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━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・

暴君:だから言ったじゃないか!

下僕:偶然かも知れませんけどね…

〼田:…。

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・


鉄入7号は目を覚ました。

それはまるで、何事もなかったかのように…

しかし、目覚めた彼の記憶の大部分は壊れていた。

それも肝心な、旅立った後の記憶ばかり…


現在ユグドラシルと三星重工との共同で、失われた記憶の修復が出来ないかどうか研究が進められているが、本格的な調査は彼がユグドラシルの施設を出たあとになるそうで、結果が出るにはどうしても時間が掛かるそうだ。


でも、彼は自分を殺してくれと言っていた。

自分が自分でいるうちに…あれはいったい、どういう意味だったのかな…

彼はそうまでして、何を何から守ろうとしたのかな…

ゲーム上の演出…みんなはそう言っていたけれど、本当にそうなのかな?

彼は自分が阿頼耶識に繋がれ、俺たちが彼の記憶に踏み入った事も、ゲームの中で俺たちに倒された事も覚えていない。


目覚めた彼は、本当に彼なのかな…


本当の彼はあの時死んで、今は別の何かが彼を演じているのだとしたら…

それはいったい何がしたいんだ?

そもそも別の何かっていったい何だ?

鉄入ブラザーズや徳川社長の話では、7号の人格は旅立った時のままで、特に変わった所はないそうだ。

それならもう、以前の彼を知らない俺には、これ以上確かめる方法はない。

でも、何の根拠も無いにしても、ここまで都合の良い彼の帰還と覚醒は無視できない。


━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・

暴君:どうする?今日は御隠居さんとレベル上げに行くけど一緒に来る?

〼田:…いや、今日はこれで落ちるよ。

下僕:焦っても仕方ありません。ゆっくり行きましょう!

〼田:うん。

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・


結局、彼らがどの座標へ向かったのか… 何ひとつ分からず終い。

現実世界への帰還の手がかりになると思われた7号の記憶も、たとえ修復できたとしても、今のままでは信用できない。

ミズガルズの航宙記録も完全に消えているし、これではもう八方ふさがりじゃないか…


今回の7号の記憶の修復や、そもそもの7号の帰還については、まだ公けには公開されていない。

不確定要素の多い情報は、ただ混乱を招くだけだし、彼らの帰りを待つ地球教の被害者家族にも、下手な期待をさせたくないから。


だけどあのギルド艦…

異人の正体は俺の古い友人かも知れない。

徳川社長にだけ打ち明けたが、それは他言しないようにと釘を刺された。

異人と同じように、この世界に混乱を招いたこの俺が、異人を良く知る者だったら…

そんな事が知れ渡れば、ただでさえ微妙な立場の俺の処遇がさらに悪化するかも知れない。

そうなれば…あの子やみんなを救うなんてことは夢のまた夢…


だから今は口を塞いで待つしかない。


ヘッドマウントディスプレイを枕元におき、タバコに手を伸ばす。

モヤモヤしててもやる事がないから、結局徹夜でゲームをしていた。

だけど、ついてない時はとことんついてないもので中身はカラ…

タバコの箱を握りつぶしてゴミ箱に投げても嫌われる…

本当についてない……



やれやれ…寝ちゃったか…

やっぱりここは夢の世界なのかしら?

それならもっと都合よく来れたら良いのに…


〈こちらの都合はお構い無し?〉


白い空間には黒い箱があるだけで、ネフィリムはいない。

「今日はかくれんぼかい?」

〈じゃあ、探してみて。〉

声はすれども姿は見えず…

でもこの空間で隠れる所といったら箱の裏…いないか…

だから俺は振り返った。


〈見つかっちゃった…〉

そう言って少し寂しそうに笑ったネフィリムは黒い箱の上に座る。

〈…良かったね。〉

「…何が?」

俺も箱の上に座りそう答える。

〈あのまま死んじゃうのかと思ったよ。でも助かって良かった。〉

「追い出される事になったけどね。」

〈自業自得だよ。〉


「…ありがとうね。」

〈…何が?〉

ネフィリムは不思議そうに俺の顔を覗き込む。

「みんなから聞いたんだ。アルフヘイムでみんなが困っている時、君が助けてくれたって…」

〈お礼を言われるほどの事はしてないよ。〉

「タバコの臭いが消えないって文句も言ってたよ。」

〈…それは悪いことをしちゃったね。〉


遠くを見つめる瞳の色も、その金色の髪も…

やっぱり似ている。

〈今日は何しに来たの?〉

「…もう分かっているんだろう…」

〈…。〉

「…あの子に…会ってやってくれないか。」

〈…そっちか…てっきりあの男のことかと思ったよ…〉

「…。」


あの子の母親は、もういないよ…


確かに貴方が見ている私の姿は、あの子の母親のもの。

丁度あの子を産んだくらいの年齢かな…

でも、私じゃない。


私の中には彼女の記憶がそのまま存在している。

あの男を愛した気持ちも、あの子を想う母親としての気持ちも…

でも、私のものじゃない。


私の中にはね…彼女だけじゃなく、この世界で死んでいったたくさんの人たちの記憶があるんだ。

あの男に子供や兄弟を奪われた親兄弟の悲しみや憎しみも、私の中にあるんだ。


そんな私があの子に会って、あの子は喜ぶ?

あの子が笑えば嬉しいよ…でも、同時に辛いんだ…

どんなにあの子を愛していても、同じくらいあの子を憎んでしまうから…


あの子が泣いていたのも知っている。

あの子が転んで膝を擦りむいたのも知っている。

あの子はカレーが好きで、でもニンジンが嫌いだから、いつも残しちゃうことだって知っているんだ。

でも私は見ていただけ…

抱きしめたり、怒ったりもしなかった。

しようとさえしなかった。


そんな私に、いまさら母親の真似は出来ないよ…


少しだけ…期待していた。


ネフィリムなら、希望ちゃんをあそこから連れ出せるんじゃないかって…

希望ちゃんだけでも、救ってくれるんじゃないかって…

決して抜け出すことの出来ないAbashiriから希望ちゃんが消えれば、真っ先に俺が疑われる。

でも、一度は死ぬことだって覚悟したんだから、それでも良いと思ったんだ。

どんなに恨まれても、たとえ殺されても良いと思ったんだ。

あの子だけでも救えるなら…


それを知ったら、あの子は優しいからきっと泣いちゃうだろうけど、いつかまた笑える日がくると思ったんだ。

だって、大好きなお母さんと一緒なんだから…

その方が良いんじゃないかって、心のどこかでずっと思ってた。


でも駄目だね…やっぱり人に甘えてばかりじゃ何も変わらない。

変えたいと心からそう思うなら、自分の手で成し遂げないと。


「…どうしたら良い?どうしたらみんなを救える?」

〈…あの人を探して。あの人ならきっと地球を見つけている。だから地球を探して。〉


地球…ゲームの時には、設定の文章に載っていた文字に過ぎない。

でもあらゆるものが現実となったこの世界なら、きっと何処かにあるはずだ。

でも、そこに至るまでのルートは未だ闇の中…

手さぐりで探すにしても、宇宙は余りに広大すぎる。


でもあいつは見つけた。

そこに至るための何かを。

そうでなければ、あいつを慕う者たちも、何の根拠も無しに付いて行けるはずがない。

それならこの世界のどこかに、そのヒントがあるはずだ。


「…あいつは…異人は植村なのか?」


どこか遠くを見つめていたネフィリムは、胸に手をあてそっと目を閉じる。

〈…そう。直接は名乗らなかったけど、貴方の記憶にある彼の姿と同じだから…〉

「…あいつは…知ってたのか?」

〈…?〉

「君の…彼女のお腹に希望ちゃんがいたことを…」

〈…うん。だから…連れていってくれなかった…危険だからって…でも…必ず帰って来てくれるって、そう約束してくれた…〉


あの日から、もう会うことも無くなってしまった俺の友達。

あいつは…今どこにいるんだろう…



植村とは俺が働いていたバイト先に、あいつが新人として入って来たことで知り合った。

植村と友達になれたのは、人付き合いが苦手な俺を気遣って、向こうから話しかけてくれたおかげ。

そうじゃ無かったら、俺たちが同じ大学の同じ学部なんて気づかなかったかも知れない。


俺たちがしていたバイトは、深夜のコンビニ。

繁華街から大分離れた場所だから、深夜帯は暇な時間が多かった。

だからいろいろ話した。

好きな女の子のタイプや、お互いの夢のこと。

俺にはやりたいことなんて無かったけど、あいつには夢があった。


役者になりたい。


そう言って笑うあいつの顔を見て、いつも羨ましいと思っていた。

ただ何となく生きてきた俺には、目標や夢があるあいつが眩しかった。


バイトの前に一度家で寝てくる俺と、演劇サークルに出てからバイトに来るあいつ。

いったいいつ寝ているのか不思議だったが、それでもいつも明るく元気なあいつは、俺と違って大学でもバイト先でも人気があった。

俺はといえば、いつもスマホ片手にサボってばかりで、あいつもゲームに誘ったけど、ガラケーだからと断られた。

一緒に馬鹿やったり、バイトが休みの日は、朝まで飲んで路上で寝たり…


そんな楽しい大学生活も終わると、俺は小さな会社に勤め、あいつは小さな劇団に入った。

最初の頃は良く連絡を取り合って、愚痴の言い合いをしたもんだ。

でも、小さいとはいえお互い仕事と稽古があるから、次第に連絡は途切れがちになって…


そんなあいつと再会したのは、このゲームのコラボイベントが発表される会場だった。

来場者に配布される限定サポートキャラクターのコード欲しさに出掛けた俺は、そこでヨレヨレのスーツを着て、疲れた顔で頭を下げるあいつを見かけた。


俺に気づいたあいつは照れくさそうに笑うと、言い訳みたいな言葉で誤魔化そうとした。

あいつは…役者を諦め、芸能事務所のマネージャーになっていた。

仕方ない…聞きたくなかった言葉を、あいつは何度も言っていた。


あいつには、ずっと夢を追いかけていて欲しかった。

それがただのエゴだと分かっていたけど…


そして、それよりもっと嫌だったのが、あいつがあのギルドのメンバーだったこと。


その時行われていたイベントは、運営会社が女性ユーザーの獲得を狙ったもので、当時人気のあった男性アイドルを起用したものだった。

新規に始めた人には、抽選で限定ライブのチケット購入サイトにアクセス出来る専用コードが送られるとあって、ファンの女の子たちは複数のアカウントを作ってゲームを始めた。

本来ならそれで終わり…そんな理由でゲームを始めた人が、そのままゲームを続けるはずがない。

でも違った。

そのアイドルは自分もゲームを始め、自分のギルドを作った。

それから数日でメンバー全員当時最高ランクのバトルドールを揃え、普通じゃありえない数の課金アイテムを全員が所持していた。

メンバーは皆新規のプレイヤーのはずなのにやけに慣れていて、ベテランの別アカか運営会社の社員じゃないかと噂も立った。

その中にあいつもいた。

そのギルドは、いきなりその月のギルドバトルで1位となり、その年の最強ギルド決定戦で優勝し、LG級ギルド艦〈ロキ〉を手に入れた。


でもそこで終わり。

ゲームに飽きたのか、そのアイドルやメンバーのログインは止まり、ファンの女の子たちもやめていった。

たったひとり、あいつを残して…


その後、運営への抗議やギルド艦ロキへの嫌がらせで、ゲームは荒れに荒れた。

悪質な嫌がらせをしたプレイヤーはアカウントを停止され、そんな状況に嫌気がさしたプレイヤーは引退し、ますますゲームは混乱したがそれでも運営は知らぬ存ぜぬの一点張り。


そんな時、あいつから連絡が来た。

あいつはギルド艦を引き渡すよう、複数のギルドから嫌がらせを受けていた。

ゲームではアイテムなどのトレードは出来なかったけどギルドは別で、別のプレイヤーを加入させ、そのプレイヤーに艦長を引き継げばギルド艦の譲渡ができる。


俺はその時の連絡で、初めてあいつがこのゲームをやっている事と、あいつがロキにいる事を知った。


ギルドを解散した方が良い。


そんな事しか言えない小さな自分。

ロキのメンバーは何か悪い事をした訳じゃない。

彼らは普通にメンバーを集め、普通に金を使って強くなっただけ。

その金がどういう金かは知らないけれど。

でもそれなら、みんながやっている事だ。

でもみんなは、限られた時間と限られた金を使い、それでも努力して強くなったんだ。


みんな悔しかったんだと思うんだ。

続けてくれるならそれで良い。

ただ新しい強豪が増えるだけだから。

でも、ただ金を使ってゲームを荒らすだけ荒らして辞めたのが嫌だった。

楽しみ方は人それぞれだし、あれが彼らの楽しみ方だったのかも知らないけど、何だか馬鹿にされた気がしたんだ。

人の楽しみ方を否定された気がしたんだ。

確かにゲームなんて遊びだけど、本気でやるから楽しいのに…


そんなちっぽけな、エゴの塊みたいな俺の手は、助けを求めるあいつの手を掴めなかった。

友達なのに…見捨ててしまった。


あいつは続けたかったんだ。

どんなに嫌がらせを受けていたとしても。

でもどうしたら良いのか分からなくて、それで俺に助けを求めたんだ。

あいつも好きになってくれたんだ。

俺の、俺たちの大好きなゲームを。


それなのに…あの頃の俺は気づいてやれなかった。


それから時は流れ、ゴタゴタ続きだった運営は別の会社に変わり、ギルド艦ロキはいくら検索しても見つからなくなった。



確かにそれは8年以上前の話…

あの時には、あいつはもうここに居たんだ。

謝らなきゃ…

それで、許してくれるかは分からないけど。

でも、今度こそ見捨てない。

今度こそ、あいつも救ってみせる!


白い空間に俺の名を呼ぶ声が響き、空間が僅かに揺れ始める。

「もう一つ教えてくれないか?」

〈何?〉

「君は何なの?」

〈…そう聞かれると、なんて答えれば良いか難しいな。〉

「…ゲームの設定にさ、人に叡智を与えた謎の黒い箱ってのがあるんだ。それが君じゃないのか?でも、それっていったい何なんだ?」

〈…貴方にあってから、ずっと考えてたんだ。私は、私たちは何なんだろうって。〉


本来の私は、いつか何かに使われる予定だった、特別な物だったんじゃないかと思うんだ。

でも何の役割も与えられないまま、忘れられてしまった物。

私は気がついたらここにいたんだ。

自分がいつからここにいて、何の為にここにいるのかも分からないまま、ただずっと、ここでみんなの事を見てたんだ。

みんなが笑ったり怒ったり、楽しそうに遊んでいるのを見てたんだ。


嬉しかったよ!みんなが喜んでくれて。

悲しかったよ!みんなが離れてしまって。


そうしたらね。私の中にみんなの想いが集まってきたんだ。

みんなの大切な記憶が、今の私を作ったんだ。


私はね。貴方の言うゲームというものの魂なのかも知れない。

本来の役割とは違うのかも知らないけど、それが今の私なんじゃないかと思うんだ。


「…そんな君でも、あいつが何処に向かったのか分からないの?」

〈神様でもあるまいし、何でも分かる訳がないでしょう!〉

「…そんなもんかね…」

〈それより私からもお願いがあるんだ!〉

「…?」

〈私も連れて行って欲しいんだ!だからあの子も連れて行って!〉

「…あの子って希望ちゃん?」

〈そう。彼女が残してくれた希望の中に、いま私たちは存在している。〉

「…でも、何のために?」

〈あの子をあの人に会わせてやりたい。それに、あの人についていったみんなを迎えに行きたいから。〉

「…それだけ?」

〈……もう一度…もう一度だけ、あの人に会いたいから…〉


ネフィリムの抑えていた想いが頬をつたう。

やれやれ…これではもう断れないね。


空間の揺れはどんどん大きくなり、視界もぼやけてきた。

「それじゃあ行くよ!」


〈あの子をお願い!〉


薄れゆく意識の中で聞こえたネフィリムの声は、確かにお母さんの声だった。



「いつまでむにゃむにゃ言ってるんですか!」

「ふぐっ…」

腹の上にダイブしてきた希望ちゃんは今日も元気いっぱい!

希望ちゃんをここまで連れて来てくれた鉄入くんは、遅めの昼食の支度をしてくれている。

「聞いて下さい白瀬さん!私お小遣いを貰ったんです!これで課金できます!」

「…!」

覗きに来ていた鉄入くんが、慌てて引っ込む。

「…こっちに来ちゃ駄目だよ…」

「何で!?」

「…課金はね…一度でも踏み入れば二度と這い上がれない底なし沼なんだ…だから君は来てはいけない…そんなことは、俺たちだけで充分なんだ…」

「意味が分かんない!」


俺はプンプン怒る希望ちゃんを抱きしめた。

守ってみせる!

彼女の理不尽な運命からも、人をサルまで退化させる課金の魔の手からも!

彼女を守れるのは、もう俺しかいないのだから。


「離せ〜!」

「うりゃうりゃ〜!」



寝るときはエアコンガンガン!

そして布団を掛けて寝る!

朝は寒くて目がさめる!

これが十のいつもの夏✧٩(ˊωˋ*)و✧


エコなんてクソ食らえな十なのです!

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