反論不可能
「なあ竹叢。悪いんだけど、お前学校辞めてくんねぇか?」
「え・・・?」
一虎を窮地から救った救世主。右肩から先のない桧王を引き連れ、両手に〔操十糸〕を付けたままの反咲柳児は、アインの姿にやや怯みながらも一虎の向かいの席に座り、開口一番そう言った。あんまりにもあんまりな言葉に、板挟みの状況から解放されたばかりの一虎は一息つく間もなく固まってしまう。ある程度の満腹を得たのか、アインも黙って聞き入る姿勢をとり、赫夜も戸惑いを浮かべた深紅の瞳で柳児を注視する。すると柳児は、冗談ではないということを示すように、冷静な口調で続けた。
「俺さ、さっきまで鎌足に頼みこんで、〔論戦〕の記録映像、編集させてもらってたんだよ。この拳銃ゴミ女が言った〔アレ〕に〔自主規制〕の〔ピー音〕被せたくてな。あのゴミ教師、〔アレはあのままでいいじゃないですか?〕とか言いやがって、中々首を縦に振らなくてな」
「あ、うん」
一虎は、柳児の言う〔アレ〕が、彼が絶対確実に結婚したいらしい相手の名前であろうと気づき、反射的に頷く。それを確認し、柳児の言葉が続く。
「で、これはいい結果だったんだが、編集して公開された〔論戦〕の映像見た生徒から、幾らか問い合わせがあってな。なんかほとんど女生徒だったんだが、〔私の武装を診て下さい〕とか、〔私の武装のこの部分なんですけど〕とか、〔私にアナタの裏力ぶちまけて?〕とか、だいぶ趣旨が違うのも含めて色々な。おまけに、早速俺と〔三段論法〕を組みたいって輩まで出てきたよ。おかげで夕飯がこんな時間だ」
「裏野ノ公式映像ニヨル、宣伝効果デス。〔反咲工房〕ノHPニモ、アクセス数ガ増エマシタ」
「へえ」
桧王の補足に関心の溜息をつく一虎だったが、柳児はそんな少年に再び言った。
「だからだよ」
「え?」
「お前には、学校辞めてもらいたいんだ」
「どういう、ことですか?」
先ほどまで不機嫌を振りまいていた赫夜が、ここへきてついに席を立ち、柳児に問いかけた。それに対し、紫水晶を思わせる瞳の一瞥で応えた柳児は、整然と言葉を並べた。
「いいか?まずさっきの〔論戦〕の映像は、もう全校生徒、裏野関係者が閲覧できる状態にある。そしてそこには、俺やお前、天出雲の一挙手一投足が映ってるわけだ。だから俺は〔反咲工房〕に関する問い合わせを受けることが出来た」
「・・・デスガ、ソコニハ柳児様ニトッテ、障害トナル映像モ含マレテイタノデス」
言いにくそうにそう補足した桧王の言葉に続けて、柳児が告げる。
「それがお前だ、竹叢。自分でもわかっているだろ?お前はあの場で、醜態を曝した。〔反咲工房〕の〔武装化職人〕、反咲流が作った〔裏論武装〕を無様に振り回してな」
辛辣な言葉に伴って、柳児の怜悧な瞳が一虎を見つめる。一虎も、その言葉で柳児が言いたいことに気づいた。
つまり、
「僕が間抜けをやればやるほど、〔反咲工房製〕の赫夜を・・・」
「ああ、貶める。〔反咲工房〕の製品の質が、疑われる」
だから、学校を辞めてくれ。柳児が示したのは、そういう〔論裏〕だった。絶句する一虎に、冷徹な柳児の言葉が続く。
「幸い、まだ赫夜が〔反咲工房製〕だと知っているのは、お前の他に、俺と天出雲、あとはそこの拳銃ゴミ女だけだ。つまりお前が口を閉じて消えれば、不安要素がなくなる」
「僕が、邪魔って、こと・・・?」
「ハッキリ言って、そうだ。そもそも俺は、鎌足のお前に対する態度にも、違和感があった」
柳児は退屈そうに頭の後ろで両腕を組むと、言葉を続ける。
「どうしてあの〔論戦〕で鎌足はお前にだけ拳銃ゴミ女の現在地がわかるようにしたのか?防御に特化した〔裏生物〕をくっつけ、〔論戦〕の解説までしてサポートしたのか?さらには親父の作った〔赫夜〕を持つお前が、息子であり〔職人〕でもある俺と寮で同室になる。これも出来すぎてるだろ?もしかしたら、俺が今回の〔論戦〕に参戦表明した後の、鎌足の〔煽り〕。あれだって、お前が手を上げるように仕向けられてたのかもな」
「それ、は・・・」
一虎は、アインに最初の銃撃を受け、〔裏生物〕である苦労丸に守られた直後の疑問を思い出す。確かにその時一虎は、鎌足縁が自分に過剰すぎるほどのサポートを付けていることに疑問を持った。また柳児の言うように偶然と言うには不自然な点は多く、鎌足が生徒の参戦を促すために行った〔煽り〕は一虎の心の琴線に、あまりにも的確な部分に触れるものだった。
つまり、その違和感と状況の示す答えとは、
「つまり鎌足が過剰なサポートを行っているのは、俺や天出雲を含めたその他大勢と比較して、お前が〔裏論〕に関してあまりにも素人だからだ」
「僕、は・・・」
一虎は、柳児のその言葉に全く〔反論〕出来ず、視線を俯かせる。柳児は言った。




