嘘つき
煌めく刀身が、グングンと、伸びあがった。光景に、アインが反射的に射撃をやめて回避行動に移ろうとする。その光が、一虎の〔裏論〕がどんな〔特性能力〕を秘めているかわからず、また、刀身が伸びたことで斬撃の有効範囲が広がったことを警戒したのだ。
その隙を突いて、さらに別の場所から声が上がった。
「俺は、〔反論〕する!」
それは一虎の背後で蹲った、反咲柳児。苦しげな呼吸に長髪を揺らして、彼は叫んだ。
「俺はお前に敗北した!しかしお前は〔俺の裏論武装の能力の高さを身を持って保証する〕と言った!俺の〔裏論〕は通じなかったのに、なぜ〔反咲工房の技術が高い〕ことになる!?」
「貴様・・・!?」
アインが柳児に銃口を向けようとするが、一虎の持つ刀が放つ眩い〔対光〕が勢いを増し、女の目を焼こうとする。そのわずかな隙間に、柳児の叫びが割り込んだ。
「お前の〔論裏〕は、間違っている!」
声に伴い、アインの〔拘束衣〕が発していた薄緑の光が僅かに弱まり、柳児の〔操十糸〕が紫の光を僅か強める。
柳児の〔反論〕は、〔論破〕に至るほどの〔論裏〕、アインと彼女の〔裏論武装〕たる〔拘束衣〕の〔共感〕を、完全に崩すほどのものではない。
しかし、放たれた〔反論〕は、的を外しているわけでもなかった。柳児の放った〔反論〕が〔共感〕の揺らぎを、アインと彼女の〔ジン核〕の間に生み、その力を弱体化させる。
瞬間、
「そのゴミ女を黙らせろ!」
柳児の声が、敵対者の弱体化という好機と共に、助けに入った一虎の背を打った。
だから、
「おおおおおおおお!」
一虎は、力の限り叫んだ。
どうしたらいいのかなど、一虎にはわからない。
ただ、やらねばならないという直感だけが、少年を衝き動かす。
アインに向け、一虎が光の刃を振り下ろす。
はずだった。
「おおおおおおおおおおおおお・・・え?あ?うわああああああああああああああああ!?」
一虎の気合の叫びが、途中で悲鳴に変わったことでアインはその動きを止めた。その原因は、明らかだった。
つまり、
「伸びるの止まらないんですけどおおおおおおおお!?」
「〔裏力〕注ぎすぎです一虎さんんんんんんんんん!」
天を突かん勢いで伸びに伸びまくり、比例して重量を増す刀身を支えきれず、一虎の身体が揺らぐ。何とかそれを立て直そうと、振り返った赫夜が少年の腕に飛びついて支えになる。しかし、伸び続ける竹光の刀身は見た目通りしなやかで、伸びれば伸びるほど、根元で一虎が揺れれば揺れるほど、その刀身を右へ左へしならせる。重さに遠心力が加わり、〔基本能力〕である〔身体能力強化〕すらまともに使えず、常人の腕力しか持たない一虎の腕が悲鳴を上げる。
そして、
「あ」
一虎は、大きく背後にしなって曲がった刀身を支えきれず、赫夜と共に背中から倒れた。必然、伸びた刀身も後ろに倒れ、
「あ」
ボキ。サァァァァ。
輝く刃が再び根元から折れ、霧散した。ドサッ、と間抜けな音を立てて倒れた一虎と赫夜を見て、アインと柳児、桧王が固まる。気まずい沈黙が降り、誰一人動けなくなる。
そんな空気の中へ、1人歩を進める影があった。
彼女、天出雲深夜は、一虎の前に立って、月光を背に少年を見下ろす。感情の消えた無機質な蒼い瞳が暗がりに浮き上がって見え、一虎は言い知れぬ恐怖を感じた。吹き出る嫌な汗を感じつつ、少年は口を開く。
「え、っと。あの・・・」
「・・・」
しかし一虎は、今まで見た中でも群を抜いて無感情で、温度を感じさせない蒼い瞳に尻ごみし、それ以上言葉を放つことが出来なかった。
すると、沈黙していた深夜が口を開いた。
彼女は、
「・・・嘘つき」
責めるように、そう言った。
「・・・嘘つき」
なじるように、そう言った。
だが、
「・・・私は」
最後の言葉は、語られない。ただ深夜は、静かな怒りと、そしてなぜだか悲しみの色を宿した眼差しを一虎から逸らし、背を向けた。取り残された少年は、その一方的な物言いに呆然とするしかなかった。
そして深夜は、光景に立ち尽くしていたアインの懐に、無造作に入っていた。
アインが気づいた時には、もう手遅れだった。
「・・・〔天地〕・・・〔闊法〕」
「待っ!?」
一虎が深夜に与えたらしい怒りと悲しみの〔裏力〕は、彼女を〔超過出力状態〕へ導く。だから深夜は、〔共感〕を揺るがされて弱体化したアインをアリーナの端まで吹き飛ばし、一撃の下に沈めた。




