超過出力状態
「いやあ、これはまずいですねえ」
鎌足のその言葉に、一虎は思わず叫んでいた。
「あ、あの!早く助けないと!あれじゃアイン先生が!」
だが、その叫びに答えたのは、別の人物だった。
「・・・違う」
「え?」
彼女、なぜだか不機嫌そうな気配を漂わせる深夜に向けて、一虎は振り向く。すると今度は彼女の側にいた赫夜が口を開いた。
「ええ、違います。まずいのは、柳児さんのほうです」
「へ?」
1人事態を掴めず、一虎はオロオロと視線をさまよわせる。すると、再びぶっきらぼうな口調で深夜が言った。
「・・・あんな強い〔裏論〕使う。反咲柳児、もう〔裏力〕が限界」
「あ・・・」
一虎は、反射的に映像に目を戻す。そこには、
「く、そ・・・」
息を切らし、肩を揺らす、柳児の姿があった。それは〔裏力〕を〔発散〕する際の精神的・肉体的疲労を示しており、さらには、
「そう、か。幾ら挑発されたことで一時的に〔裏論〕の〔出力〕、〔裏口径〕が広がって、〔超過出力状態〕になってたとしても、こんなに強力な〔裏論〕を展開したら・・・」
「ええ。2種類ある〔裏力〕のうち、今の攻撃で、反咲くんは〔揺さぶり〕によって発生した突発的な感情の揺らぎ、目の前の事象から瞬間的に生まれる〔突発的裏力〕を使った。ですがそれに引っ張られて、〔精シン世界〕の〔器〕に溜まっているもう1つの〔裏力〕、日々の生体活動の中で蓄積される〔慢性的裏力〕も放たれたでしょう」
しかも、と言い置いて、鎌足は言った。
「そもそも反咲くんは、竹叢くんとは全く逆の体質です。1度に展開出来る〔裏論〕の〔出力〕、〔裏口径〕が大きい。つまり、1度に〔発散〕出来る〔裏力〕の量が多いのです。しかしそれは、普段から〔裏力〕を行動や言動の中で〔発散〕してしまう性格を示している。要するに、〔慢性的裏力〕を溜める〔器〕が小さいことをも意味しています」
「と、いうことは・・・」
「もう彼の〔器〕には、ほとんど〔裏力〕が残っていないでしょう」
「・・・〔論戦〕で、我を忘れる。致命的」
深夜が会話締めくくり、一虎は戦慄に身を強張らせる。さらには、倒壊し、煙るビル群から現れた人影に、少年は恐怖した。
「これだけ強力な〔裏論〕を撃てるとはな。そうするように誘導しておいてなんだが、少々効いたぞ。だがもうお前の〔器〕には、欠片の〔裏力〕も残っていないだろう。〔裏力〕を発散出来て、さぞ気持ちよかっただろうな?」
人影、灰色の煤だらけになったアインが、ゆっくりと瓦礫から身を起こし、柳児に歩を進める光景。冷や汗が一虎の背を流れ、しかし〔発散〕に並行して発生する疲労に蝕まれた柳児は、かの脅威を睨むことしか出来ない。
『ま、ずい』
そして、そう思った一虎は聞いた。
「・・・いい加減に、して」
「え・・・?」
苛立ちを隠そうともせず、元々悪い目つきをまっすぐに一虎に向ける深夜の声を。




