うひょっふ!?
「俺や天出雲、その他大勢の新入生は、〔目的意識〕とある程度の〔力〕、つまり〔論裏〕や〔裏論〕を持ってここに来た。そもそも裏校は日本でも有数の〔論害〕襲撃率を誇り、しかし最高の設備や人材が揃った、ハイリスク・ハイリターンな場所だ。ただ地元だったから程度の裏由で、来るような場所じゃない。だがそんな場所においてお前は、鎌足に様々な配慮をさせるほど、例えば俺と寮の部屋を一緒にすることで赫夜の分析をさせたりするほど、あまりにも、〔普通〕だ」
〔普通〕。
その言葉が、一虎の心に深く刺さる。しかし柳児の言葉は止まらない。
「そして俺には〔目的〕がある。だからお前にデメリットしかないのなら、排除する。そう」
柳児の紫の瞳に剣呑な光が宿り、放射された生体放射能・〔裏力〕が、場の空気を悪いものへと変える。呼応して、黒い手袋に覆われた両手に〔裏論〕の気配が漂う。
その一連の変化は、
「場合によっては、〔裏論〕も使う」
柳児が本気だと一虎に示すのに十分な力を持っていた。
「柳児さん!?何もそこまで!」
割って入った赫夜が、自分を気遣ってくれていることを一虎は裏解した。
しかし、
「わかって、るよ。そんなの・・・」
一虎は、そう言った。柳児と赫夜、黙したままのアインの視線が集まる。
「僕には天出雲さんみたいに、〔最強になる〕とか、反咲くんみたいに〔工房を立て直したい〕とか、そういう、明確な目的はない。戦う力も、何もない」
一虎は、それを誰よりも自覚していた。
「一虎さん」
赫夜の言葉に慰めの色を感じて、しかし一虎は、
『・・・いや、違う。僕は、僕自身を本当には裏解してなかったんだ』
少年はそう思った。
〔竹叢一虎には、何もない〕
それをもっとちゃんと裏解していれば、ただ指摘されただけでここまで傷つくことはなかったはずだ。それはつまり、
『僕は、わかったつもりになってただけだ。また僕は、〔向こうから何かが来てくれるのを待ってた〕。自分に期待して、自分で裏切ったんだ』
一虎が、悔しさにギュッと両手を握る。
しかし、
「僕、は、それでも・・・」
一虎は、自分の抱える思い、言葉にし辛い〔もどかしさ〕を柳児に伝えようとした。
自分自身をこの裏野へ向かわせた思いを、なんとか伝えようとした。
しかしその小さな呟きを無視して、柳児の言葉が降る。
「3日やる。それで決めろ。だが、〔よく考えて〕、な」
柳児はそう言うと、気だるげに立ち上がって背を向ける。そして思い出したように振り返り、言った。
「それに、お前がここを辞めるってことはな、俺だけのためじゃない、〔赫夜のためにもなる〕んだぞ?」
「柳児さん!?」
何かを察した赫夜が、柳児の言葉を制すように割って入る。だがその時には一虎の眼差しは問う色をもって柳児を捉え、聞いていた。
「赫夜の、ため?」
一虎は、直感的にそれが赫夜の〔秘密〕に関わることなのではないかと感じ、視線を白髪赤眼の少女へと振り向かせている。すると、それを肯定するように、赫夜が狼狽えて見つめる一虎から視線を逸らした。申し訳なさそうな彼女の横顔から視線を戻し、一虎は聞いた。
「どういう、こと?」
だが、
「お前の〔裏論武装〕の中核、〔ジン核〕の〔意志〕たる赫夜は・・・」
一虎は、柳児の言葉を最後まで聞くことが出来なかった。
それは、
「柳、ちゃん?」
「あ?」
柳児に横手から掠れた声をかけた人物は、幽霊のようにフラリと現れた。突然の闖入者に柳児や一虎がサッと振り返る。
そこには、
「「うひょっふ!?」」
一虎と柳児が思わずそんな声を出してしまうほど、どんよりとした気配を放つ猫背の少女がいた。




