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裏返り

『深夜さんは、一虎さんに期待してたんです』



 一虎は、そんな赫夜の声を幻聴して、ガバッとソファから身を起こした。混乱した頭が落ち着くにつれ、薄暗いここは寮の自室であり、表示させた3次元ディスプレイが4時24分を示していることに気づく。



『あんなことの後で、寝ちゃったのか、僕・・・』



 一虎は昨夜の出来事、柳児と深夜との一連のやりとりを思い出す。それは何も言えなかった自分。食堂に、赫夜とアインとともに取り残された自分の姿だった。

 そして、



『今の、夢は・・・?』



 一虎は、あまりにも鮮明で長い夢を見た。

 その中に出てきた少女の蒼い瞳に、一虎は見覚えがある。

 つまり、



「あの女の子は、天出雲、さん・・・」



 確認するような呟きに、深夜が去った後、彼女の態度について話してくれた赫夜の声が連続して蘇る。



『深夜さんは、強く気高い両親を、凄く尊敬しています。だから同じように強くなりたい。そして守りたいから、最強になりたいと願ってる』



『そんな両親の、お母さんの〔ジン核〕を、自分ではなく一虎さんが借りることになった。反咲流さんと双璧を成す〔侍〕、戦闘狂の絶薙大和と、一虎さんは同じ〔論派〕だった』



『そんな強いお母さんの〔ジン核〕を使う人間が、全くの素人だと、深夜さんは思っていなかったんです』



 それは、深夜が持っていた先入観。

 つまり、



『〔侍〕と同じ〔論派〕なら、僕は、竹叢一虎は、〔強い〕。そんな、勘違い。それを僕に押し付けてしまったから、だから、〔ごめん〕だった』



 さらに一虎の記憶の中の赫夜は、再び連続して言った。



『だから、深夜さんは、一虎さんと会うのを楽しみにしていたんです。深夜さんは、〔常に強くあろうとする〕、〔戦論派〕で、でも・・・』



『でも、深夜さんは、強すぎた。周りに追従出来る人は、大人以外、誰もいなかった。でも、一虎さんは今まで周りにいた同年代の、〔付き合うべきではない弱者〕とは違うと思った。自分と同じレベルの〔強者〕なら、〔初めての友達になれる〕と思っていた』



『深夜さんは、私が〔再武装化〕される間、ずっと私に一虎さんの話をしてたんです』



 それはまさに、先程の夢の中に出てきた深夜そのものだ。

 一虎は、強く目を瞑った。無口な深夜が、〔再武装化〕の途上で、まだ〔化身化〕していない赫夜に、楽しげに憶測を膨らませる姿が蘇らないように。

 しかし、



『・・・強いなら・・・強いのなら・・・〔友達〕に・・・なれる?』



 その言葉が、一虎の心を巡る。

 〔ばけモノ〕と呼ばれた少女の、〔強さ〕を求めたが故、〔弱さ〕を切り捨ててきた不器用な少女のささやかな期待。

 そして深夜の期待に、一虎は、



『僕は、応えられなかった。期待外れだった』



 一虎は、だから思った。



『みんな、勝手だ』



 そう思った。



『勝手に僕を邪魔者扱いして』



 そう思った。



『勝手に僕が強いって期待して』



 そう思った。



『僕が、何をしたっていうんだ』



 と。

 実際に、赫夜に対して一虎はそれらの言葉を吐露してもいた。

 すると、



『全部お前のせいだろう?』



 その場にいて、全てを聞いていたアインが、そう言った。



『お前が裏野に来ることを選んだから、全てが動いたのだろう?』



 と。

 一虎はその言葉に、



『・・・僕は、馬鹿だ』



 皆を勝手だと批判していた少年は、痛感し、現実を裏解した。



『僕が裏野に入学すると決めたから、絶薙大和さんに〔ジン核〕貸与の話が出た』



 事実が、裏返っていく。



『僕が裏野に入学すると決めたから、天出雲さんは僕に期待した』



 裏返っていく。



『僕が裏野に入学すると決めたから、鎌足先生が僕と反咲くんの寮室を同じにした』



 そうして裏返して言った結果。



『・・・全部、僕が根元にいる』



 一虎の下した、たった一つの決断。



『ここに来たいと思った』



 そのたった一歩。

 それが、



『反咲くんに迷惑をかけて、鎌足先生に気を遣わせて、天出雲さんを失望させたんだ』



 それは、〔もどかしさ〕をぶつけられる何かを求めてここにきた。しかし何の力も持たない〔普通〕の少年が導いた結果だったのだ。

 だが、



「うにゅ~」

「!?」



 一虎は、すぐ傍で上がった呻き声に驚いて振り返った。物思いに耽っていたせいで、昨夜添い寝すると言って聞かず、なんとか言いくるめて自分の代わりに少年のベッドで眠らせたはずの彼女のことを忘れていた。いつの間にか一虎のすぐ傍の床で眠り、少年の左手を握っている彼女に気づかなかった。一虎は、彼女の名を呟く。



「赫夜・・・」



 そして一虎は気づいた。

 先ほど見た夢の〔視線〕。小さな深夜と同じ高さの目線で、絶薙大和の腰の位置にあったそれ。そして赫夜と握り合った一虎の左手には、手を握った彼女の左頬、そこから広がった黒い罅割れが奔っていた。一虎はその奇妙な光景に、直感して呟いた。

 つまり、



「・・・あれは、君の記憶?」

「・・・」



 眠った赫夜が、何かを答えることはない。しかし、代わりに問い肯定するように、一虎の左手から黒い罅割れが引いていく。パキパキと音を立てて退いていく黒い罅は、一虎の手から赫夜の手に退き、やがていつもの少女の左頬を覆う程度まで小さくなった。



「・・・君は、天出雲さんが、本当に大切なんだね」



 一虎の呟きに、寝乱れた白い髪の束を咥えた口が、むにゃむにゃと微笑を作った。

 その微笑は昨夜、落ち込む一虎に赫夜が見せたものと同じだった。

 赫夜は、アインの言葉を借りて一虎に言ったのだ。



『そう。全部、一虎さんのせいです』



 彼女はそう言って、



『一虎さんのせいなんです』



 笑ったのだ。



『私がこうして〔人間〕の姿でいられるのは、夢の第一歩を踏み出すことが出来たのは、全部一虎さんのせいなんです。だから』



 本当に嬉しそうに、



『私は、一虎さんの味方です』



 そう、笑ったのだ。

 心の底から湧きあがる感謝を、感じたままの喜びを隠しもせずに。

 その表情に、一虎は、



『僕は・・・』



 〔普通〕の少年は、その時自分が感じた感情を噛みしめる。



『僕は・・・!』



 少年は、決意する。

 そして、



 コンコン。



 扉を叩く音と共に、赤い光が一虎の前に現れた。


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