちょっと良いかな?」


おやおや、どうしたのかな?

この世界で一番のお偉いさんに盾突くのにビビっちゃったのかな?

徳川社長の言葉を止めた俺を、冒険者のみんながそんな目で見つめる。


「…え〜っと…その前に一つ、みんなに聞いて欲しい事があるんだ。」


俺は俺のいた元の世界に戻ります。

俺のいるべき場所はこの世界ではなく、俺のいた現実世界がそうだと思うから。

そこで生きていく事が、俺のあるべき姿だと思うから。


でもみんなは…君はどうだろう?…

ゲームのキャラクターとして生まれた君たちは、この世界こそがいるべき場所だ。

ここで自由に生きて、いままでずっと我慢してきた自分のやりたい事を自分の為に楽しむ。

それこそが君たち冒険者のあるべき姿だ。


だから…

俺と一緒に地球へ行くか、ここに残るか?


それをもう一度、君自身で決めて欲しい。

でもね。みんながそうするなら自分も…なんて事ではいけないよ。

君は君、君がどうしたいかだ…


先ほどまで騒がしかったメインホールが静まり返る。

モニターに映った三人も、ホールを埋め尽くす冒険者たちも、誰も一言も話さない。


このままがずっと続けば…そんなことも考えた…

でも、そうはならないから考えないと…

考えたくはないけれど…

きっと、みんなそうなんだろう。


でもみんなはもう、自分で答えが出せる。

そう願い、そう行動してきたつもりだから。


あとは俺自身が帰る準備をするだけだ。

朔望月への潜入作戦の概要を聞きたい所だが、徳川社長もどうしたものかと言いたげな表情でこちらを見ているだけ。


ちょっとタイミングが悪かったかしら?…









ギリギリ2月中_( _´ω`)_

来月こそ…来月こそがんばろう私!


リアルもいろいろ大変な十でした。



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