最強になりたい
そして一虎は、気づいた。
『さっき赫夜が何か考えてたのは、まさか、〔3人であ~んするにはどうしたらいいのか〕ってことだったのか!?』
それは誰かを仲間外れにしないようにという赫夜の幼い思いやりだったのかもしれない。だが高校生たる一虎と深夜にとって、それは赫夜が想定していない羞恥という感情を伴う。
しかし、赫夜の気持ちを無下には出来ない。一虎は考えた。
『別に、深い意味なんてないんだ!そうさ、これはお遊び!たとえこんな人の多い場所で、恋人同士ともとられかねない〔あ~ん〕を堂々としたところで、恥ずかしいことなんて何もない!変な風に意識しちゃダメだ!』
考えながら、旧時代のロボットのようにギクシャクと視線を上げた一虎は、見た。
全く同じタイミングで一虎を見る、長い睫に縁どられた蒼い瞳。
同時に、
『あ、れ・・・?』
これまでにない生気を感じさせる桜色が、深夜の頬から首筋にかけてフワリと奔っていた。羞恥に潤んだ蒼眼が伏せられ、視線が何度も胸元に抱いた春巻きと一虎を往復する。さらには口元に付いたミートソースが、それら全てをさらに引き立てる愛らしさを放つ。
だから、
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメだ可愛い!』
と、深夜に変な意識を持ってこれ以上変態扱いを受けたくなかった一虎の思いは、アッサリと打ち砕かれた。しかし、深夜同様羞恥に囚われて視線を泳がせ始めた一虎に、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あ~ん」
深夜が意を決し、一虎を見つめて春巻きを向けた。深夜の顔は、まるで愛の告白でもした直後のように真っ赤だ。しかし一虎は、ほんの一瞬彼女の決意に対して行動するのが遅かった。
すると、
「一虎っ!あ~んっ!一虎っ!あ~んっ!」
そんな一虎の躊躇を後押ししようとしたのか、赫夜が子供特有のよく通る声で拍子を取り出した。チラホラと、その声に反応して食事を摂る生徒達の視線が集まってくる。
文字通りの、八方塞。
極限の、羞恥。
そして、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一虎」
「は、ひゃい?」
「・・・私、は、最強に、なりたい」
「ひぇ?」
深夜が今にも泣きだしそうに潤んだ目で一虎を呼び、少年は噛みながらそれに答えた。すると少女が言った。
「・・・私、最強になるため、裏野に、来た。皆を、守る。〔戦闘系〕の、〔裏論使い(ディベーター)〕になる、ために。い、一虎よりも、強く、なりたくて。わ、私、さ、〔侍〕と呼ばれた、母さんと、〔英雄探偵〕の娘。一虎、は、母さんの、〔ジン核〕貸与者。だからこれくらい、簡単、出来る、だから、だから、だからだかだかだかだか」
『まずいまた昨日と同じで僕を強いみたいなこと言ってる!全く意味わかんないけど天出雲さんの頭から煙出そうだおおい誰かこっちに消火器もしくは放水いいいいいいいいい!?』
混乱した一虎だったが、すぐにゴクリと生唾を飲んで持ち直す。〔どうして裏野に来たのか〕という先の自分の質問に答えながら勇気を示した彼女へ、応えなければと決意する。
だから、
『くっ!これ以上天出雲さんを!』
一虎が、行った。春巻きを喰いちぎる心持ちで、実際にはおずおずと。犬歯で箸をへし折るほどの心持ちで、実際にはビクビクと、深夜の差し出す春巻きを〔あ~ん〕した。「おお~」と、見ていた見知らぬ生徒達から賞賛の声が上がり、初心にすぎる2人の初めての〔あ~ん〕を称えた。




