038
あいつらどれだけ課金してるんだ?
運営もグルになってるんじゃないの?
我がもの顔で偉そうに!
ニーベルハイムの遥か北。
霧の谷と呼ばれる巨大な渓谷には、深い霧に覆われた古代樹の森が広がっている。
森の中には不死の王ノーライフキングを頂点としたアンデッドがひしめき、暗雲が立ち込める上空にはエルダードラゴンを引き連れたエンシェントドラゴンが支配している。
俺たちの目的は、この森の何処かに現れる迷宮の入り口を探し出し、現在配信されているものの中でも最難関と言われるクエスト〈霧の谷の迷宮〉を完全攻略すること。
これまでにも幾多のパーティが合同のレイドチームを編成し、数ヶ月をかけこのクエストに挑戦しているが全て途中で全滅している。
今まで彼らが到達しえたのは第五階層まで。
運営会社の社長である下僕さんの話では、この迷宮は全部で十階層からなっている。
でも教えてくれたのはそこまでで、そこから先の迷宮の仕掛けや現れるモンスターの情報は、俺たち自らの手で短期間に探し出さなければならない。
ラグナロクから集まった冒険者は、いまこの森やその上空に展開し、迫り来る敵を掃討しながら迷宮の入り口を探している。
俺たち貧乳はステータスを含む31パーティ186人と、机上登山部の4人を合わせた190人からなる合同レイドチームは、森の外側にある小さな村の中に人目を避けるように待機している。
村の外には獅子頭をマスターとしたギルド〈ラグナロク1〉のメンバーおよそ1000人が、近づこうとする一般のプレイヤーを、時にはPKで殺害しながら排除している。
これがみんなの役割り…
出現する敵は全滅させても、この霧の谷なら雲の切れ間や森の中心にある廃墟とかした暗黒神殿から、時間の経過とともに再び出現するようになっている。
だからこの森は高レベルのプレイヤーにとってはレベル上げに丁度良い格好の狩り場というわけだ。
そんな狩り場のひとつを独占し、誰にも邪魔をさせずに霧の谷の迷宮の最初の攻略者となる…
大金を使い高額なアイテムを湯水のように消費し、誰にも真似が出来ない程の人数を集めて攻略する…
一般のプレイヤーにだって、この迷宮の最初の攻略者となることを目標にしている人もいる。
それなのにそれを無視して自分勝手に、言い訳や目的を話す訳でもなく、ただ自分たちだけが満足するために…
それが、俺たちのやろうとしていること…
それはあいつと同じ…
俺が…ズルくて汚いと思ったやり方…
そしてそう思うのは、この世界の人間も同じみたいだね…
アルフヘイムの冒険者管理局やユグドラシルのサポートセンターには、匿名の抗議のメールが殺到している。
でもそんな行動に出るのはユーザーのごく一部で、ほとんどの者はその不満を世界中に拡散している。
この世界からしてみれば、その声はとても小さく細やかだけど、ラグナロクの在り方やその力に不満を持つ者たちにとっては都合が良かったようだ。
たかがゲーム…
だけどラグナロクの富と力は、この世界を支配しえる可能性を秘めている。
宇宙マンボウの脅威から世界を救った冒険者たちの信頼と評価は、そんな連中の思惑によりゆっくりと冷たいものへと変わっていく。
でもそれでも良い。それで上等。
自分勝手な欲望の果てにあるのが自滅だけだったとしても、自らの行いに大義なんていうご立派なものが無かったとしても、その目が希望ちゃんに向かわないように、全ての批判をその身に受ける覚悟がある者だけがここにいる。
霧の谷の迷宮に刻む名前は希望ちゃんのものだけで良い。
ラグナロクの冒険者が作ったどのギルドにも所属しない俺たちが、彼らを出し抜き攻略を果たす。
それが村で待機する俺たちの計画。
ここまでやっておきながら、無名のプレイヤーたちに先を越されたとなれば、ラグナロクも良い笑いものだ。
だから下僕さんはそう見せかける為に、俺たちとラグナロクの冒険者とのこれまで全ての会話履歴などを消去し、一般ユーザーには決してバレないように、俺たちはラグナロクとは無関係であるように工作をした。
希望ちゃんの名前だけは汚さぬように。
貶され笑われるのはラグナロクだけであるように。
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希望:…でもやっぱり申し訳ないです。私の名前だけなんて…
下僕:ボス部屋に入れるのは最大で24人までですから全員の名前は残せません。それなら我らの盟主たる希望ちゃんの名前だけの方が、みんなも納得するんです。
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最初の攻略者の内、そこに名前を残すにはある条件がある。
霧の谷の迷宮なら、それは各階層にいる全てのボス攻略に参加すること。
だからメンバーを入れ替えながら攻略すれば、希望ちゃんの名前だけをこの迷宮に残すことが出来る。
程なくして霧の谷を覆っていた霧と暗雲は晴れ青空が広がる。
これは渓谷すべてのモンスターが討伐された証し。
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下僕:さて、それでは参りましょう。
暴君:その前に希望ちゃん!みんなに一言お願いします!
希望:うん!…私のわがままに付き合ってくれてありがとうございます…嬉しいです!…私…がんばります!
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拍手のなか希望ちゃんは溢れんばかりの笑顔をみんなに向ける。
希望ちゃんは俺たちのやっている事を知らない。
希望ちゃんにとって、このゲームの中だけは優しい世界のままであって欲しい。
だから教えるつもりもないし、知る必要もない。
嘘も方便なんて言うつもりもないが、彼女を騙してでも進めなければ間に合わない。
だから彼女は彼女のままで…
格好悪いのは俺たちだけ良いんだから…
このゲームを楽しむみんなから嫌われるのは、残される俺たちだけで良いんだから…
村の入り口に〈ラグナロク2〉のギルドマスター東映が一人でやって来た。
手にした剣や全身を覆うフルプレートの鎧は酷く傷つき、見た目はまるでゾンビのようだ。
東映は無言のまま目で合図をすると、俺たちを村の外へと誘導する。
迷宮の入り口は発見された。
ここからやっと俺たちの出番だ。
◆
霧の晴れた森の入り口には、ラグナロクの冒険者たちが列になり俺たちを待っていた。
希望ちゃんは一人ひとりにお礼を言おうとするが、そんな時間はないし、誰もそれを望んでいない。
彼らの役目は俺たちを安全に、消耗させることなく迷宮の入り口に送り届けること。
ただそれだけ…
だからこちらが何を言おうと答えない。
答えれば履歴が残り、自分たちとの繋がりが生まれる。
答えさえしなければ、何を話しかけられても自分たちとは無関係で入られる。
だから無言のまま、笑顔で手を振りながら俺たちを見送った。
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希望:…。
下僕:みんなもさすがに疲れているんですよ。お礼は全てが終わってからです。
希望:…うん。
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迷宮の入り口に辿り着くと、東映は自分の持ち場に戻っていった。
東映たちは上空や暗黒神殿で待機し、時間の経過で再び出現するモンスターに対応するため待機している。
それはこの迷宮の入り口で待機することになる仲間のために。
ニーベルングの迷宮には、中に入れる人数は最大で100人という入場制限がある。
だからここに集まるメンバーの内90人は、ここで待機しなければならない。
彼らは迷宮内でアイテムを使い果たし用済みとなった仲間たちとの交代要員。
俺たちはトレードで特殊アイテムをかき集めている。
それはレベルの上限を超えて力を引き出すアイテムや、一度に全員のHPとMPを全回復させるアイテムなどのゲーム中でたった数個だけ手に入る、いくら課金しても二度と手に入らない希少アイテム。
こういったアイテムは、いつかの為に大事に取っておいて結局最後まで使わずに終わることが多い。
だからみんな、今がその時だと言って喜んで全てを差し出してくれた。
それを今回すべて使い切る。
対ボス戦だけじゃなく、そこに至る道のりでも使用すれば、きっと間に合う…
迷宮に突入した先発隊を含むメンバーは、貧乳はステータスとアイテム倉庫係の机上登山部、そして護衛の二つのパーティを残して迷宮の奥へと消えていく。
先発隊と後発隊それぞれ15パーティ90人の役割は、俺たち貧乳はステータスの護衛や迷宮内のモンスター討伐だけじゃない。
程なくして発見された第一階層のボス部屋に最初のチーム24人が突入する。
だが彼らはただボスにダメージを与えるだけ与えて全滅することになる。
全滅したチームの死体は、通常ならどの階層に居ようと迷宮の入り口に転送され、リーダーのみHP1で復活する。
でもボス部屋で全滅したチームの死体ならボス部屋の扉の前に転送されるだけで済み、すぐにリトライすればボスのHPは全回復しない。
そこで次のチームが代わりに突入し、またそれを繰り返す事でボスのHPを削るだけ削る。
そして最後に希望ちゃんを含めたチームがトドメを刺す。
これを最後のボスまで繰り返す。
彼らの役目はこれだけ。
ただ希望ちゃんを安全にボス部屋に運び、ただボスのHPを削ることだけ。
どのパーティがいつどの順番で突入するかも分からないし、ボス討伐に参加し報酬を獲得できても回復などの消費アイテムは分配できるが、武器や防具はトレード不可のものがほとんどなので、参加したメンバー内で装備できなければ持ち出すのは諦めるしかない。
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山ガール:実は私たちダンジョン攻略初めてなんです。ですんで、いろいろご指導下さいね。希望先輩!!
希望:先輩!?……私についておいで!!
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でも…これで攻略したことになるのかな?
これで…希望ちゃんの夢を叶えることになるのかな?
確かに名前は残せるけど、そこに達成感はあるのかな?
時間がないことを言い訳にして、みんなそれを考えないように、口にしないようにしているけど、誰もこれが正しいなんて思っていない。
悔しい…
もっと良い方法があったかも知れないのに…
偉そうにしていても、小さな女の子の大きな夢を、俺たちはこんな形でしか叶えてやれない…
ボス部屋の扉をくぐろうとした希望ちゃんは、振り返ると俺たちに笑顔を向ける。
ありがとう…私を仲間に入れてくれて。
ありがとう…みんなは私の大切な友達。
ありがとう…だから…大丈夫だよ。
分かっているから…全部…知っているから。
ダメな私を助けるために、みんながどんな思いをしているか…
だから…それでも良いです…みんながいるから!
だから…がんばるね…みんなのために!
だから…最後まで私を見ていて下さい!
希望ちゃんは頭を下げると扉の中へ駆けていく。
それと同時にボス部屋の扉は閉じ戦いが再開される。
助けるための俺たちが、逆に助けられるとは思わなかった。
これまでも…彼女の言葉に、彼女の笑顔に、思えば何度も救われてきた。
それなのに…俺たちは何のお返しも出来ていない。
だから始めたんだ…たとえ間違えたやり方でも…
希望ちゃんとの思い出を、忘れず胸に刻む為に。
何をどう繕おうと所詮俺たちはただの偽善者なんだろう。
だけどそれで大いに結構。
だってもう彼女を知ってしまった。
彼女はもう他人ではなく、俺たちの大切な仲間で、大切な家族の一員。
だから今は突き進もう。
この世界に小さくても良い…彼女の想いを残せるように…
◆
霧の谷の迷宮第五階層
ここは幾多のモンスターハウスを魔方陣で転移しながら移動することになる不完全ながら攻略情報のある最後の階層。
二つ以上の階層分はあると思われる天井は高く、上の方は霧に霞んで良く見えない。
出現するモンスターはどれも高レベルのものばかりで、俺たちは何度も全滅を繰り返しながら、やっとの思いでボス部屋の前まで辿り着くことが出来た。
第五階層のボスは、巨人族の最上位〈エンシェントジュイアント〉の名は〈ファーゾルト〉
第五階層のボス部屋は円形の巨大な闘技場のようになっている。
ここではファーゾルト以外にも、二体のボス級のモンスターが時間の経過と共に次々と出現する。
最初に出現するのはノーライフキング、次にエンシェントドラゴンと、迷宮の外に広がる森に出現した強敵だ。
ここまでは順調に来れた。
でもここは違う。
この霧の谷の迷宮に名を残すにはファーゾルト以外の二体の攻略にも参加していなければならないのだが、三体が出現するのを待ちギリギリまでHPを削ることが出来たとしても、リトライ後に現れるのはノーライフキングのみで後から出現する残る二体はHPが全回復した状態に戻ってしまう。
つまり二体のボスは自力で攻略しなければならない。
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希望:大丈夫です!いよいよ私の真の力をお見せする時が来ただけです!やりますよー!
暴君:まあ最悪、千葉県の秘薬からのミスリルゴーレムの自爆攻撃もあるし、平気じゃないかな?
千葉県:あれから研究してアレ以上にやばい極上のアレをご用意してます!
民号:暴君さん亡き後は私にお任せ下さい!
希望:蘇生アイテムの不死鳥の羽もいっぱいありますから、ガンガン逝って下さい!
〼田:…。
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いつも通りの楽しい会話。
ずっと続くと思った時間。
これが最後なんて思えないほど、みんな明るく笑っている。
でも、言葉では言い表せない胸の痛みがみんなにもあるはずだ。
それでもみんな笑っている。
仲間の最後をとびきりの笑顔で飾れるように。
仲間の最後に自分たちの笑顔が残せるように。
たとえ誰かに理解されなくても今この瞬間の一つひとつが、俺たちにとってとても大切な時間なんだから。
ノーライフキングのHPを削ったチームが全滅し、扉の前に転送されてきた。
希望ちゃんを先頭としたボス攻略チームは、手にした武器を高らかに掲げ、掛け声と共に走り出す。
ここに第五階層ボス攻略戦が開始された。
9月です。
投稿を始めて早一年…
まだこれだけか…꒰꒪д꒪|||꒱
何年かかるのかしら…
でも最後まで書こうとは思う十でした。
当たり前か…




