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赫夜と桧王

 午前中、この時まだ無事だった一虎は、鎌足全学年主任による校内施設の案内と、並行して行われたこれからの日程のガイダンスを聞いていた。少年は他の仮7組生徒と共に広い学校敷地内を歩き回っていたのだが、その時点からある裏由で一虎は冷や冷やしていた。

 なぜなら、



『いや、これ、怒られない?』



 一虎の後ろの席。そこで眠っていた黒髪長髪の惰眠王子、反咲柳児が、施設移動中は桧王に車椅子を押させ、鎌足が説明を行う間中、全く目を覚まさなかったからだ。

 一応ルームメイトでもある彼のことを、知り合い以上友人未満程度には感じていた一虎は、いつ鎌足があのニコニコ笑いを怒らせることかと内心ビクビクしていた。

 しかし、



『あ、れ?』



 一虎の懸念を無視して、鎌足は柳児に何の注意も行わず、自分の話を聞かない生徒がいるという苛立ちを欠片も感じさせずにガイダンスをこなしていった。

さらに一虎にとって意外なことは続く。



「見えないの!一虎!カタグルマ~!」

「ダ、ダメだよ、静かにしてなきゃ」



 中央管理塔の中腹、地上150mの展望スペースで、駄々をこねる赫夜を一虎がおとなしくさせようと四苦八苦していると、



「ソノ御役目、ワタクシガ」



 そう言って、どうやら一虎と赫夜のやりとりを見ていたらしい桧王が、一度柳児の眠る車いすから離れると、幼女の身体をヒョイっと肩に載せた。柳児のための従者のような印象だった〔形人(かたひと)〕の思わぬ行動に、一虎は、



「い、いいの?」



 恐る恐る、横長のスリットのような、赤い単眼(モノアイ)に問いかける。

 すると、



「構イマセン。ムシロ、オ任セ下サイ。一虎様ニハ、大恩ガゴザイマスノデ」



 桧王は、一虎に対して仰々しくもそう言った。戸惑いを隠せず、一虎が問う。



「大恩、って・・・僕、なんかしたっけ?」

「ワタクシノ側ニ、コノ様ナ〔奇跡〕ヲ、赫夜様トノ出会イヲ与エテ下サッタ。ソレガ大恩デゴザイマス」

「きせ、き?赫夜と、会えたことが?」

「ハイ」



 桧王の言葉に、一虎はさらに戸惑い、問いを重ねる。



「お、大げさじゃないかな?それに、感謝なんて、僕は何も・・・」



 しかし、桧王は言った。



「ソモソモ、ワタクシノヨウニ、目ヲ覚マシタ完全ナ〔ジン核〕、〔シン核〕ハ、世界デモ僅カシカ存在シテオリマセン。ソシテ、ソモソモ〔シン核〕ニ肉体ヲ与エル〔裏論〕、〔化身化〕ヤ〔躯体化〕ヲ承諾シテ下サル〔裏論使イ(ディベーター)〕ハ、アマリオリマセン」

「そう、なの?」



 驚き、己の無知に恐縮してまう一虎に、しかし桧王は「〔シン核〕ハ絶対数ガ少ナイタメ、知ラナイノモ無裏ハアリマセン」と言ってから、丁寧に続ける。



「〔シン核〕ハ、完全ナ魂デアリ、最強ノ兵器ト成リ得マス。デスカラ、〔化身化〕ヤ〔躯体化〕ナドハ、セッカクノ〔シン核〕ノ容量ヲ、無駄遣イシテイルコトニ他ナリマセン。コノ世界デ生キル一虎様モ、最強ノ〔裏論武装〕ガ作レル宝玉型物質ガアレバ、ソレヲ〔武装化〕スルデショウ?」

「あ・・・えっと」

「〔シン核〕ノ〔意志〕ニ配慮スル〔裏論〕ヲ積ムクライナラ、〔象徴〕ニ則ッタ〔特性能力〕ヲ増ヤス、モシクハ、〔武装〕ニ〔第2〕・〔第3〕ノ〔形態(フォルム)〕ヲ増ヤス。一般的ナ〔裏論使イ〕ハ、ソレヲ望ミマス」

「そう、なんだ。確、かに、使える〔裏論〕が増えたり、〔武装〕の〔形態〕を変えられれば、兵器としては優秀なんだ、よね」

「ハイ。シカシ、一虎様。アナタ様ハ、赫夜様ノ〔化身化〕ヲ承諾シテ下サッタ。赫夜様ハ、ワタクシノヨウナ〔シン核〕デハナイ、特異ナ〔シン化〕ヲ遂ゲタ〔ジン核〕デスガ、我ラ〔意志〕持ツ同属ヲ、一虎様ガコノ世界ニ解キ放ッテ頂イタコトハ変ワラナイ」



 言葉を切り、桧王が言う。



「意図デハナカッタニセヨ、一虎様ハ、ワタクシニ赫夜様トノ出会イヲ、〔奇跡〕ヲ与エテ下サッタ。ダカラワタクシニハ、ワタクシヲ〔武装化〕セズ、〔躯体化〕シテ下サッタ柳児様ト同ジクライ、一虎様ヲ感謝シ、尊敬シテイル次第デゴザイマス」

「そんな、尊敬なんて、大げさだよ」



 桧王の赤い単眼(モノアイ)が、まっすぐに一虎を見つめる。無機質に見えるそこに、どことなく、喜びの色が含まれているように一虎は感じた。彼が同属である赫夜との出会いを、本当に心から喜び、これから先の未来に期待していることを一虎に裏解させる。

 だから一虎は、その色に混じるように笑って言った。



「じゃあ、さ」

「ハイ?」

「これから、赫夜の友達でいてくれるかな?(かしこ)まらなくてもいいし、遠慮しなくてもいい。悪いときは悪いって、ちゃんと叱ってくれるような、そういう友達に。あ、もちろんそこに僕も混ぜてくれると、嬉しいかな」

「ソン、ナ・・・ワタクシハ・・・」

「ダメ、かな?」

「イエ、ソノ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヨロシイノデスカ?」



 少しの間を置いて、どこか不安げな桧王が伺うように一虎を見る。一虎は、だから口を開こうとしたが、



「う~!まだ見えない~!」



 赫夜が会話に割って入り、



「コレデイカガデショウカ?」



 そう言うと同時に、桧王の首の根元からウィィンという駆動音が上がった。〔形人〕の首が伸び、そこに掴まった赫夜が、学内を見渡せる位置まで上がっていく。

 そして、



「高い高い~!ありがとヒノキオ!」

「恐縮デゴザイマス」



 一虎は、生まれたての優しい繋がりを微笑で迎えた。

 それから一虎は、せっかく桧王が作ってくれた状況を活かすべく、鎌足のガイダンスに集中して聞き入った。

 しかし途中、ちょっとした問題も起きた。


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