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━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・

御隠居:フハハハハッ!これが課金の力か!

下僕:喜んでいただけて幸いです!

〼田:お前が犯人か!

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止められなかった…

また一人、この底なし沼に…

御隠居さんは、沼にすっかり首まで浸かり、課金プレイを堪能している。

ニーベルングでは、プレミアムパックと呼ばれる拡張パックを購入することで、アイテムの所持数増加や倉庫の利用、アイテムのトレードや通常より強力なプレミアムアイテムの購入などが可能となる。

機能を拡張することで、さらに難易度の高いクエストにも挑戦できるが、クリアするにはさらなる課金が必要となり、我々ユーザーは運営会社であるユグドラシルに心まで支配され、搾取され続けるのだ…


こんな妹が欲しかったという下僕さんは、孫にお小遣いをあげるお爺ちゃんのようにアイテムや現金を送り、下僕さんという太すぎるスポンサーを得た御隠居さんは、快進撃を続けている!


━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・

暴君:あとは移動用の騎乗生物でも買ったらどうだい!

御隠居:騎乗生物ですと!?

暴君:課金して購入できるのは地上用の軍馬とかだね。

御隠居:ほほう。しかし地上用があるのなら、他にもあるのですかな?

千葉県:他にも飛行用のペガサスとかありますよ!

民号:でもそういうのは上位クエストの報酬ですね。

〼田:…お金は計画的に使わないと…それにもうお小遣い無いでしょう?

下僕:ご安心下さい!既に御隠居さんの口座に入金済みです!

御隠居:お兄ちゃん大好き!

下僕:世界の全てを君に!!

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・


さて、情報交換が当初の目的だったこのゲームも、いまでは皆すっかりハマり普通に楽しんでいる。

入ってくる情報も特に目新しいものは無く、植村が取ったこの世界での行動は、依然として掴めない。

しかしこのソール恒星系に人類がやって来たことが実際にあった事柄だとしたら、そこを辿ることさえ出来れば、最初の地球へ帰れるはずだ。

そこでまず調べなければならないのが、第四地球があったとされるシャマシュ恒星系の座標なんだけど…

そもそもこのシャマシュ恒星系という名前は、設定のどこにも載っていない。

でも冒険者のみんなや、この世界の人類がその名前を覚えているのは、ゲーム時代にそれ絡みのイベントがあったから。


それは一部の宇宙軍兵士による武装蜂起。

星喰の脅威から逃げることしかしないこの世界の指導者たちに対し、宇宙マンボウさえ倒せるようになった戦力をもって最初の地球の奪還を掲げた彼らはクーデターを起こした。

クーデターは政府の依頼を受けた冒険者によりわずか五日で鎮圧されたが、イベント終了後のエピローグの一文にキーワードとしてシャマシュ恒星系の名が登場した。


宇宙軍兵士が用いるサイボーグ技術は、元々シャマシュ恒星系第三惑星〈第四地球〉で生まれ発展した技術というもの。


当時はこの名前が出た事で、今後ゲームのフィールドが拡張されるのかと思ったがそのような事もなく、それ以降この名前が登場する事もなくなった。

そしてこのイベントが行われたのが、運営が別の会社に変わる少し前…

植村たちが旅立つ少し前…


このイベントで、何か知ったのかな?


実はこのイベントのクーデターを起こした宇宙軍兵士には生き残りがいる。

それは第五火星のエインヘリアルにいたサイボーグの元宇宙軍兵士たち。

難を逃れた彼らは、諭吉たち第五火星の人々に匿われ、そのまま彼らに協力するようになったんだそうな。

彼らにも当時のことを聞いているが、サイボーグだからといってシャマシュ恒星系の座標を知るはずもなく、下級士官だった彼らは作戦の詳しい内容までは聞かされていなかった。

ただ、上官たちが口にしていたのが朔望月。

その名を何度も聞いたという。


朔望月といえば、月の代わりに第五地球を回っている、人類をここまで運んだ船。

現在この世界の指揮をとる黄金の林檎が住まう船。

確かにそこなら何か情報があるかもね…

でも会いたくないね〜…

徳川社長に話を聞いたら若干引いてたし、そんなお偉いさんと会うとなったら緊張して吐いちゃうかも…


でも…もし仮にそれらの座標が分かったとしても、それは今もそこにあるかしら?

設定には、人類が最初の地球から旅立ってから数千年とある。

宇宙は膨張を続けているだろうし、星は絶えず移動している。

いまこのソール恒星系の中でさえ、星の動きを観測し計算しながら移動しているというのに、今もそこに存在するのかさえ分からない場所に行って良いのかしら…


━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・

〼田:…。

御隠居:〼田さん!そろそろ時間ですよ!

千葉県:これから何かあるんですか?

御隠居:今日は地球教のシスターと会う日なんです。

民号:そうですか。それじゃあ今日はこれでお開きにしましょう!

千葉県:御隠居さん!〼田さんの事よろしくお願いしますね!

御隠居:お任せ下さい!〼田さん!迎えに行きますから、ちゃんと起きてて下さいよ!

〼田:…大丈夫です!もう支度は済ませてあります!

暴君:それじゃあみんな、また明日!

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・


ヘッドマウントディスプレイを枕元に置き起き上がる。

さて急がんと…希望ちゃんが来てしまう!

まずは…お風呂に入って、髭を剃って、歯を磨いて…忙しくなってきたぜ!



Abashiriの中央にある湖の真ん中には小さな島があり、そこにはレンガで造られた教会が建っている。

ここでは月に一度、地球教のシスターがやって来て、最初の地球で起こった歴史の話をしてくれる。

でもそれは俺が過ごした現代の地球の話では無く、可能性の一つであって欲しい未来の話。


人々は戦争を繰り返し、地球は核の灰に覆われる。

わずかに生き残った人々は地下に造られたシェルターでの生活を余儀なくされ、迫り来る終わりの日をただ神に祈りながら待つしかなかった。


そこに現れたのが、謎の黒い箱。


箱は人々に生き延びる為の知恵を与え、汚染された地表を浄化していく。

箱に救われた人々は箱を神と讃え、与えられた知識を持って世界を復興し、その生息圏を太陽系全体へと広げていった。


だがその繁栄も長くは続かず、箱から与えられた力を自らの力と過信した一部の悪しき心を持った者たちは、再び世界に戦争を引き起こす。

それは全ての富と力を独占するために…


すると黒い箱は、人々の前から忽然とその姿を消し、代わりに姿を現したのが星喰だった。

宇宙を埋め尽くす星喰の群れは、人々を飲み込み、人々が築き上げた文明を根こそぎ奪い去っていった。


ただひとつ、正しき心を持った者たちを乗せた箱舟を残して…


…とまあ、安っぽいベタな設定の話だが、多少の脚色は有るものの、これはこの世界で起きた真実の物語。

だってゲームの設定にそう載っているから。

これ以外にも設定に載っていない人々のその後の冒険譚や、指導者たちの英雄譚など創作された物語もたくさんあるが、いまのこの世界ではどれもただの作り話と決め込む訳にはいかないだろう。

おとぎ話のような話でも、その元となった出来事があるかもしれないからね。


シスターが話してくれるお話はたくさんあるが、場所を特定するような表現などはどれも曖昧で、訪れるシスターによっても微妙に変わる。

特に今日訪れた、希望ちゃんも初めて会うという若いシスターの言葉には、どこか狂信的なものを感じ、彼女の信じる最初の地球はまるで神様の住む理想郷のようだ。

黒い箱は今も地球で、私たちの帰りを待っている。

そして、正しい行いをした者のみ、地球へ向かい入れてくださる。

そう言って顔を上気させる彼女は、家族を連れ去られた被害者ではなく、地球教の教えに共感し入信した一人なんだとか。


それと今日はもう一人…

壁際の席に座り、こちらを笑顔で見つめる白いローブを着た男がいる。

30手前と思われる男は、まだ青年と言っても通用するほど若々しく、美しい装飾が施された白いローブは、いかにも地球教のお偉いさんだと言わんばかり。

苦手だ…こういう人苦手だ…

シスター以外の人間が訪れることのないこのAbashiriに人間の男。

絶対何かあるに決まってる!


まるで歌でも歌っているかのようなシスターの話が終わると、白いローブの男は拍手をしながら立ち上がり、それを合図に頷いたシスターは希望ちゃんを教会の外に連れ出した。

逃げたい…なんで俺なん?


白いローブの男は、先ほどまでシスターが座っていた俺の前の椅子に腰かけると、そのまま黙って俺を見つめる。

勘弁してけれ…


「…なんのご用でしょう?」

「私は地球教で枢機卿の要職を任されております天草と申します。本日は貴方にお願いがあって参りました。」


枢機卿!少年心にキュンキュンくるその響きだが、この馴染みのない言葉を実際に耳にすると、どうも恥ずかしくてむず痒い。

言った本人は、まあそれが当然なのだから仕方ないが、澄ました顔をしているのが、またなんともたまらない…


「…そんなお偉いさんが、俺みたいな罪人に何を願うと言うんですか?」

「罪人?貴方はただ救いを求める人々を助けただけです。それも誰一人殺すこともせずに。それのどこに罪があるのでしょう?…それに罪があるとすれば、それは私の方です。」

そう言って男は袖をまくる。

現れた左腕は一本の指が二つに分かれ十本指に…機械の腕…サイボーグか…

でもその腕は諭吉や宇宙軍兵士のいかにもな腕とは違い、見た目は本物の腕と変わらない…まるで彼女のように…


「私は多くの過ちを犯して来ました。多くの部下を死なせ、この世界を暴力によって変えようとした。…でも、貴方たち冒険者の圧倒的な力に止められた事で、その愚かさに気がつきました。私たちがしようとしていたのは力による支配。でもそんなものは結局、力によって滅ぶのです。この世界を変えたいと願うならそれは力ではなく、変えたいと願う想い、心なのだと私は地球教で学んだのです。」


…何だろう…この展開…

このタイミングで都合良くポンポンと…


「…多くの部下を死なせたと仰いましたが、貴方もあの時のクーデターに参加されたのですか?」

「…はい。当時の私は士官学校を出たばかりの少尉として、多くの上官や同僚と共にクーデターを先導する立場におりました。クーデター終結後、無様に生き残った私はそのまま宇宙を漂い、スペーススーツの酸素が無くなるのをただじっと待っていました。そこで私は拾われたのです。教皇様に…」

「教皇?」

「はい。教皇様もこの世界の有り様を憂いているお一人でした。教皇様はその後に起きた大量失踪事件の被害者家族や、この世に生まれた本当の意味を探し続ける者たちに道を示して下さったのです。そうして生まれたのが…」

「地球教…」

「はい。我々の目的は貴方もご存知かも知れませんが、母なる星とも言うべき最初の地球への帰還です。そこで貴方にお願いしたいのは、貴方の旅に我々も同行させて頂きたいのです。」

「…旅ですか…貴方は私の正体を理解されていますか?」

「もちろん。…貴方は貴方の世界に戻るために、私たちは人間が帰るべき場所へ戻るために…それだけです。」

「…何の確証も無いんですよ。この世界の地球に行っても私のいた世界に戻れる保証はない。そもそも地球がまだそこに存在するのかさえ分からない。待っているのはただの絶望だけかも知れない。…それなのに、今のこの世界での生活を棄ててまで、戻る必要がありますか?」

「貴方にはあるんですか?この世界で貴方が作った居場所を棄てて、それでも帰るだけの確かな理由が。…貴方にもあるのでしょう?残してきた大切なものが…無くしたくない大事なものが…私たちにもあるんです。今度こそあの星で…逃げ出すのではなく、真正面から向かい会い前進するために。これは親から子へ、そして子から孫へと受け継がれて来た悲願なのです。」


聞こえの良い言葉…と言っては失礼かも知れないが、どうしても彼の言葉には引っかかるものがある。

彼の言葉からは諭吉たち第五火星の人々と同質の熱のようなものは感じるし、彼は自分の信じる本心を語っているんだろう。

だけど、諭吉たちの時のように心を打つものが無い。

それはきっと彼の目…

どこか虚ろで、まるで人形のように生を感じさせない冷たい目…


「…もちろん私たち信者の中にも、この星に残ることを希望する者もいます。特に被害者家族たちの中には…確かに私たちが生まれたのはこの星です。連れ去られた子供たちの帰る場所を守りたいという彼らの気持ちも分かります。ですが…これは神が…あの奇跡の箱が私たちに与えた試練なのです。」

「…私たちに貴方たちを守るだけの余裕はありませんよ?」

「構いません。私たちも何の準備もしていなかった訳ではありませんから。それに…私たちは貴方が進むべき道を、シャマシュ恒星系の座標を開示する準備をしております。」


これでもまだ何か?



少し考えさせて欲しい。

結局出せた答えはそれだった。

追い出される俺はともかく、この世界の人間をそれも大量に連れ出すとあっては、政府も黙っている訳がない。

それに…開示するというシャマシュ恒星系の座標も、正確にはまだ手に入れていないらしい。


それを知っているのは、人類をここまで運んだ船〈朔望月〉にいる黄金の林檎のメンバーだけ。


彼らはいま、最初の地球への同行の許可と、そこに至るまでの記録を入手する為に交渉を続けている最中との事だ。

だけど、まだ途中なのにそれを俺に教えたという事は、何か進展があったという事なのかも知れない。


被害者家族はともかく、なんとも怪しい集団との交渉は危険かも知れないが、貴重な情報を得るチャンスでもある。

でも、答えを出すのはお互いに準備が整ってからでも遅くはない。

いまはまず彼女に確認をしないと…


━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・

暴君:話しって何?

〼田:…あっ今日ですね…地球教の枢機卿という人に会いまして…

暴君:それはそれは、お疲れ様でした。

〼田:その人は以前この世界に起きたクーデターに参加していた元宇宙軍の軍人でして…その…君の腕とそっくりな機械の腕を持ってたのね…

暴君:…それが?

〼田:あっ…いや…何か関係があるのかなってね…

暴君:女の過去を気にするなんて、マスターも案外小さいですね!

〼田:やっぱり何かあるの!?

暴君:ねえよ!私にはね…でもそうか…あいつがついに動き出したか…お兄ちゃんにも伝えないとね…

〼田:あいつって?

暴君:私の腕を作った奴さ。…いまは地球教の教皇をやってる…

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・


徳川武夫


ユグドラシルの先代社長にして、現在は地球教の教皇。

そして二人の父親…

教会で会った枢機卿の顔が浮かぶ。

あいつはそれを知っていて、あえてその腕を見せて来た訳か…


やれやれ…ユグドラシルの先代社長ともなれば、その発言力は計り知れない。

それほどの大物が動けば確かに政府も、黄金の林檎のメンバーも動かせるかも知れないね。

でも…何の為に?

本当に枢機卿が言っていたような理由だけ?


━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・

暴君:その事はお兄ちゃんと相談するから、少し時間をちょうだい。

〼田:うん…

暴君:…ごめんね…親子の問題に巻き込んじゃって…いつか、ちゃんと説明するから。

民号:マスター!!

〼田:どうしたの?そんなに慌てて。

民号:御隠居さんが…希望ちゃんが強制ログアウトしちゃった!!

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・


鉄入7号の時とは違い、レベル上げをしていた希望ちゃん一人だけ…

ニーベルングを遊ぶための阿頼耶識には、使用中のプレイヤーに一定以上の身体的な不調や、強い外部刺激が与えられる事で強制的に通信を遮断しゲームを終了する機能が搭載されている。


希望ちゃんの身に何か!


ログアウトした俺はヘッドマウントディスプレイを投げ捨てると、慌ててクルマに飛び乗った。

外は雨が降りしきり、湖の上にはかすかに霧が立ち込めている。

ゲームと違い物理移動しなければならない現実では、どんなに急いでも30分はかかる。


このタイミングで希望ちゃんまで…

はやる気持ちを抑えつつ俺はクルマを飛ばした。


Abashiri内の建物は、どれも鍵がかからないようになっている。

だから進入しようと思えば誰だって入れる訳だ…

希望ちゃんのコテージに飛び込んだ俺が見たものは…


ヘッドマウントディスプレイを付けたまま、床に倒れた希望ちゃんの姿だった。




お待たせしました…

ついにスマホが壊れました(=ω=;)

画面が剥がれた…

ただいまセロテープで留めて使用中…

動くのがすごいよね!

まだいけるのかな?

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