026
それが通ったあとには何も残らない。
それに意思があるのか誰も知らない。
それはただ全てを飲み込み突き進む。
ネフィリムが教えてくれた通り、3体の宇宙マンボウは確かにこちらに向かっている。
2体は宇宙回廊を、そしてもう1体はまったく別のルートを新たに作りながら、ゆっくりと恒星ソールを目指している。
偵察に出たギルド艦の観測により確認された宇宙マンボウは、現在第五海王星周回軌道の外まで近づき、モニターに映し出されたそれは確かにそれと認識出来る。
宇宙マンボウの脅威は、ここにいるみんなが知っている。
ゲーム時代はただのお祭りでも、現実となったこの世界では、まるで悪夢のような状況だ。
しかもこんな時に…
ラグナロクの冒険者である彼女たちは、第五ダイモスを第五火星に落とすべく、これを動かした。
まさか星まで動かすとは…
本当にこの世界はなんでもありなんだね。
第五フォボスの司令室には、諭吉や茜の他にもサポートキャラクターの代表としてシーサーにも集まって貰った。
前線では八戒の指揮のもと、エインヘリアル艦隊が待機している。
動き出した第五ダイモスと、迫り来る宇宙マンボウ…
特に宇宙マンボウは、この世界の全ての戦力を集結しなければならない。
その為にはラグナロクとの停戦と、宇宙軍の協力がいる。
アルフヘイムや須弥山では、既に観測されているかも知れないが、おそらくまだ気づいていないラグナロク艦隊をどう止めるか。
また、土下座…かな?
でもその前に、試して置きたい事がある。
宇宙マンボウの進行を食い止める手段として思いついた事だけど、実際に使えるか、まずはいろいろ試してみないと。
いまのこの世界は、ゲームの世界と大きく違う。
設定上の存在だったこの世界の人間と触れ合えたり、換金アイテムだった戦艦の残骸を修理しての再利用や、攻撃対象に選べなかった衛星の軌道を変えたり出来る。
だったら、これも出来るかも!
「いや!…うん…まぁ〜…どうかなぁ…」
司令室に集まったみんなに説明すると、みんな揃って腕を組み、ぶつぶつ言いながら考え込む。
そんな事に使って良いのか?
確かに出来ないとは書かれていないが、それが出来たら大変な事にならないか?
だってそれが出来たら、もう何でも有りじゃん!
まあ、ダメ元でやってみましょうよ!
元々第五ダイモスを止める手立てはない。
ラグナロク艦隊を相手にしながら、第五ダイモスを破壊出来るだけの戦力は、こちらには無いのだから。
あとは、あの子たちにどう伝えるかだね。
これが一番難しそう…
◆
「まだ動かない?」
鈴鹿姫の声に首を縦に振るものはいない。
数隻のギルド艦は出入りしているものの、艦隊規模での動きはない。
連中もさすがに第五ダイモスの異変に気付いたはずだが…
打つ手がなくてパニクってるのか、諦めたのか…さすがにやりすぎたかな?
第五ダイモスは予定通り軌道を変え、第五火星への落下を開始した。
止める為には破壊するしかないが、それを黙って見ているつもりはない。
エインヘリアル艦隊が動き出せば、こちらも全ての戦力をぶつけるつもりだ。
第三艦隊もすでに合流し、ラグナロク艦隊は宇宙煙幕に包まれた第五フォボスを包囲している。
ラグナロク艦隊と第五ダイモス。
連中はこのどちらも相手にしなければならない。
こちらに向かってくれば第五ダイモスの落下は阻止できず、あちらに向かえば袋叩き。
どちらにしても、エインヘリアルはもう終わり。
彼らの望みは打ち砕かれ、私たちは自由を求め立ち上がった者たちを殺害にした虐殺者。
これで終わればね…
もちろん本当に落とすつもりはない。
間に合わなければ、内部に残した核で破壊し、破片は艦隊の砲撃で砕く。
それでも多少の被害は出るだろうけど。
でも、あの人がこんな事を許す訳がない。
あの人なら連中も、そして私たちも救ってくれる。
そうでなければ、ラグナロクのギルドマスターは勤まらない。
私たちの信じたあの人なら、必ず止めてくれる。
「でもマスターだよ?」
「マスターは大抵ダメな子だよ?」
お願いしますよ…マスター!
『姫!!』
モニターに目をやると、そこには1機のバトルドールが、宇宙煙幕を抜け出して来た。
それは荼枳尼天。手には…屁っ放り腰のマスター…
しかもこの後に及んでまだ顔を隠している…
「姫。マスターが通信を求めています。」
「つなげ。ただし、私たちはまだ、あれがマスターだと気づいていない体で頼む。」
「え!誤魔化すんですか?」
「…可哀想でしょ…」
皆が哀れみの目を向けるモニターには、一生懸命手を振るマスターが映っている。
「みんな、一生懸命な人を笑っちゃダメよ。」
☝︎《おいっ!なぜ今それを言った?》
「…あっ!やっと繋がった!」
☝︎《やばい!》
「どうした?司令官殿。」
☝︎《おのれ〜…卑怯だぞ!》
「やあ皆さん。ごきげんよう!」
☝︎《くっそ…少し声が低い!》
「なんだ…降参か?」
☝︎《お前も声震えてんじゃん!》
「まさか!ちょっとお願いしたい事がありまして。それとアレを止める為に、これから皆さんに、ちょっとした魔法をお見せしようと思ってね!」
☝︎《魔法て!頼む!やめてくれ!》
「魔法か!それはすごい!ぜひ見せてくれ!」
☝︎《やめたげてよぉ!…もう不憫で…》
「ではご覧に入れよう!It's Show Time!」
不動明王のブリッジで、冒険者たちが次々と倒れ悶え始める。
おそらく他のギルド艦でも同様だろう。
確かに大した魔法だ。
It's Show Time!☜《勘弁してくれ!》
白瀬の合図〈It's Show Time!〉☜《許してくれ!》を受け、荼枳尼天が信号弾を打ち上げる。
それを確認し、宇宙煙幕を抜け出したのは千手観音1隻のみ。
第五ダイモスに急行する千手観音の迎撃の為、第三艦隊が動き出したが鈴鹿姫がこれを止める。
「構わん。たった1隻で何が出来る?魔法…とやらを見てやろう。」
☝︎《もうニヤけてるじゃん!口元ゆるゆるじゃん!》
第五ダイモスを射程に捉えた千手観音から、一筋の光が伸びる。
第五ダイモスの手前で弾けたそれは、眩い光を放ち第五ダイモスを包み込む。
それは本当に魔法のよう。
スペースコロニーより大きな衛星を包んだ光は、みるみる小さくなり、そして消えた。
そこにあったはずの第五ダイモスが一瞬で…
『イエーーーース!!』
何が起こった?
通信が繋がったままの白瀬の声が響くなか、冒険者たちはただ黙ってモニターを見つめる。
『フォオオオオオ!!』
何をした?
必死に荼枳尼天の手にしがみつき、クイクイ奇妙に腰を振る白瀬を、もう笑うものは誰もいない。
モニターを見つめる鈴鹿姫は、黙って腕を振り下ろす。
ラグナロク艦隊は宇宙煙幕に向け、一斉砲火を開始した。
『オオォイイィー!!』
こんなに簡単に…
白瀬の声に、もはや誰も耳を傾けるものはいない。
より砲火は集中し、密度を上げる。
バカにしやがって!
その時、不動明王のブリッジに索敵士の声が響く。
それと同時に、ラグナロク艦隊と宇宙煙幕の間を、一筋の巨大な光が引き裂いた。
「双方動くな。これは警告ではなく、命令だ。」
強制的に割り込んできた通信の声は、聞き覚えのある、だが聞き覚えのない口調。
砲撃の止まった隙に、その場を逃げ出すように指示を出した白瀬の目の前を、再び放たれた光が遮る。
「聞こえない?」
その場にいた全員が、氷のような冷たい声で背中にイヤな汗をかく…
ああ〜あっ…マスター…どうすんの?
これはもう…止められないよ?
遠く離れた宙域から近づく白い船は、マスターも良く知るギルド艦。
静かな怒りを秘めたヘイムダルは、マスターの目論見を打ち砕くべく、第五火星宙域に到着した。
◆
第五フォボスは、覆っていた宇宙煙幕の効力を失い、その姿を現した。
ラグナロク艦隊の猛攻はその表面を焼き、幾つものクレーターを作り出した。
その第五フォボスを挟むように、両艦隊は展開し睨み合う。
いま第五フォボスの中央司令室では、ラグナロクの代表団を迎え、白瀬にとっては地獄のような話し合いが行われている。
中央司令室にはエインヘリアル代表の諭吉とシーサーたち分隊司令官4人、ラグナロク側からは鈴鹿姫たち各艦隊司令官とミルフィーユ。
そしてミルフィーユに、引きずられるように運ばれて来た白瀬は、まるでゴミのように中央に投げ捨てられ、ぴくりとも動かない。
「生まれてきてごめんなさい…」
その生気の抜けた顔は涙に濡れ、囁く声は今にも消えてしまいそう。
彼女たちのマスターであり、彼らの司令官である白瀬が、こうなってしまったのは今から4時間ほど前。
それはヘイムダルが、第五火星宙域に到着した時に遡る。
「マスター…一度こちらに来てください。」
「…いま…呼んできます。」
三度放たれたヘイムダルの主砲ギャラルホルンは、正確に、白瀬のいた空間を貫く。
ひらりとかわした飯綱の反応が遅れていたら、死んでいたんじゃない?
「飯綱姉さん。ヘイムダルに加入申請をお願いします。」
「う…うん。」
ミルフィーユに言われるがまま、加入申請を出した飯綱は、承認を受けヘイムダルへと向かう。
『やだーーーー!!!』
白瀬の叫びは、通信が繋がれたままの両艦隊に悲しく響き…そして、聞こえなくなった。
この時の事を、のちに飯綱がこう語る。
あれはまさに悪夢であったと…
荼枳尼天がヘイムダルに収容されると、白瀬はミルフィーユにより、ご立腹メンバーが待ち構える物資用格納庫へと引きずられて行く。
床に爪を立て必死に抵抗する白瀬の頭には、元お父さん大好きっ子のぽちと、サプライズを楽しみにしていたニャモがかぶりつく。
重苦しい音を立て閉じて行く扉。
その音に、白瀬の断末魔のような声は、悲しくかき消されていく。
扉の外には飯綱と、小刻みに震えるヘイムダルのふたりが残された。
『やめたげてよぉ!』
突然叫び出しパニクり出すヘイムダル。
辺りをワタワタ走り回るとその場に倒れ、白目をむいてぷかりと浮かぶ。
すると艦内の照明が落ち、ヘイムダルは全ての機能を停止した。
ギルド艦のメインコンピューター〈クラバウターマン〉は艦内での出来事を全て認識している。
この厚く閉ざされた扉の先では、それほど恐ろしい事が行われているのだろう。
非常用発電システムにより照明は戻っても、ヘイムダルの意識は戻らない。
きっとこれが終わるまで、ヘイムダルは心を閉ざし決して起きない。
扉を背にして座り込んだ飯綱は、膝を抱え、ただ祈った。
はやくこの悪い夢から覚めるようにと…
で!これですよ!
4時間みっちり怒られた白瀬はすでに燃え尽き、まるでボロ雑巾のよう…
そんな白瀬はほっとかれ、話し合いは進んで行く。
第五フォボスやアルフヘイムでも確認された、3体の宇宙マンボウの進行。
第五地球や須弥山でも準備は進んでいるが、すでに諦めムードである事。
それに…マスターの計画の事もある。
だけど、ミルフィーユはまだこの事を伝えられずにいた。
それはマスターが止めたから。
「いまは宇宙マンボウを何とかしよう。あとは、それからね!」
どんなにみんなで怒ってみても、心配しても、笑ってそう言われれば逆らえない。
そんな自分に腹が立つ。
でも、宇宙マンボウを止める事さえ出来れば、まだチャンスはあるのだ。
「停戦に異論はないが、このままうやむやにはさせんぞ。必ずけじめだけは付けさせて貰う。」
「もちろんです。私たちにも、それくらいの覚悟はあります。」
鈴鹿姫の声に、諭吉が返す。
「だが手はあるのか?宇宙マンボウ2体は何とかなっても、残りの1体を止める時間はないぞ。」
「魔法を使うのです。」
世界中の人間が諦めかけているそんな理由を口にした鈴鹿姫に、のそのそと起き上がった白瀬が、若干低めの声で話しかける。
「…?」
「まだ分かりませんか?」
そう言って立ち上がる時の顔は、どこかすまし顔…心配です。
「荼枳尼天の手の上にいたのは、実は私でした!」
…うわぁ…
「…びっくりです。」
「でしょう!!」
…うん。知ってる。だからミルフィーユに怒られたんでしょ?
気づいていたし、聞こえていたし…
正体を隠せていたと信じていたのは白瀬だけ…
当然もう気づかれているものと思っていた諭吉たちもシラけるなか、可哀想なピエロは踊り続ける…
「宇宙マンボウに通用するかは分からんが、第五ダイモスでは上手くいったし、試してみる価値はある。」
おそらくは、自分が思いついた作戦が、上手くいったのが嬉しいのだろう。
もっと早く、気づいているよと伝えていたら、こんな空気にはならなかったのに…
みんなはまだ様子見状態で、動く気配は感じられない。
こうなった責任は自分にある。
鈴鹿姫は歩き出し、白瀬の前で跪く。
「さすがはマスター!お見事でした!ですが、私にはまだ魔法の正体が分かりません。あれはいったい何なのですか?」
「うむ!あれは〈捕獲器〉なのだよ!」
捕獲器は大型のエネミー捕獲に使用するギルド艦専用アイテム。
だからゲームの時は、衛星や小惑星などには使用どころか選択すら出来なかった。
宇宙マンボウ討伐戦も、ギルド艦が参加しないバトルドールによる個人戦だったし、宇宙軍は使用しなかった。
その捕獲器を宇宙マンボウに使用する。
捕獲器の説明には、エネミー限定とは書かれておらず〈対象〉とあり、その大きさの指定もない。
だから現実となったこの世界では、大型エネミーより遥かに巨大な第五ダイモスも対象に出来た。
でも…
「第五ダイモスを捕獲できたのは、抵抗されなかったからで、宇宙マンボウの捕獲は…まず無理だろうね。」
捕獲器は本来、エネミーが抵抗できないほど弱らせてから使用する。
そうしないと捕獲器の中で暴れて失敗するから。
「捕獲できないと分かっているのに、何故使うんですか?」
「今回の目的は、捕獲では無く、一度捕獲器に閉じ込める事です。」
「…?」
「これはゲーム時代の事だからテストしてみないと分からないけど、捕獲器に閉じ込めてから失敗して破壊されるまで2秒弱掛かる。現在エインヘリアルには、40,000個近くの捕獲器がある。ラグナロクが所有するものや、他からもかき集めたら、何時間くらい足止め出来るかな?」
鈴鹿姫は深々と頭を下げる。
なるほどね。確かに捕獲器を連続使用すれば、それだけその場に足止め出来る。
しかしなんだね、見上げた時のマスターのこのドヤ顔さえなければ、惚れなおしたのに…
熱を上げる司令室の中、さらに有頂天になる悲しいピエロの姿は、見ているだけで涙が出る。
もう良い!もう良いんだ!
そんなピエロを、ミルフィーユは優しく胸に抱きしめる。
「みんな、頑張ろう!」
あとはこのピエロを、世界を救った英雄にするだけ。
こうして白瀬の命運と、人類の存亡をかけた、宇宙マンボウ討伐大作戦が開始されるのでありました。
お待たせです✧٩(ˊωˋ*)و✧
…今月中にあと1本は…無理かな。
頑張ろう!私!
後書きの文を考えるのにも時間の掛かる十でした。




