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クイック・ドロウ

 その晩。〔月夜〕の下、柳児が借りている貸倉庫で、



「高速の抜き撃ちによる斬撃、つまり〔剣術〕における〔抜刀術〕の基本は、〔銃術〕における〔早撃(クイック・ドロウ)〕と同じだ」



 一虎は、少し離れた位置からそう言って、ホルスターに収まった拳銃を蹴って寄越したアインを見返した。柳児の提示した2つ目の課題の相手、倉庫内に灯された明りを眼鏡のフレームに弾かせて、翡翠色の瞳はまっすぐに戦闘用ジャージ姿の一虎を見返して言った。



「銃を持て、一虎」

「あ、の・・・?」



 てっきり〔抜刀術〕を教えてもらえると思い、ジャージの左腰に〔抜刀(ぬきがたな)〕を装着していた一虎は、アインのその行動に戸惑いを隠せない。同じく隣で戸惑った表情を浮かべた、〔時環帯〕制限を解除され、柳児の私服である黒のジーンズに黒のYシャツを袖や裾を折って着た、大人赫夜と顔を見合わせる。すると、アインが苛立たしげにウェービーな金髪を揺らして言った。



「話を聞いていたか?」

「あ、は、はい!でも・・・」

「だったらさっさとそんなナマクラ外して銃を装着しろ!」

「ナ、ナマクラってなんですか!?」

「ああお前だお前。役立たずの白髪ネギ」

「・・・役立たずなら、一人でご飯も食べられない方を知っていますけど?」



 アインと赫夜が険悪な睨み合いを始めたので、一虎は慌てて腰から〔抜刀(ぬきがたな)〕を外して赫夜に言った。



「か、赫夜!僕、やってみるよ!」

「一虎さん?でも・・・」



 心配そうに一虎を見返す赫夜のルビー色の瞳に、一虎は言った。



「とにかくやる。やってみる。そう決めたから。話はそれからだ」

「・・・わかり、ました。でも・・・」



 不承不承といった感じで、赫夜は一虎に頷きを返してからアインを睨む。



「私は、〔抜刀術〕がどういうものか、〔侍〕たる大和さんや、最強の〔抜刀術〕の使い手たる反咲流さんを見て、使えないまでも、頭では裏解しています。だからもし、この訓練が不毛なものだと感じたら・・・」



 アインは赫夜のその真剣な眼差しを受け止め、応えた。



「いいだろう。中止するなり、お前が一虎に指南するなりするがいい。だが、1つ言っておく」

「なんですか?」

「私にとっても、この訓練は重要だ。この〔計画〕が成功して一虎がこの学校に残れなければ、私は朝昼晩の3食を、一虎から食べさせてもらえなくなる。だから私は、本気で行く」



 動機の割に厳しい訓練を予感させる眼差しを向けられて、一虎は思わず身を竦ませた。

 だが、



「・・・〔手抜(てぬき)〕はいりません。僕は、アイン先生を〔信じます〕」



 少年は、そう言った。覚悟を決めたその言葉に、アインは呆けたような様子を見せる。自分の馬鹿な発言に呆れたのだろうと、一虎は問いかけることはしない。代わりに床に置かれたままのホルスターと、〔ハン核〕を使用した兵器らしい拳銃を持ち上げて、腰に巻く。

 少年の心には、〔気抜(きぬき)〕の二文字。気を抜くなと、一虎は自分に言い聞かせる。

 そして、



「僕は、何をすればいいですか?」

「・・・私を、信じ、て」

「はい?」

「あ、え?あ、ああ、そうだったな」



 何か戸惑った様子のアインが、そう言って気を取り直し、言った、



「そ、その、ま、まずは一虎に聞きたい。お前は、〔慣用効果〕という概念を知っているか?」

「〔慣用、効果〕?」



 一虎は疑問形で聞き返しながらも、すぐに気づいた。その言葉は、以前柳児と赫夜が使っていたのを耳にしたことがある。

 だが、



 「その、意味までは・・・」



 申し訳なさそうに一虎がそう言うと、アインが少し得意げに、〔拘束衣〕によって強調された大きな胸を張って言った。


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