027
「ぼさっとしてんな!」←すいません…
「邪魔です!」←ごめんなさい…
「もうあっち行ってろ!」←はい…
何もやらせて貰えない…
ひどくない?俺が考えたのに!
司令室の片隅に置かれた椅子に座り、タバコをふかす。
抗議のつもりでそのまま吸っていると、ニャモの最新作〈ν小宇宙掃除機(仮)〉が臭いタバコの煙を吸い込み、お花の香りに変えていく。
今回のν小宇宙掃除機(仮)は装着型ではなく、空中を漂いながら煙を吸い込んでくれる。
その姿はまるで可愛い妖精のようで微笑ましいが、かなりの問題がある。
煙は口から吸い込むのだが、きれいになったお花の香り付きの空気を、そのお尻から噴き出している。
これは、さすがにマズイだろう…
嫌ならタバコをやめろ!そういう事なんだろうけど、こればかりは、なんともね…
さてさて。
迫り来る3体の宇宙マンボウ討伐の為、世界は動き出した。
鈴鹿姫率いるラグナロク艦隊は、宇宙軍と合流する為に宇宙回廊へと向かった。
第五フォボスでは、エインヘリアルのメンバー総出で捕獲器の搬入を急いでいる。
集めた捕獲器は、その数およそ110,000個。
これでなんとか1体だけでも、60時間以上は足止め出来る。
この時間内に残る2体を討伐出来れば、まだ人類に勝機はある。
通常5日間行われる宇宙マンボウ討伐戦を、今回彼女たちには半分の時間で2体を片付けて貰わないといけない。
そうしなければ、残る1体が間に合わない。
ギルド艦の参戦や、須弥山の金剛杵の使用などプラスの面もあるが、宇宙軍が壊滅状態のいまマイナス面も大きい。
それに今回は討伐の為の準備が、余りにも不足している。
後方支援にはユグドラシルと三星重工が全面的に協力してくれているのだが、課金アイテムだった高ダメージを与える専用アイテム〈対宇宙マンボウ魚雷〉、通称〈泡魚雷〉の数が足りない。
〈泡魚雷〉
対宇宙マンボウ用に作られたバトルドール専用の秘密兵器!
現実世界のマンボウ最弱伝説では、死因のひとつに水中の泡が目に入ったストレスで死ぬというのがある。
このウワサ話から呼ばれるようになったこの魚雷は、宇宙マンボウの弱点とされる目に当たると、泡のような光を放つ。
一度の出撃で一発しか装備できず、次弾装填にはまたギルド艦に戻らなければならない。
だがその威力は脅威的で、広範囲の体組織を分解し、高ダメージとえげつないストレスを宇宙マンボウに与える。
宇宙マンボウ討伐に必要な泡魚雷も、時間稼ぎに必要な捕獲器も、いま急ピッチで生産され無償で提供される事になっているが、おそらく間に合わない。
宇宙マンボウは毎年必ず進行してくるのに、なぜ足りないのか。
それは冒険者が買おうとしなかったから。
今年は…ゲーム終了の年。
だから、最強ギルド決定戦も、宇宙マンボウ討伐戦も行われる事はなく、告知さえ無かった。
イベントが無いなら買う必要はないし、売れないなら作る必要もない。
大体3体も宇宙マンボウが進行して来るなんて、想像さえしなかったのだから、こればかりは愚痴を言っても仕方がないんだけどね…
「マスター。アルフヘイムより増援艦隊が到着しました。」
視線を上げると、いつもと違う際どい格好のミルフィーユが、いつもの口調で微笑んでいる。
ν小宇宙掃除機(仮)が首から下げるポシェット型の携帯灰皿にタバコを入れると、ν小宇宙掃除機(仮)はそれをニギニギして火を消し、頭上で待機する。
ヘイムダルを含むエインヘリアル艦隊は、宇宙回廊とは別ルートから来る宇宙マンボウの足止めに向かう。
シーサーが艦長を務めるギルド艦オーディンは、一足先に宇宙マンボウへの捕獲器使用のテストを行い、これに成功した。
これで集めた捕獲器も無駄にならない。
あとはシーサーたちの帰還を待つばかり。
留守にする第五火星宙域には、アルフヘイムに残る艦隊から半数を呼び出した。
第五火星住民の避難が目的だったが、彼らは第五火星を離れるつもりはないようだ。
説得はしたが、どうせ死ぬなら生まれた星で…そう言われては、無理強いも出来ない。
第五フォボスには茜が残り、第五地球にいる徳川社長と共に、後方での指揮をお願いしている。
しかし、茜はともかく徳川社長は、ものすごくご立腹でございました。
事前に相談する事もなく、いろいろ決めてしまったので当然だけど。
とりあえず、話は終わった後で。
なんとか言い訳をして誤魔化したけど、納得いかない顔をしていた。
それでも準備はしっかりとやってくれるのだから、まったく頭が下がります。
「司令。シーサーが戻りました。いつでも行けます!」
積み込み作業や艦隊編成など、任せっぱなしにしていた諭吉の声は、退屈だけどのんびりしていて心地良かった俺の休み時間の終わりを告げ、よっこいしょと立ち上がる俺の姿は、この場にいるみんなの気持ちを引き締める。
「では行きますか。」
気の抜けた俺の声で、エインヘリアル艦隊も動き出す。
…さて、どうなるかね。
◆
宇宙軍の残存戦力
艦艇 750,000隻
バトルドール 54,000,000機
総戦力の7割を失いながらも、大日如来を筆頭とした5隻のコロニー級巨大戦艦は未だ健在であり、残る全ての戦力は修復と補給を終えていた。
5隻の巨大戦艦は、その内部に最大400隻の戦艦を修復出来るドックや補給設備を有する、言わば自由軌道型のコロニー。
宇宙軍と合流したラグナロク艦隊のもとに、須弥山からの補給物資と宇宙回廊の航路図が届く。
宇宙マンボウを迎え撃つ戦場は、第五土星宙域。
大日如来を先頭に、次々とワープして行く宇宙軍。
その最後尾に控えるラグナロク艦隊では、冒険者たちがギルド艦のブリッジで、またバトルドールのコクピットで、今や遅しとその時を待っている。
「さあ行こう。」
鈴鹿姫の号令により、ラグナロク艦隊もワープを開始した。
そこにあるのは白い壁。
星々を飲み込み突き進むそれは、まるで何かの冗談のよう。
ワープアウトしたラグナロク艦隊の目の前では、すでに宇宙軍の艦艇が前進を開始し、バトルドールが出撃する。
鈴鹿姫もバトルドール隊全機の出撃を命じ、輸送船には戦線を離脱させる。
用意出来た泡魚雷は15,000発。
かつての冒険者たちは、ひとりで1,000発以上消費するものもいたのだから、この数では焼け石に水。
でもそれはゲームの時の話。
ゲーム内でのデータでしか無かったサポートキャラクターが、現実の肉体を持つ生命体として存在するこの世界では、エネミーである星喰もまた命を持つ存在となった。
冒険者となってからも多くの星喰を倒して来たが、そこでひとつの大きな違いに気が付いた。
人間に心臓があるように、星喰にもまた心臓がある。
私たちはそれを〈コア〉と呼んでいる。
コアの場所は個体によって様々だが、コアを失った星喰は、その巨体を維持できず崩壊する。
宇宙マンボウのコアを見つけ出し破壊できれば、この絶望的な状況も逆転できる。
先行する宇宙マンボウに対し、宇宙軍艦隊の砲撃が開始される。
宇宙軍が誇る5隻の巨大戦艦の主砲は、その一撃で宇宙マンボウの巨体に穴を開ける。
しかし、その穴はみるみる塞がり、砕けた外殻は小型エネミー〈流星ダツ〉へと変わり宇宙軍のバトルドール隊へと襲い掛かる。
宇宙軍艦隊は、塞がりかけた穴へ砲火を集中し、その内部をさらに抉る。
「姫!あれ!」
出撃していたラグナロク艦隊のバトルドールからの通信を受け、モニターを見つめていた鈴鹿姫がニヤリと笑う。
宇宙マンボウの側面へと回ったラグナロク艦隊は、宇宙マンボウの頭部に一斉砲火を浴びせる。
大きく砕かれた外殻の内側に、赤黒く不気味に輝くコアが姿を現わす。
泡魚雷を搭載したバトルドールの小隊が、一斉に突撃を開始する。
射程の短い泡魚雷を確実にコアに当てる為、ギリギリまで接近しなければならない。
これを任されたエース級のパイロット達を守る為、押し寄せる流星ダツにバトルドール隊全機が襲い掛かる。
突進してくる流星ダツを、盾で受け止め蹴り飛ばし、剣を突き立て槍で刺す。
ビームライフルで撃ち抜かれた流星ダツを、メイスで砕き斧で切り裂く。
そして、流星ダツの群れを突破したバトルドールが泡魚雷を発射する。
宇宙マンボウの頭部は光の泡に包まれ、宇宙マンボウはその巨体をくねらす。
そこに宇宙軍、ラグナロクの両艦隊は十字砲火を浴びせる。
そして、先行する宇宙マンボウの1体は、その巨体の半分を失う。
だが…まだ消滅しない。
まだ回復しようとしている。
「失敗した…」
ラグナロクのバトルドールの1機からの通信。
モニターに映し出される録画映像には、コアの移動する瞬間が、ハッキリと映っている。
やれやれ…
コアの場所まで変えられるのか…
椅子に座り直した鈴鹿姫は、回復しつつある宇宙マンボウに再突入を命じる。
その後方から接近するもう1体の宇宙マンボウには、宇宙軍が壁となりその進行を阻む。
「興奮しすぎだよ。不動明王。」
指揮卓の上で正座している不動明王の顔は、もう真っ赤っか!
「こんなの初めてだから!」
きっとマスターたちも興奮しているだろう。
未曾有の脅威にさらされたこの世界で、不謹慎だろうけど、それでも楽しくて仕方ない。
難しければ難しいほど、燃えてくるのが冒険者だからね!
「さあ!楽しもうやっ!!」
一番楽しそうな鈴鹿姫の声は、ラグナロク艦隊だけでなく宇宙軍にまで届いてしまい、この後ものすごく怒られる事になるのでした。
◆
これ…どういう仕組みになってるの?
笑えるくらいに大きい宇宙マンボウが、あんな小さな箱に吸い込まれ、閉じ込められる。
ブルッ…ブルブルッ…ボーン!
はい!次いきましょう!
宇宙マンボウを閉じ込めた捕獲器は、何度か震えて爆発する。
こんな所はゲームと一緒か…
「たまには攻撃しませんか?」
「…うん…まあなんだ…もうちょい頑張ろう。」
千手観音の諭吉が、辛そうな顔をして通信を入れてくる。
おそらくみんなから、不満が出ているのだろう。
宇宙マンボウ足止め作戦を開始してから、早くも1日が過ぎた。
すでに捕獲器を使い果たしたヘイムダルは後方へ下がり、暇を持て余したメンバーは、普段は出来ない艦内のお掃除を始める始末。
俺はいま、ヘイムダルのブリッジに置かれた小さな椅子に座り、ぽちの小さな拳でぐりぐり攻撃に耐えている。
もうここに、俺の居場所はない…
艦長職はすでにミルフィーユのもので、俺はラグナロクのギルドマスターだけど、ここではメンバーのひとりにすぎない。
「マスター!第五フォボスの茜さんから通信〜!」
こんな時でもお化粧中のUSAが、のんきに告げる。
「繋いで下さい…」
おいっ!いまにもそう言いそうな茜の顔が、モニターに映し出される。
人類存亡の危機のいま、補給物資の搬送に追われる第五フォボスや須弥山だけじゃなく、世界中どこも大忙しなのです。
第五地球では住民の避難や各部署への指示、ユグドラシルや三星重工ではアイテムの生産、そして宇宙回廊では今まさに死闘が繰り広げられている!
いるんだよ!!
それなのにお前らと来たら…
「てめぇらの馬鹿さ加減にはなぁ、姉ちゃん情けなくて涙が出てくらぁ!」
姉ちゃんて…
君は知っているのかい?
ここにいるみんなは、君よりずっと年上なんたぜ!
見た目はみんな変わらないけど、ゲーム配信から15年経っている。
ですから、見た目は幼いぽちでさえそれなりなので、見た目が大人のミルフィーユとかは…ねっ!←《(º言º)あぁ?》
「…あっ…でっ?どったの?」
何かを察しオーラを放つミルフィーユから逃れるように、呆れ顔の茜に問いかける。
それは予想通りの答えだった。
ゲーム内通貨である《円》で購入できるアイテムの生産は進んでいるが、課金して得る《ゴールド》で購入するアイテム、特に泡魚雷の生産が間に合わない。
でもそれは、予算が足りないから、という訳ではない。
ユグドラシルと三星重工で生産している回復アイテムや捕獲器などの、いつも使用しているアイテムとは違い、泡魚雷は期間限定で三星重工でのみ製造していた。
そしてそれは製造方法や材料などが完全にブラックボックス化していて、三星重工のメインコンピュータが自動で製造する為、ユグドラシルでは製造出来ない。
こればかりは社長である茜でもどうにも出来ず、ハッキングも出来ないらしい。
運営さん…なんでこんな面倒臭い設定にしたのよ…
ただ分かっている範囲では、泡魚雷の材料に星喰の体組織が使用されているとの事。
星喰を殺す為に、星喰の力を利用する。
人間というのは、なんとも逞しい生き物だね。
「なんの役にも立てなくて、ごめん…」
うつむいた茜の瞳から涙が落ちる。
「泣くなよ!面倒くせぇ!」
『お前!!』
「十分よっ!なんとかするから任せとけ!」
「…でも。」
「俺を誰だと思っている?俺は…」
『ああああぁぁーーーー!!!』
決める!決めてやる!
そう思っていたのに、俺のセリフをかき消すように、うとうとしていたヘイムダルが飛び起き絶叫する。
モニターが切り替わり、映し出されたものを見て、みんな言葉を失う。
ニャモや玉藻など、各持ち場についていたメンバーもブリッジに集まって来た。
これはこれは…
何事かと聞いてくる茜の声がブリッジに響くなか、みんなの笑い声がそれをかき消す。
これはもう、笑うしかないだろう…
4/1のエイプリルフールに間に合わせようと頑張りましたが…ダメでした( ˟ ⌑ ˟ )
これで終わりです!…な〜んて、うっそ〜ん!
これがやりたかった十でした。




