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腹話術

 翌日。早朝の貸倉庫。空中に展開された紫がかった3次元ディスプレイの前で、



「え~っとつまり〔操十糸(ストリング・ドライバー)〕は、普通は〔引く〕ことしか出来ない〔糸〕に、〔押す〕という〔特性能力〕を加えた〔裏論武装〕ってことだよね?」



 黒に黄色のラインが入った戦闘用ジャージを着た一虎は、同じ服装で、ラインの色が紫の袖を捲った、ディプレイの横に立つ柳児に向かってそう言った。一虎のその言葉は、なぜだか右手につけたカエルの手袋型人形の口を動かしながらという奇怪なものだ。しかしそれにツッコむことはせず、柳児が同じような仕様の、牛の人形の口を動かして言った。



「そうだ。イメージとしては、イカの腕で考えるとしっくりくる。空気中を自在に動く10本の腕。押し、引き、結び、振動や衝撃の伝導。〔操十糸(ストリング・ドライバー)〕は、そういった〔糸〕を〔象徴〕する〔特性能力〕を持った〔裏論武装〕だ。そんで俺は、本来はバランスよく配分される〔身体能力強化〕の大半を、これを精確に操るため、〔脳の情報処理の高速化〕にあててる。だから平均的な〔裏論使い(ディベーター)〕が行う高速機動は苦手だ。さらには俺は2種類ある〔裏力(ストレス)〕のうち、体内に蓄積出来る〔慢性的裏力(カロニック・ストレス)〕を溜める〔器〕が小さい。だから出来るだけ〔裏力(ストレス)〕の消費を抑えるために〔論裏障壁(ロジカル・シールド)〕の耐久力も最低限しか残してない」



 柳児の言葉を少し想像してから、一虎は答える。



「確かに腕が10本も増えたって考えたら、脳の演算能力を上げないとそもそも使い物にならないよね。それに、戦闘中に発生する〔突発的裏力(バースト・ストレス)〕と、〔器〕が小さくて量が少ない〔慢性的裏力(カロニック・ストレス)〕だけじゃ、複雑な機構を持つ〔操十糸(ストリング・ドライバー)〕を操るには、〔裏力(ストレス)〕が足りない。というか、操れるし、戦えるけど、持久戦には耐えられないんだ。だから〔論裏障壁(ロジカル・シールド)〕なんかの、〔裏力(ストレス)〕を使って起動する機能を制限して、エネルギーを節約するしかないんだね」

「そういうことだ。つまり俺の使う〔裏論〕は汎用性の高さと引き換えに、コストとリスクが高いってことだな」



 少し苦々しげに言う柳児に、しかし一虎は的確に答えを返す。



「・・・でも、汎用性が高いってことは、それ1個で色んな戦術に対応出来る。だから〔ジン核〕の容量を使って第2、第3の〔形態(フォルム)〕を追加する必要はない。〔糸〕に新たな〔裏論〕を付与するとか、そういうことに容量を使えるんだね」

「そういうことだな。そんで、さらに〔特性能力〕に関して詳しく言うと、操る〔糸〕は指1本につき1本、合計で10本だが、その〔糸〕は、10本の〔より細い糸〕によって構成されている。つまり、それをほどけば最大100本の〔糸〕を繰り出せるってわけだ。もちろんほどいた分手数は増えるが、1本1本の筋力(パワー)は下がる」



 柳児が牛の人形の口を動かして補足しながら、半透明のディスプレイに映る映像を動かす。柳児を模したシルエットの腕から10本の線、〔糸〕が動き、一虎を模したシルエットに絡む。正解を出せたことで、一虎は安堵の溜息。



「で?〔傀儡柔法(くぐつじゅうほう)〕と〔傀儡剛法(くぐつごうほう)〕はどうだ?」



 柳児は、薄く唇を開け、しかし全くそれを動かさずに言葉を発した。彼のセリフを言っているように見える牛の人形に対し、一虎は先ほど教えてもらった知識を絞りだそうと、夢中になって言った。



「えっと、〔傀儡柔法〕は基本的には無機物へ作用させる技、だよね?あとは一瞬だけど、生物の四肢に〔糸〕を絡みつけて〔投げ技〕や〔絞め技〕を繰り出すんだ。僕を投げ飛ばしたり、アイン先生に瓦礫を投げつけたのがそうだよね?」

「ああ。この技術を発案した俺の認識としては、〔操作とは呼ばないレベルの干渉〕ってとこだ」

「そ、そっか。じゃあ、〔傀儡剛法〕は、その逆。絡みつけた〔糸〕によって、狙った相手を操作する技だ。反咲くんの言葉を借りると、〔相手を完全に操作出来るレベルの干渉〕かな?」

「まあ、そうだな・・・」



 鈍い返事が返ったことで、一虎は少し不安になり、さらに言葉を続けた。



「え、えっと、基本的には、〔傀儡剛法〕は、反咲くんの〔裏力(ストレス)〕で動く〔桧王〕と、そこに置いてある〔荒王(すさのおう)〕に使うんだよね?あ、あと確か今回の〔計画〕のために、新しく〔流王(さすらおう)〕って言う補助兵器を開発中だった、よね?」

「・・・」



 少しは自信を持って言った一虎に対し、柳児が腕を組んで黙りこんだ。突然の変化に一虎はついていけず、不安げに「え、っと?」と漏らした。すると、



「・・・合ってはいる。合っているし、お互いの〔裏論武装〕の〔特性能力〕や戦闘情報を知ることで、連携に支障をきたさないようにする、という目的は達成できた。そしてこれから、天出雲との〔論戦(ディベート)〕までにお前のやるべき3つの課題の1つ目を説明するわけだが・・・」

「わけ、だが・・・?」



 答えに思い至らない一虎は、戸惑った眼差しで柳児を見る。

 途端、



「あのな、竹叢・・・何途中から気ぃ抜いて普通に喋ってんだよ!?その右手のカエルさんはなんだ!?カエルさんの口が、全く動いてねぇんだよ!それじゃあ何のために〔腹話術〕の訓練してんのかわかんねぇだろが!?」



 一虎はその言葉でやっと右腕についたカエルさんを思い出した。柳児の質問に上手く答えられたことで、それの存在を完全に忘れていたのだ。



「ご、ごめん!」

「この間戦った時、お前自分でも言ってたが、すぐ油断して気を緩めるのは、お前の悪い癖だな。〔刀は抜いても気は抜くな〕。お前の最初の〔抜刀術〕、〔気抜(きぬき)〕とでも〔名付(ネーミング)〕してちゃんと肝に銘じとけ」

「・・・は、はい。申し訳ない」



 柳児はそんな風にしょんぼりする一虎に、



「オラ!またカエルさん動いてねぇぞ!?いいか!?この計画の成否は、俺の得意とする戦術、〔弱点包囲網(ウィークポイント・カウンター)〕が決まるかどうかにかかってる!そのためには俺達の息の合った連携が不可欠で、それには〔腹話術〕が必要なんだよ!」

「は、はい!」

「ああ~、もう面倒くさくなってきた。説明は中止だ。せっかく俺の集中力が高い〔早朝〕なんだ。もうさっさと1つ目の課題に取り組むぞ」



 そう言うと、柳児はサッと紫がかった3次元ディスプレイを消す。牛の人形型手袋を外し、手首の周囲を〔糸〕を放ったり巻き取ったりする円形のモーターが5つ付いた黒革のグローブ、〔操十糸(ストリング・ドライバー)〕を装着。一虎にスッと右手を向ける。

 途端、



「う、わ!?」



 一虎の身体に、奇妙な感触が奔った。まるで身に纏っているMサイズの戦闘用ジャージが、突然Sサイズになったかのような締めつけ感が全身を襲ったのだ。戸惑う一虎に、柳児が言った。



「よく聞けよ竹叢?ハッキリ言って、〔三段論法〕においてのバランサー、中衛たる〔二段〕向きの〔裏論使い(ディベーター)〕である俺の単体戦闘力は、かなり低い!」

「ええ!?で、でも・・・」

「俺は元々そんなに体力もないし、天出雲みたいな武闘派でもない。さらには〔裏論武装〕の設定上、〔論裏障壁(ロジカル・シールド)〕が薄いから打たれ弱い。だから俺には、〔操十糸(ストリング・ドライバー)〕の強みを活かすためには、〔盾〕となる人材が必要なんだ。天出雲と向き合って、俺を守れる人材がな。今回の場合、桧王に加えて、それはお前の役目だ」

「僕が、じゃあ、前衛に?アタッカーで、一番タフな人がやる、〔一段〕に!?」



 驚きを隠せない声音で一虎が問う。しかし、柳児のほうは至って平静を保ったままそれに応えた。



「本来お前は後衛たる〔三段〕向きの〔裏論使い(ディベーター)〕だが、今回ばかりは仕方ない。だからこれから毎朝、お前には俺の〔盾〕になるべく、課題に取り組んでもらう。その内容は・・・」

「な、内容は?」



 嫌な予感を感じ始めた一虎の前で、柳児が嗜虐的な笑みを浮かべて言った。



「例えて、〔ジェットコースターで昼寝出来るようになる〕、だ」

「・・・は?」

「行くぞゴミトラ!」



 瞬間、一虎の身体が、柳児の絡めた〔糸〕に引かれて宙を舞った。

 それから一虎は、赫夜と桧王が昼飯を買ってくるまで、柳児の糸に引かれて空中を飛び狂い、3度ほど吐いた。


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