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Galactic Coordinate 〜地球はどこでしょう?〜  作者: 十 円
ビフレストのその先へ
28/51

028

「お元気で。」

「お役に立てて幸いです。」

「お世話になりました。」


それは特攻をかける、宇宙軍のバトルドールたちの声。

人類滅亡の危機に瀕したこの時に、彼らは世界の再生を信じて、桜のように潔く、ためらうことなく散って征く。

それは美しいこの世界と愛しい人々を護るために、彼らは進んでその尊い命を捧げるのだ。

可哀想などと思っちゃいけない!

それは彼らの崇高な精神と覚悟を、彼らの男の美学を侮辱する事だから!


ありがとうございます。

決して振り返る事のない背中に向け、冒険者たちは皆頭を下げ、その姿を胸に刻む。

私たちは貴方たちの事を、決して忘れません。


……さようなら…


「違います!そっちは逆です!」

AIの詰まった頭部を取り外された無頭無人機は、あちらこちらをフラフラしながら進んでいく。


「やっぱり無理かも知れません!」

「やめてよ!ぶつかったらどうすんの!」

「やっべぇ〜…味方艦に特攻しちゃった…」


頭部を取り外しての遠隔操作なんていうのは、元々設定されていない。

それでもなんとか宇宙マンボウの傷口から内部へと進入した無頭無人機たちは、手探り状態でコアを見つけ出し、抱えた爆弾と共に次々と自爆していく。


宇宙マンボウ討伐大作戦が開始されてから、すでに50時間以上が経過した。

しかし…いまだに1体も倒せていない。

もちろん遊んでいた訳でも、なめていた訳でもありません。


ゲーム配信以来、最多となる冒険者たちの参加率と、泡魚雷の不足を補うギルド艦の参戦。

好条件のはずの今作戦だが、やはり宇宙軍の戦力低下が痛かった!

だって抑えきれないんだもん!

ゲーム時代は宇宙マンボウの進行を、宇宙軍がキッチリ抑えてくれていたのに、私たちではその代役までは務まらなかった。


タイムリミットが近づくなか、いまだ倒せぬ宇宙マンボウは第五木星周回軌道を過ぎ、小惑星帯に近づきつつある。

宇宙軍が抑えきれない事もあり、その進行速度はあまりにも速い。

いつもなら開催期間ギリギリだけど、須弥山到達前には撃破していたのに、このペースでは明日にも世界は消えてしまう。


宇宙マンボウ2体の内、恒星ソール到達前に撃破できそうなのは、攻撃を集中して来た1体だけ…

もう1体は先行する宇宙マンボウが盾となり、こちらの攻撃が届かない為ほぼ無傷の状態だ。


この状態でも須弥山の金剛杵で倒せるのか?

恒星クラスの宇宙マンボウに比べたら、余りにも小さな衛星クラスのコロニーレーザーで?

その不安が冒険者だけでなく、宇宙軍の兵士たちも飲み込んでいく。

不安は焦りを生み、焦りはミスを招く。

小さなミスは積み重なり、やがて思考は良からぬ方向へ…

結果、特攻などという余り効果のない作戦まで容認し、戦力はさらに低下する。


このままでは世界は終焉を迎え、全ては無に還る。


全てを見捨てて逃げ出すという選択肢もあるけれど、でもマスターなら…諦めないよね。

あの人は一度決めちゃったら、何を言っても聞かないから…


さて、マスターも今頃は、ミルフィーユに睨まれながらも楽しんでいるに違いない!

こいつはちとキツいけど、もうひと踏ん張り頑張りますか!

あの人の笑顔のない世界なんて、つまらんしな!


ラグナロクのギルド艦とバトルドール隊は、攻撃を一点に集中し、宇宙マンボウの外殻を大きく吹き飛ばす。

冒険者たちは皆気合いを入れ直し、後退する宇宙軍の支援を開始した。



この世界にある物は、一体いつ誰が作ったんだろう?

もしそんな疑問が浮かんだら、携帯端末ひとつで誰でもすぐに調べられる。

そんな事は、子どもでも知っている当たり前のこと。


最初の地球を追われた人類は、多くの犠牲を払いながらこの第五地球に辿り着いた。

それはまさに絶望の繰り返し…

第二、第三、第四と新たな希望を見つけては、またそこを追われる。

繁栄しては滅ぼされ、何度も諦めかけながら、それでも人間という種を守る為に前へ進んで来た。


人々は人類の築き上げた叡智と、助けを求める人々を見殺しにしてきた罪咎を、忘れず後世に伝える為に全てを記録し保存してきた。

その中には、一般人には決して知らされる事のない、最初の地球を追われた訳も…


その映像や文章は人類の生きてきた証であり、歩んできたこの世界の確かな記憶。


だけど今を生きる我々が、直接それを見てきた訳じゃない。

学んで得た知識はあっても、体験して得た記憶は極わずか。

だってこの世界にある物は、全て生まれた時から有ったのだから。


自分の中にある記憶は本物なのか?

改ざん出来るはずもない記録でも、それが真実だと証明出来ないのに…

全ては何者かによって作られた偽物かも知れないのに…


第五地球の首相官邸では、ユグドラシルの徳川社長の指揮の下、住民の避難や前線への後方支援に鉄入ブラザーズが駆けずり回っている。

事務処理に追われる27号もまた、自室にこもり机の上に山積みされた書類の中から、宇宙軍からの報告書を手に取った。


宇宙回廊を進行する2体の宇宙マンボウは、まもなく小惑星帯に接近する。

小惑星を回避しつつ、これとあたるのは不可能なので、宇宙軍と冒険者たちには第五火星周回軌道まで後退するよう指示が出された。

須弥山では金剛杵の発射準備も整い、いつでも宇宙マンボウを迎え撃てる。


須弥山の金剛杵なら必ず1体は倒せる。はずなんだ…


書類にサインをし終えた27号は、椅子に深く座り直し、天井を見上げる。

どんなに準備を整え、不安を払拭したとしても、皆を包むそれとは別の、全てを否定するような不安が頭をよぎる。


それは弟の28号から聞かされた、白瀬の語ったこの世界の真実。

この世界は別の世界の人間が作ったゲームの世界。

そして消えて無くなるはずだった世界。


にわかには信じがたいその話も、思い当たる節がない訳じゃない。

この世界には分からない事が多すぎる。

移動装置のゲートやコロニー、そしてバトルドールやアンドロイドの動力源などの主要パーツは製造方法すら分からない。

そしてこの世界も…

私たちはどこから来たのか分からない。

最初の地球も、第四地球があったとされるシャマシュ恒星系の座標さえ分からないのだから。


それにあの箱船も…

27号が見上げる遥か先に浮かぶ、希望を繋いだ偉大な船《朔望月(さくぼうげつ)

第五地球に月はない。

その代わりに夜空を優しく照らすのが、あの朔望月。

全長3,474 kmもあるその箱船は、最初の地球からここまで人類を運び、導いてくれた黄金の林檎のメンバーが指揮する船。


朔望月には全ての叡智と、選ばれた男女合わせて10,000,000人分の遺伝子が保存されている。

そして今、そこに第五地球で生まれた新たな命と技術が積み込まれ、6番目となる楽園を探す旅の準備が進んでいる。


でも全ての人が救われる訳ではない。

新たに乗船できる人間はすでに選定が済み、残される人間は何も知らされる事もなく、ただ彼らが逃げ延びる為の囮にされる。

いままでずっと、そうして来たように。


このまま終わってたまるか!


乗船を拒否した徳川社長のように、たとえどんなに無様でも、最後の最後まで足掻いてやる!

この世界が終わる運命だったとしても、この世界の全てが偽物でも、今ここで生きている私たちの邪魔は誰にもさせない!


27号は再びペンを取り、残りの書類を片付けていく。

自分にしか出来ないやり方で、自分でも出来るやり方で、生き残る為の戦いはこの第五地球でも行われていた。



衝突する巨大な小惑星も、まるで砂つぶでも払い退けるように意に介さず、悠然と進む宇宙マンボウ。


態勢を立て直した宇宙軍と冒険者たちは、前方の傷ついた宇宙マンボウに、もう何度目かも覚えていない一斉砲撃を再開する。

まもなく金剛杵の射程範囲に入る。

何とかその前に、前方の宇宙マンボウを倒すか退けるかしないと、後方の無傷の宇宙マンボウを狙えない。


チャンスは一度きり。

切り札の金剛杵を、前方の宇宙マンボウに使う訳にはいかない。

しかしそれは向こうも分かっているようで、後ろをピッタリとガードする前方の宇宙マンボウは、後方を狙うこちらの動きをしっかり邪魔してくる。


宇宙軍と離れ、側面へと回ろうとするラグナロク艦隊に対し宇宙マンボウが動きを見せる。

そこに5隻の巨大戦艦を先頭とし密集した宇宙軍艦隊は、紡錘陣形を敷き突撃を開始する。

ラグナロク艦隊の動きにつられた宇宙マンボウは、その脇腹に宇宙軍艦隊の集中砲火を浴び、砕けた外殻から内蔵をぶちまけるように流星ダツを吐き出す。


襲い掛かる流星ダツには宇宙軍とラグナロクのバトルドールが迎え討ち、宇宙マンボウと両艦隊は一進一退を繰り返す。


そして宇宙マンボウが金剛杵の射程に入った時、後方の宇宙マンボウが動きを見せる。

宇宙マンボウが巨大な口を開くと、口内に高エネルギーが収束し始める。


鈴鹿姫は両艦隊に回避を伝え、ブリッジメンバーの一人に指示を出す。

不気味に赤く輝くエネルギーの塊が、宇宙マンボウの口いっぱいに広がった時、宇宙マンボウの右目を連続した爆発が襲う。


鈴鹿姫が指示したのは、マスターたちが用意した宇宙機雷の操作。

冒険者たちは、マスターたちが第五火星周辺宙域に配置していた宇宙機雷を回収し、宇宙回廊に再配置していた。


ダメージらしいダメージは与えられなかっただろうが、しかし効果はあった。

宇宙マンボウの口から放たれたエネルギー波は、前方の宇宙マンボウに当たりその身を大きく破壊する。

エネルギー波をギリギリで回避した両艦隊は、剥き出しになったコアに砲撃を集中する。


急がなきゃ!

須弥山から慌ただしく指示が飛び込む。

宇宙マンボウが狙ったのは、宇宙軍艦隊でもラグナロク艦隊でもなく須弥山だった。

宇宙機雷の爆発が無ければ、エネルギー波により全てが終わるところだった。


須弥山が青白く輝き出す。

ギリギリまで引き寄せてからの予定だったが、攻撃してこないはずだった宇宙マンボウが、攻撃してきたのだから仕方がない。

それに、エネルギー波によって前方の宇宙マンボウはその巨体のほとんどを失い、射線の開いた今もう邪魔するものは何もない。


須弥山から金剛杵が放たれた。

一度目標を捕捉すると自動追尾する金剛杵は複雑な軌道を描き、再びエネルギー波を撃とうとする宇宙マンボウに襲い掛かる。


くそったれ…


死にかけの宇宙マンボウは両艦隊の砲撃を浴びながら、それでも這いずるように動き出し金剛杵のレーザーを遮った。

コアを撃ち抜いたレーザーは、そのまま次の宇宙マンボウに突き刺さる。


巨大な宇宙マンボウに比べれば、針のように細い光はその巨体をいとも容易く貫いた。


口内のエネルギーは拡散し、崩れ始める外殻からは流星ダツも発生せず、宇宙マンボウはのたうちまわるように暴れ出す。


このまま終わる!…その時誰もがそう思った…


しかし苦しみもがく宇宙マンボウは、両艦隊の一瞬の隙をつき、砕けたもう1体のコアを飲み込んだ。

宇宙マンボウは赤と黒の交互に点滅を始め、砕けた外殻の隙間からエネルギー波を吐き出しながら、それまでとは比べようもない程のスピードで前進を始めた。


宇宙軍艦隊は隊列を崩し、宇宙マンボウを抑えきれず、易々と突破を許す。

ラグナロク艦隊も宇宙軍艦隊を押し退け追撃するが、砲撃しながらでは追いつけず、どんどん引き離されていく。


自爆する気だ…


こんな事初めてだけど、間違いない。

砲撃を止め、艦内にある全ての物資とバトルドールを降ろしても、宇宙マンボウのスピードに追いつけない。


「マスター…」


誰もが諦めかけたその時です!

暗い宇宙を切り裂くように、一筋の光が現れたのです!

それは彼女たちが初めて見る、白いバトルドール!

背中に手作り感満載のゴテゴテした大型ブースターを、冗談みたいにいくつも取り付けたバトルドールは……あっ…………食われた…


《(」;∀;)」助けてーーー!!!》


それはラグナロク艦隊に送られてきた、あの宇宙マンボウに丸飲みされたバトルドールからの通信文…

なにやってんのよ!


その時、宇宙マンボウを一筋の光が貫いた。

それはエインヘリアル艦隊を引き連れたヘイムダルのギャラルホルン。


『ちょっとミルフィーユ!中にマスターが!』

「構わん撃て。」

鈴鹿姫の声も、今のミルフィーユには届かない…

そして、再び砲火は放たれる…


《(」;∀;)」止めてーーー!!!》


それを最後にマスターからの通信は切れた…

がんばれマスター!


さて、冗談はさておき!

早くあのバカを助けなければ!

ラグナロクの冒険者たちは、今回で一番の働きを見せる。

ラグナロク艦隊から慌てて飛び出すバトルドールは、ギャラルホルンの砲火により動きが鈍った宇宙マンボウに取り付き、手にした武器でほじるほじる!

硬いところは艦隊の砲撃で砕き、またほじる!

次々と現れる流星ダツも瞬殺され、またほじる!

ねちねちねちねち!

宇宙マンボウは体についた寄生虫を払うように暴れまわるが、そんな事はお構いなしに掘りまくる!


すると突然、宇宙マンボウの動きが止まり、お尻からレーザーが飛び出す。

外殻はボロボロと剥がれ、内側からボコボコ膨れ上がる。

なんかヤバイ!

バトルドール隊が緊急離脱したその瞬間、宇宙マンボウの巨体は弾け消えていく。


『マスターーーーー!!!』


《(」;∀;)」は〜いっ!!!》

消えゆく宇宙マンボウの内側から、何かが姿を現した。

それは見た事もないコロニー。

《(」;∀;)」怖かったよぉ〜…》

見た目もサイズも、アルフヘイムや須弥山と同様だけど、後方に移動用と思われるエンジンが付いている。

《(」;∀;)」ねぇ?何で俺が中にいるのに攻撃したのぉ〜?…》

しかし、なぜこんな物が宇宙マンボウの中に…

《(」;∀;)」俺はいらない子なのぉ〜?…》


突然の出来事に動揺はしつつも、ラグナロク艦隊とエインヘリアル艦隊は合流を果たす。

マスターはあの謎のコロニーの中にいるようだ。

宇宙マンボウも消えて、ちゃんと通信できるようになったのだから話せば良いのに…

まったく、いじけよってからに!


《(」>Д<)」何とか言ったらどうなんだい!この、おばさん共!!》

ラグナロク艦隊より謎のコロニーに向け、一斉砲火が浴びせられる。

《(」>Д<)」そんな攻撃屁でもないわい!》

ラグナロク艦隊からの砲撃は、全てコロニーの防御フィールドに阻まれ拡散する。

あのコロニーは現在も稼働中。

それなら宇宙マンボウのお尻から出たレーザーも、あのコロニーから…


まったくもう…鈴鹿姫は謎のコロニーに向け通信を入れる。

「聞こえますか?」

《( 」´▽`)」聞こえます!》←話せよ!

「危ないから、早く出てきなさい!」

《( 」´▽`)」…。》

「どうしたんですか?」

《(」;∀;)」出口が分かんにゃい…》

「…。」

《(」;∀;)」必死だったんです…》

「…あの攻撃はマスターが?」

《(」;∀;)」いろいろいじくってたら出ました…なんかレーヴァテインっていうみたいです!》

「…迎えを出しますから、携帯端末の電源を入れておいて下さい。それから、もう何も触らないで下さいね!」

《(」;∀;)」怖いから早く来て下さい…》


鈴鹿姫の指示を受け、謎のコロニーへと向かったバトルドール小隊は、手分けしてマスターの捜索を開始した。

まったく…しかし謎のコロニーに、謎の兵器か…

次から次に良く出てくるもんだ………あっ!


『おいっ!もう1体の宇宙マンボウは!?』


《( 」´▽`)」GETだぜ!》

「はぁ?」

《( 」´▽`)」捕獲に成功しました!》

「はぁ!?」

《( 」´▽`)」あっ!お迎えが来ました!あとはミルフィーユに聞いて下さい!》


マスターは一方的に通信を切った。

出てきた所を砲撃するよう命じた鈴鹿姫は、ヘイムダルに通信を繋ぐ。


無傷のエネミーでも、捕獲できる事はある。

ただし何億分の一とかそんな確率で。

その為、狙って出来る事ではないし、ましてや宇宙マンボウで成功するなんて…出来過ぎじゃない?


艦長席で苦笑していた鈴鹿姫は、ミルフィーユが続けた言葉を聞いてぽりぽり頭をかく。


やっぱりな…


宇宙マンボウの捕獲には成功したが、捕獲の瞬間宇宙マンボウは大量の卵を産んだ。

その数およそ300,000,000個。

いまはまだ孵化していないが、もし全てが孵化したら…


《(」;∀;)」ひどいよぉ…》

主砲の直撃を受けたマスターから、情けない通信文が届く。


ひどいのは、いまの状況だろうが!



熊本地震…大変ですね(´・ω・`)

これを読んでくれてる人に、熊本の人がいない事を祈ります。


地震は苦手です。


ボロいマンションで一人震える十でした。

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