・・・・・・・・・・・・・・・・・いい
『あ、天出雲さん』
午前の施設案内ガイダンスを終え、一虎は相変わらず眠り続ける柳児とそれに付き添う桧王を教室に残して、機嫌の良い赫夜と昼食を摂りに行った。簡素な白い長机とパイプ椅子が並び、側面に開放された厨房が面した食堂。旧時代の学生食堂の雰囲気と低価格を模す〔裏飯屋〕で、一虎は食券を買いながら、人だかりの中心にいる青いシュシュのサイドテール、深夜を見つけた。どうやら自前らしい弁当箱を、綺麗に染色された藍色の布の上に広げ、販売されている惣菜の中から玄米茶とデザートらしき羊羹をテーブルに置いた彼女の周囲には、一虎と同じ制服姿の男女。
深夜は彼らから、
「でも、怖くなかった?だってあんなに大きな〔論害〕、ニュースでもほとんど見たことないよ?」
「つーか超カッコよかったよな?あのパラシュート降下と空中機動!酸素マスクと保温スーツ着けてたってことは、高高度降下・低高度開傘だったんだろ?俺なら怖くて出来ないよ!」
「そういやあのトンボ型の〔裏生物〕に乗ってたの誰?知り合いなんでしょ?刀の一振りで空を割るとか、もしかして〔全段〕の誰か?」
などと、どうやら昨日の派手な登場に関してクラスメイトから質問攻めにあっていた。これは、クラスメイトと仲良くなるチャンスだろう。そう思い、一虎は邪魔をしないように彼女の所に行きたがる赫夜をなだめ、セルフサービスのトレイを抱え、離れた席でいそいそと食事を始めた。
しかし、一虎はその光景を視界の端に捉えた。
「ねえ、天出雲さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?どうかした?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?もしかして、なんか、機嫌悪い?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え、っと・・・?」
深夜は、彼らに対して、いや、彼らにまともに対することが出来ず、俯き、目を泳がせ、何も喋ろうとはしなかった。一虎は、その様子を見て彼女の母親である大和の言葉を思い出した。
『そうだ。天出雲さん、人見知り・・・』
だが、少年がそう思ったところで、
「あ・・・なんか、ごめんね?」
「う、うん。俺ら、質問しすぎたっつーか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一虎には、困惑からくる無言を貫く深夜に何か言うように促すことも出来ず、その様子を図りかねて散っていく彼女のクラスメイト達を止めることも出来なかった。
だが、一人取り残された深夜が持っていた箸を弁当箱の上に戻し、小さく溜息をつく様を見て、
「あの、一緒にいい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一虎」
少し残念そうで、悔しそうで、情けない顔をした彼女を、一虎は放置することが出来なかった。目を逸らされてしまっても、辛抱強く、彼女の許しを待った。
すると、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい」
独特の間の後に、深夜は静かにそう言った。邪魔だと言われそうで内心冷や冷やしていた一虎は安堵の笑みを浮かべ、はしゃぐ赫夜を挟んで深夜の横の席に着いた。
それからしばらくの時間、一虎は幾つかのやりとりを経て深夜について学んだ。




