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043

俺たちの姿を写し出す磨き上げられた床。

そこに立ち並ぶ巨木のような巨大な石柱。

そこはこの世界で初めて見る異質な部屋。


荘厳…という表現がぴったりのその空間は、息をするのも緊張するほど鎮まり返っている。

ここはヴァナヘイムの中心部に近いフロアーにある教皇の間。

悪趣味とは言わないが、まるで中世の大聖堂を思わせる薄暗いその空間の中央には、ホログラムで映し出された俺の良く知る、この世界で最初の地球と呼ばれる星が浮かんでいる。

この世界では、すでにその場所を示す座標は失われ、現在では僅かな映像と、おとぎ話のような文章だけが記録として残されている母なる星。


これがこの世界の人々が知っている最初の地球のすべて。

そこにどんな国があって、どんな人が暮らしていたか…何も知らない。

知っているのは、たったこれだけ。


そんな星に、いったい何を求めるの?


「少々お待ちください。」

俺たちを案内してくれた初老の男は、そう言って部屋を出て行った。

やれやれ…といった表情でした。

まあ、それも当然か…


今でこそ落ち着きつつあるこのヴァナヘイムも、ラグナロクの艦隊が周辺宙域のゲートから現れた時には大混乱でした。

枢機卿の天草から招待されたとはいえ、それはあくまで口頭で、正式な招待状を貰った訳ではありません。

それに事前の連絡もなく、突然完全武装の艦隊を引き連れて現れては当然そうなりますよね。


「お邪魔します。」

殺到していた抗議の通信を、みんなは軽く無視して知らせてくれなかったものだから、俺は出迎えてくれた顔面蒼白の初老の男に、のん気にそう言ってしまった。

ヴァナヘイムの宇宙港に入港したのはヘイムダルと徳川社長のシャトルだけ。

他には200隻のギルド艦が、宇宙港に停泊しているヴァナヘイムの護衛艦の進路を塞ぐように宇宙港の外で待機し、残る800隻のギルド艦はヴァナヘイムの外側で砲口をこちらに向けている。

おそらくこんな事は地球教誕生以来、初めての事でしょう。

顔を引きつらせながらも精一杯の笑顔を作る男の他にも、大勢のシスターたちが集まってくる。

どの顔も不安に満ちていて、それを見た俺は申し訳なさでいっぱいでした。


「教皇猊下にお目通り願います。」


皆さんのお気持ちなど意に返さない徳川社長が初老の男にそう告げると、男は今いるこの部屋に通してくれた。

俺と同行したのは徳川兄妹とネイ、そして護衛役としてついてきたアップルと妹ズのみ。

ミルフィーユたちも同行を願ったが、さすがにこれ以上人数が増えると、あの初老の男が気の毒だからね。


それに護衛役ならアップルたちで十分すぎる。

バトルドールの戦闘班である彼女たちは、普段はヘイムダルの艦内警備を担当している武闘派ぞろい。

教皇の間に入る時のボディチェックで、アップルたちが隠し持っていた銃などは没収されたが、素手による戦闘でも、あのミルフィーユがまったく歯が立たないほどなんだとか…


そうならない事を祈りましょう…


しかし…

ヴァナヘイムに着いてからこの部屋に来るまでの間…俺は妙な違和感を感じていた。

それは、ここまでいくつも通過してきたフロアーのどこにも、いつもいるあいつがいないということ!

それは、鉄入ブラザーズ!!

いや…それだけじゃない。デミヒューマンや他のアンドロイドの姿もない。


「父は彼らを亜人と蔑み嫌っていますからね。」

お察しいただきありがとう。

徳川社長はそれっきり一言も話すことなく、映し出された最初の地球を見つめている。

嫌いか…

石を投げれば鉄入に当たる!という言葉があるかどうかは知らないが、この世界の総人口のほとんどはアンドロイドの鉄入ブラザーズが占めている。

そしてその鉄入ブラザーズを生み出したのは、この世界屈指の大企業ユグドラシル。

そのユグドラシルの先代社長である地球教の教皇が、自分たちが生み出した鉄入ブラザーズを嫌いとはね…


鉄入ブラザーズは会社を大きくする為の商品であり、従業員という名の道具でしかない。

売れる良い商品とは、その時顧客が一番欲しくて、購入条件と状況を満たす顧客の都合にあった商品だ。

顧客がそれを望むなら、それが作り手にとって必要だろうと無かろうと、好きだろうと嫌いだろうと関係ない。

売れさえすればそれで良い。

それが先代の考えだったと徳川社長は言っていた。

大企業の社長ともなれば、そういった人もいるだろう。

でも好きになれないな…


それではあまりに心がない。

それでは機械と変わらない。


それなら…大好きな人のために涙を流し、自分の在り方に悩んでいる、鉄入くんやアップルたちの方がよっぽど人間らしい。


映し出された最初の地球を見つめながら、そんな事を考えていると、アップルたちが俺たちの周りを取り囲んだ。

何もない…音も…空気の振動も…何も…

何事かとアップルに問いただそうとしたその時、奥の扉が重苦しい音を立て開いていく。

そこから現れた二人の男。

後ろを歩く男は枢機卿の天草。

そしてその前を歩く白いローブを着た男が地球教の教皇…徳川兄妹の父親…徳川武夫か…


「おやめなさい。」

教皇は何もない空間を見つめながらそう言った。

すると何もなかったはずの空間が少し歪曲し、七人の…身体にぴったりフィットしたなんともけしからんボディスーツに身を包み、髪型をこれまた素敵なポニーテールにした若いシスターたちが現れた。

それはアルフヘイムに天草と一緒にやってきたシスターたち。

彼女たちもサイボーグ…

あの時はフードと髪で良く分からなかったが、七人ともまったく同じ…まるで作りものの人形のような顔…

アップルたちは彼女たちを警戒していた訳か…


「申し訳ありません。お客様をもてなすよう言っておいたのですが、誤解をさせてしまったようです。」

「いえ。こちらこそ急に、しかもこんなに大勢で申し訳ありません。」

シスターたちが壁際に下がると、教皇と天草が近づいてくる。

「懐かしい…そう思われていたのではありませんか?」

「…私は直接この目で、宇宙から地球を見たことはありません。私も貴方がたと同じように映像でしか地球を見たことがありませんし、その映像を見続けてきた訳でもありません。ですから、この映像を見ても何も感じませんし、この映像の地球が私のいた地球と同じものかは分かりません。」

…少し嫌味だったかな…

そう思ったが、俺のとなりに立ち顔色ひとつ変えずに地球を見つめている教皇には、どうやら通じていないみたいだね…

徳川社長に聞いていた通り、教皇の話す声やその姿は二人の父親というには若すぎる。


嫌いなはずのアンドロイドと同じ機械の身体にその身を変えてまで欲しいものが、俺のいた世界にあるのかな…


青い海や大陸の位置…

見たところ、映し出された映像は地球そのもの。

これがいつ記録されたものかは分からないが、大陸には都市や巨大な建造物も存在する。

でも…


「…もし仮に、この星が俺のいた地球だったとしても、もうそこには誰もいないかも知れません。この世界は俺のいた時代より数千年の時が過ぎている。」

「…そう設定に書かれていた…ですか?」

「…ええ。」

「この星に行けたとしても、貴方のいた世界には戻れないかも知れない?」

「…。」

「…では、貴方はどこからこの世界に来たのですか?…貴方のいた世界とこの世界を繋ぐもの…貴方のいた世界にあって、この世界にもあるもの…それはこの星しかない…それなら、試してみる価値はあるのではありませんか?」

「…試す?」

「…この世界に存在するとされる最初の地球とは、貴方のいた世界とこの世界とを繋ぐゲートのような存在だと私は考えます。…今はそれが閉じているだけ…それをまた開くことさえ出来れば…この世界を作り変える事ができる。」

「作り変える?…」


教皇は映し出された地球に手を伸ばすと、それを掴むように手を握る。

「…あんたは何がしたいんだ!?」

それまで黙っていた徳川社長が教皇に向かって詰め寄ると、掴みかかるように手を伸す。

しかしその手は一瞬で駆け寄ったシスターのひとりに阻まれ、徳川社長は呆気なく拘束される。


「…作り変えるって何?」

お兄ちゃんよりは冷静な妹は、アップルの背中に隠れながらそう言った…

やっぱり連れてこない方が良かったのかしら…


「ニーベルング…」

「…?」

教皇は床でもがいている徳川社長や、それっきりアップルの背中から顔を見せない梓を見ようともせず、静かに振り返ると俺を見つめる。

「貴方はこの世界がゲームだった時、死んだことはありますか?」

「…えっ?」

「貴方だけではありません。他のプレイヤーや、貴方がたがサポートキャラクターと呼んでいたものたちが死んだことはありましたか?」

「…ありません。」

「…設定上では、この世界の人間は死んでいたのに…不思議に思いませんでしたか?」


…そう…この世界がまだゲームだった時、プレイヤーやその仲間たちが死ぬことはなかった。

エネミーにやられバトルドールやギルド艦が破壊されても、冒険者が死亡したなど表示されることもなくコロニーに転送されて終わり…それなのに…


「人は死ぬんです。決して死ぬことのなかった貴方たちも、この世界で現実の存在となったあの瞬間から、それは適用されるようになった。そして、死んだ人間は二度と蘇らない…ニーベルングとは違ってね。」

「…。」

「宗一郎たちが作ったあのゲームにも死は存在する。だがあのゲームには死んだ人間を生き返らせる方法がある。…同じゲームなのに不公平だとは思いませんか?」


「この世界に死者を蘇らせる方法を作る…それが貴方の望むことですか?」


そう聞いた俺の問いに、教皇は口を閉ざし答えようとしない。

代わりに口を開いたのは、それまで一言も話さなかった枢機卿の天草だった。

「それだけではありません。この世界のプログラムを書き換えることで、この世界から老いや死の概念そのものを消してしまう事だって可能です。そうすれば人に寿命は無くなり、例え事故などで死んだとしても、いつでも好きな時に生き返らせることが出来る。死という存在を知らなければ、そこに倫理観なども生まれず、生き返るのも生き返らせるのもそれが当たり前の事となるでしょう。」

「…みんながそれを望むとは限らない。」

「もちろん強制はしません。それを選ぶのは個人の自由です。私たちはただ、それを用意するだけ…」


「…それを用意する為だけに、そんな身体になったんですか?」


そんな…その言葉に天草は眉をひそめる。


いけませんか?


いままで私たちは多くの命を失ってきた。

それも死んだらそれっきりの…しかも死ぬ必要が本当にあったのかさえ分からない命がです。

彼らは何故死んだのか…

それはこの世界を作った貴方のいた世界の人間が、設定にそう書き込んだから…

それはプレイヤーである貴方たちが、そんな世界観を望んだから…

だから彼らは殺されたのです。


そしてこの世界も殺された。

これ以上続けてもプレイヤー数が戻ることはないから…

これ以上続けても運営の利益に繋がらないから…

だからこの世界は捨てられた。


全て貴方たちの都合でね。


だったらもう、貴方たちにこの世界は必要ないでしょう?

だったらもう、私たちの好きにさせてはくれませんか?

奪われることしか知らなかった私たちが、初めて勝ち取る力なんです。


それを邪魔する権利がありますか?

この世界からいなくなる貴方に…

この世界を捨てた貴方の世界に…


どうせ終わったゲームのことなんて、すぐに忘れてしまうのに…


貴方のいた世界を目指す者は皆その身体を機械化しています。

例え傷ついても失っても、何度でも交換ができて、用途に合わせて改修できるこの身体でなければ危険な宇宙へは行けませんから。

この身体は私たちの覚悟です。

この身を捨ててでも失ったものを取り戻す為に…これからはみんなが笑って生きていけるように…


貴方も、貴方の救えなかった者たちに、もう一度チャンスを与えたいと思いませんか?


…あの子たち…

そう…それが叶えば、あの子たちも生き返る。


もう一度、あの楽しかった日々を取り戻したいと願いながら…

もう一度、自分たちのマスターが戻ってきてくれるのを待ちながら…

たった一人で、何も分からないまま、死んでしまったあの子たち…

目の前で消えていく仲間たちを、何も出来ないままただ死を待っていたあの子たち…


例え肉体や全ての部品が失われていようと、それでも復活できるよう設定さえすれば…


そこまで考えて思考が止まる。

正確にはアップルに頭にゴチンっと一発貰ったからだが。

「言いくるめられてどうするんです!」←ありがとうございます!


「現実が終わりのないゲームのようになって面白いですか?」


黙って話しを聞いていたアップルはそう言うと、俺の頭に出来たたんこぶを優しく撫でる。


世界に死がないのなら、生きていたってダレるだけ。

生きる為に働くことも、戦うことも必要ない世界…

それを冒険者の私たちが望むと思いますか?

死んでしまったあの子たちが…世界の終わりを知りながら、それでも精一杯に生きたあの子たちが、そんな世界に生き返って喜ぶと思いますか?


世界も人も終わりがあるから面白い。

終わりがあるから、今を生きる楽しさがある。


何もする必要のない世界に、本当に生きる意味がありますか?


「…そうですよねマスター?」

「…うん、そうね…もちろん、俺もそう言おうと思っていましたよ。」


「機械に何が分かる。」

天草は苛立ちを抑えるように乱れた髪をかき上げる。

「確かに…使う側の人間が廃棄を決めない限り自分で終わりを決められない私たちアンドロイドが言えた義理ではありません…ですが、だからこそ…人が私たちのようになる必要はないんです。」


肉体を捨て機械の身体となった天草はアップルを睨み、心を持ったアンドロイドのアップルは天草を見つめる。

人と機械の違いは、そこに心が有るか無いかだと思っていた。

でも、どちらにも心があるのなら二人の違いは何だろう?


それは考え方と想いの違いなんだろうか…


俺はヘラヘラと笑いながら二人の間に割って入り、びくともしないアップルをそれでも何とか押し戻す。

アップルにも天草にも、それぞれ譲れぬ想いがあるんだろうね…

しかし天草たちのいう死者の蘇生はともかくとして、プログラムの変更が可能というなら、それは決して悪い話じゃない。

俺にも変えられるなら変えておきたい設定がある。

それは人間と亜人の違い。

アンドロイドにも人間と同じ心があるこの世界なのに、亜人はいつまでも道具のまま。

それを同じ人類だと、この世界の全てに認めさせたい。

…でもそれは第五火星の時とはわけが違う。

それはこの世界の人間だけじゃなく、亜人のみんなの考え方を変えなきゃいけないから。

口で言っても分かってくれない。

どんなに願っても、それだけは認めてくれない。

それはもう設定を変えるしか方法がないくらいに…


強引で大きなお世話…かも知れない。

でもそれが叶えば、俺も安心して旅立てる。


まあ、地球教の目的がそれだけならの話だけどね。






明けましておめでとうございます!

ヾ(*ΦωΦ)ノ ヒャッホゥ

明けちゃった…

12月中に更新できず…

次はどうなる事やら…ではそんなわけで!


年明けももちろん仕事の十でした。


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