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Galactic Coordinate 〜地球はどこでしょう?〜  作者: 十 円
ビフレストのその先へ
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030

どうして…

どうして…

どうして…


まだ助けられたかもしれないのに…

話が違うじゃないか…

…信じていたのに!


エインヘリアル艦隊と、そこから飛び出したバトルドールが、ブリュンヒルデを取り囲む。


あのマスターが…

あのへっぽこが…

…躊躇う事なく…酒呑童子を殺した…


ラグナロクの冒険者たちは、白瀬の真意が分からず戸惑い、その隙をエインヘリアルにつかれ手が出せない。


酒呑童子の完全破壊は諭吉も知らない、酒呑童子本人との話し合いで決めたこと。

これでエインヘリアルの代表であり、彼らの指導者でもある酒呑童子という存在は、この世界から消滅した。

この事はごく一部の人間にしか教えていないし、そいつらにしても計画の全てを伝えた訳ではない。


これは、その為の第一歩。


『答えろ!!』

エインヘリアル全ての砲口と銃口、そして全世界にこの模様を配信する監視衛星のカメラが、ブリュンヒルデに向けられる。


戦士としての死を。


それはもう話すことも出来なくなっていた酒呑童子が、最後に望み皆に残したメッセージ。

大切だから守りたい。だけど大好きだから、その意志を尊重したい。

それが酒呑童子を一騎討ちに送り出した、諭吉たちの理由。

もちろんとどめは刺さず、エインヘリアルの主要メンバーが投降する事で、この戦争に幕を引く。


それが、この茶番劇の筋書き。


でもね…それでは納得できんかったのよ。

俺も…酒呑童子も…


君たちは良く戦った。

でも…ここまでだ。

酒呑童子はその死をもって、ギルドマスター誘拐というラグナロクに対する罪を償った。

よって我々ラグナロクは今後一切、君たちエインヘリアルのメンバーや、第五火星の人々に対しその罪を問わない。


そしてもうひとつ。

私は酒呑童子から君たちを託された。

戦争を起こした君たちを、この世界から守ってくれと。

そこで私は、君たちエインヘリアルのメンバーと、第五火星の人間やデミヒューマンなど全てを含めた人類を、ラグナロクの冒険者として迎えよう。


冒険者となった者たちは、この世界が作った冒険者法によって守られる。

冒険者には第五地球に住む人間と同等の権利が与えられるだけではなく、様々な特権も与えられ、その身分を保証される。

これで君たちも彼らと同じ、表も裏もない平等な権利を得るチャンスが与えられる。


…今日からお前たちは俺の家族の一員だ。

今日からは、俺がお前たちを守ってやる!

俺は、俺の家族に危害を加えるものを、決して許さない。


それでもまだ、俺の家族を排除しようとする者がいるのなら、それ相応の覚悟を持って挑んで来い。

ラグナロクのギルドマスターであるこの俺が、直々に相手をしてやる!


だから…もう、みんなは戦わなくて良い…だからもう、誰も死なないで…


…酒呑童子で最後にしてくれ…


誰も口を聞かず、ただ黙って動かない。

何が正しくて、何が間違っているのかも分からない。

ずるいよ…二人とも…最初から最後まで勝手に決めて…


静まり返る第五火星宙域に、無数の光が近づいてくる。

それは、第五地球政府から派遣された船団の光。

それは、酒呑童子と白瀬の命をかけた問いに対する、この世界の答え。



すいませんでした…だから、もう許して…


第五火星の赤い大地に、乾いたビンタの音がする。

叩いては回復し、また叩く!

彼女たちは列をなし、彼女たちのギルドマスターをシバキあげる。

先ほどまでの威勢は何処えやら…

ラグナロクのギルドマスターである白瀬は、大地の上に正座をさせられ、涙ながらにそう訴えた。


馬鹿にしやがって!

何が死ぬなだ!

じゃあお前はどうなんだ!?

お前が死んだら、私たちはどうしたら良いんだよ!

…お前が、守ってくれるんじゃないのかよ!


また…ひとりにするのかよ…

またあの時に戻るのかよ…

もう戻って来ないのに…それでもずっと…ずっと待ってたあの時に…


ミルフィーユは冒険者の彼女たちに、白瀬の立てた計画を、彼女の知る全てを伝えた。

記録でしか知らない戦争をこの世界で再現させた責任とその罪を、全て一身に引き受けて自らの命で償う代わりに、私たちを助けようとしていたこと。

そして、白瀬の出した自分勝手で自己満足でしかない提案を、この世界の代表が了承してしまったことも。


突如として現れた宇宙マンボウを利用する事で、決定された判決を覆す事が出来たかどうか…

その答えは、遥か上空から此方を見下ろしている。


上空で停泊する第五地球政府の船団から、小型のシャトルが2機のバトルドールと共に降りてくる。

赤い砂煙を巻き上げ、第五火星の大地に降り立った現行モデルの酒呑童子と、UR級バトルドールの茨木童子に守られたシャトルから、鉄入27号が現れた。

冒険者たちも無用な戦闘は避けたい。

だが27号の答えが分からない以上、黙ってここを通す訳にはいかない。

27号に向けられる冒険者たちの視線と、冒険者たちに向けられる銃の射線。

ふたつの線は更に緊張感を増し、いまにも爆発しそうになったその時、ずっと何かに耐えていた白瀬が冒険者たちに語りかける。

「動くなあっはぁぁぁ〜……」

足のシビれが限界なり!

ギルドマスターのその情けない一言は、それでも冒険者たちを縛り上げる鎖のように絡みつき、彼女たちの動きを止める。

だがそれは一瞬で、白瀬の前には幾重もの人の壁が作られる。

「…頼むよ…」


築かれた壁はふたつに分かれ、その間から1通の書簡を携えた27号が歩み寄る。

「お手数をおかけして申し訳ありません。」

「いえいえ、こちらこそ。遠路はるばるお疲れ様でした。」

「しかし…この状況でも動じないとは、さすがはラグナロクのギルドマスターですね。」

「…そうでもありませんよ。」

足の感覚はすでに無く、乙女チックに横にずらすので精一杯。

それに…やれる事はやりきったし、後悔もない。


目の前に立った27号は、頭からクルクル回るオモチャのようなアンテナを伸ばすと、ガシャンガシャンと音を立て両足を体に収容し大地に座る。

俺の前に座った27号は、手にした書簡の封を開け、内容に目を通した。


「貴方はこれで満足ですか?」

「もちろん。」

「貴方は…帰りたくないんですか?」

「…帰りたい。…でもこのままにはしておけない。」


第五火星の大地に乾いた風が吹き抜ける。

27号は雲ひとつない青空を見上げ、ひとつ小さなため息をつく。

時間だけが静かに流れるなか、27号は言葉を続ける。


「いま…私の目は世界中と繋がり、私の見たものは全て世界中に配信されています。人々は私の目を通し貴方を見ている。…その上で、貴方にお聞きしたい事があります。」

「…はい。」

「なぜこの世界の人間でもない貴方が、この作り物だった世界の為に、死ななければならないのですか?」


作り物…それは彼の弟の28号に伝えたこの世界の真実。

だがかつてゲームだったこの世界も、いまでは現実として存在し、そこに暮らす人々は今も、当たり前と思っている日常を過ごしている。

その始まりは全て嘘…全ては、作られた記憶と知らないで…


「…良いんですか?みんなも聞いているんでしょう?」

「貴方は私たちに真実を話してくれた。だから私も、この世界に嘘をつきたくない。もう嘘はたくさんですから…」

「でも…壊れてしまうかも知れない…」

「…私たちがついています。ずっと。」

「…ちょっと長くなりますよ。」

「はい。」


27号だけじゃなく、その場にいる全てのものが静かに耳を傾ける。

それはサポートキャラクターだった者達にとっても懐かしい、とても大切な記憶。



このゲームを最初に知ったのは、まだ俺が学生の頃。


大学でもバイト先でも、人付き合いが苦手だった俺は、いつもひとりだった。

勉強するのも、働くのも、一生懸命なにかに打ち込む事もなく、ただ何となく毎日を過ごしてた。


そんな時、このゲームに出会った。


きっかけは単純で、初めてスマホに替えた時、新しく始まるこのゲームの事前登録キャンペーンの広告に載ってた女の子のキャラクターが可愛いかったから。

最初は本当に何となく、暇つぶしのつもりで始めた。

何となくギルドを作って、何となくメンバーを集めて…


全部何となくだったけど、それでも負けたら悔しくて、みんなで勝つ為にみんなと相談して作戦を立てて、苦手だけど掲示板に書き込みしてみんなとコミュニケーション取ったりした。


いっぱい課金もした。

金なんかないから、食費を削るかタバコ代を削るかで悩んで、そうして食費を削った分を課金して、見事ガチャで玉砕…

それでいつも、みんなに励まされてた。


分からない事ばっかりで、何度も何度も失敗して…でも楽しかった。


何度も試行錯誤する中で、自分が少しだけど変われた気がしたんだ。


苦手だった人付き合いの必要性も、積極的に自分の意見を言う事も、それだけじゃダメでみんなの意見も尊重しなきゃいけない事も、ゲームを通して知ったんだ。

気持ちの無い言葉は相手に届かず、気持ちのこもった言葉なら、例え短くても相手に伝わる。

そんな当たり前の言葉の力も、ここでみんなと触れ合って、初めて実感したんだ。


周りから見れば、ただの遊び。

でもここは、駄目な俺を成長させてくれた大切な場所なんだ。

ありがとうの気持ちを伝える喜びと、ごめんなさいの気持ちを伝える難しさを教えてくれた大切な場所なんだ。


名前も顔も、住んでる場所さえ分からないメンバーと、ここではいつも繋がってた。

覚えてるんだ。

ケンカをしたあの時も、朝まで騒いだあの時も、いつもみんなここに居た。

みんなの顔を、みんなの想いを、俺はいつも見ていたんだ…この世界で。

15年…この世界は何の取り柄もない俺に、大切な居場所をくれたんだ。


だからこれは俺に出来る、この世界に対するせめてもの恩返し。


だから、これで手打ちにしちゃくれんかね。


自分を変えるのは怖いと思う…でも変わって下さい。

変わる事への不満があったら全部俺のせいにして下さい。

全ての怒りは俺にぶつけて俺ひとりを悪者にして下さい。

だからもう争わないで。

だからもう恨まないで。


お願いですから、この世界はあの時のまま、大好きだった世界のままでいて下さい。


その為だったらこの命、皆さんに差し上げます。


白瀬は大地に額を擦り付け、流した涙は大地に染み込む。

かつてサポートキャラクターだった者たちも、自分たちのマスターだった者たちの、あの日の笑顔を思い出す。

楽しかった。一緒に入られて幸せだった。

自分たちにもこの世界は、大切な居場所だったのだから。


「恩返し?…貴方は…そんなものの為に死ぬんですか?貴方は命をなんだと思っているんですか!?」

「知ってるさ!…たくさん見て来たから…あの子たちをたくさん…見送って来たんだから…」


あの子たちはみんな待ってたんだ。

また一緒に楽しみたくて。

戻ってくるのを信じて、ずっと、ずっと待って…死んじゃったんだ。

たくさんの命を見てきたから、守りたいんだ、この子たちを。

もう寂しい想いをさせないように。


「…でも…貴方が死んだら…ギルドマスターの貴方が死んだら、みんなはどうなるんです?」

「…みんなはもう、ひとりじゃない。みんなはもう家族なんだから。それに…次のギルドマスターはもう決まっていますから。」


「勝手な事を言うな!」

ひとりのアンドロイドが、飯綱と茜の肩をかり、足を引きずるように近づいてくる。

宇宙マンボウとかのゴタゴタで、調整までは出来なかったみたいだね。


「紹介します。彼がラグナロクの2代目ギルドマスター《O-103》さんです。」

「誰が助けろと言った!全てを機械の私のせいにして、終わらせるんじゃなかったのか!」

「あれは嘘です。」

「ふざけるな!」

「ふざけちゃいない。言ったでしょう?私には貴方が必要だって。それに貴方をただの機械と認めてしまったら、アンドロイドの子たちも人では無くなってしまう。もう何をもって人間とするかは考えない事にしたんです…みんな大切な家族なんですから。」


二人のやりとりを呆れたように見ていた27号は、頭のアンテナをへし折ると、それを白瀬に向かって投げつけた。

「…ひどいよ。」

「説明しなさい。」


酒呑童子のAIを、茜に用意させた三星重工特製のアンドロイドの頭に移植した。

大きさも規格もまったく違うから、全ては移植できなかったが、それでも記憶と人格だけは移植できた。

破壊した酒呑童子の機体は、飯綱のバトルドール荼枳尼天の管狐をばらして取り出した遠隔操作のパーツを組み込む事で、意志を持たない無人機となった酒呑童子をサポートさせた。


だから、破壊した戦士としての酒呑童子と、これからもお父さんと慕われるO-103は、どちらも同じだけど同じじゃない全くの別物。


そういう事にしてくれないかな?


「…それだと…話が違ってくるんですけどね…」

「貴方が黙っていてくれたら済む話です。その為にアンテナを折って配信を止めてくれたんでしょう?」

「…私に嘘をつけと?」

「嘘も方便って知りませんか?」

「…今度のメンテナンスで舌打ち機能を付けてもらいます。」


白瀬は、黙ったままのO-103に頭を下げる。

「俺が死んでも、世界はすぐには変わらない。世界がラグナロクを見る目は変わる。これからこの子たちが進む道はイバラの道だ。だからどうか、この子たちを守ってやって下さい。」

「…どうして私じゃダメなんですか?」

「…俺はワガママなんでね。」


再び動き出そうとする冒険者たちを、笑顔で止めた白瀬は、27号へ向き直る。


「お裁きを。」


ひれ伏す白瀬を、立ち上がった27号が見下ろす。

27号は、手にした公文書をみんなにも見えるように掲げると、わざとらしい動きで破り捨てる。

「…?」

「やはり貴方は殺せない。貴方が死ねば、冒険者たちを抑える事は出来ず、世界を救い、世界を変革しようとした貴方の魂は、世界に不満をもつ者たちにより神格化されるかもしれない。」


27号はお腹を開くと、中にあったもう1通の書簡を取り出す。


『白瀬直斗。貴方をこの世界から追放します。』


「貴方は邪魔です。貴方はこの世界に入りません。だから貴方は帰って下さい。私たちも協力しますから。」

「…それで…良いんですか?」

「この世界の人間でもない貴方に、とやかく言われたくないんですよ。例え偽物でも、この世界は私たちの物です。この世界の罪は私たち全員で負うべきなんです。」

「…。」

「それにここは私たちの故郷なんです。例えそれが何であっても、意地でも笑って生きていきます。…それがこの世界の答えです。」


27号は黄金の林檎が定めた最終決定を記した公文書をみんなに示すと、再び白瀬に向き直る。

「これから私たちは、貴方を貴方の世界に戻す為に出来る限りの準備をします。その準備の間、貴方には更正施設に入っていただきます。…しばらくは、皆さんとお別れしていただきます。」


白瀬は27号に向かって頭を下げると、冒険者たちに向き直り深々と頭を下げる。

「…だそうです。」


その一言は、ずっと我慢していた冒険者たちの火薬庫に火を放つ一言となりました。

パンチ・キック・チョップ・がぶぅ…

「ありがとおべぇぇぇ…」

トドメに放たれたミルフィーユのボディブローは、穴という穴からいろんなモノが飛び出ちゃう完全アウトな最高のご褒美。


「ありがとうございます。」

冒険者たちは27号に、この世界に頭を下げる。

「…あとはお願いします。」

ゾロゾロと現れた鉄入ブラザーズに引きづられていく白瀬は、O-103に照れくさそうに頭を下げた。

「あくまでも貴方が戻られるまでの代理として、ギルドマスターをお引き受けします。」


O-103も震える足で必死に立ち、頭を下げた。

誰もこんなやり方なんて納得していない。

でも世界は動き出している。

だからゆっくりでも良いから、一歩ずつ笑って歩いて行こう。

みんななら、きっと出来るから。


こうして終わるはずだったこのゲームから、たった一人取り残された俺は、ギルド艦の艦長からギルドマスターになり、ギルドマスターから世界を追われる犯罪者となりました。


でもこれはこれで、現実世界では味わえない波乱の人生ではありませんか!


第五火星を吹く風は、相変わらず乾いているけれど、いまはなんだか少しだけ暖かくなったような気がしました。


まだ5月なのに暑い日が続きますね…

辛いです…

スマホの熱さがこたえます…


スマホの液晶の左側が浮いて、いまにも剥がれそうになっててドキドキしながら、それでもまだいけるんじゃないかと思っている十でした!

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