素敵すぎて死ねる瑞季さんセンサー
そう、つまりは、
「たんたんたんたん反咲く反咲く反咲くんなのねへ!?」
「あ?なんでそんなに驚いて・・・ああ、そういや昨日は、顔見せてなかったか?」
驚きを隠せない一虎に、柳児は〔なるほど〕と言った調子で1人で納得してしまう。『一体どれだけビックリしたら気が済むんだろう』と一虎が眩暈に似た感覚を覚えていると、
「オ荷物ヲオ届ケニ上ガリマシタ」
「ほわう!?」
気配もなく背後から響いた声に飛びのいた一虎は、そこに柳児の学生鞄とスポーツドリンクの入ったペットボトルを、車椅子に載せて運んできた桧王の姿を見つけた。彼は驚かせてしまった一虎に軽く一礼すると、柳児に学生鞄とドリンクを渡す。
さらに、
「今月号ガ、届イテオリマスガ?」
「いらね。どうせ俺の書いた〔工房〕の記事、載ってねぇんだろ?竹叢、お前これいる?」
柳児は言いながら脇に挟んだペットボトルのキャップを捻り、桧王から受け取ったメンズファッション雑誌を、振り向いた形の一虎の眼前、自分の机に放った。
その表紙を見て、
「ガチにモデルなのほおおおおおお!?」
一虎は目を見開いて、眼前にいる少年と、雑誌の表紙で最新ファッションに身を包み、爽やかに笑う少年とを見比べた。
対して、
「おお、バイト」
柳児は短くそう言うと、一息に半分もドリンクを飲み干してしまう。ゴクゴクと動く彼の喉を見て、一虎は柳児の肌に小さな玉の汗が滲んでいることに気づく。だが一虎の驚愕と疑問を遮るように、
「本日ノ調子ハ、イカガデシタカ?」
桧王が柳児にそう問いかけた。対する柳児は口元を拭い、その一連の動作で幾人かの女生徒の眼差しを釘付けにしながら、響く低音で言った。
「まだ操るとか、そういうレベルじゃないな。お前と違って、〔荒王〕は重すぎる。アイツを学内どこにでも射出出来る装置の改造は終わったが、あれじゃあ飛ばしても使い物にならない」
「ヤハリ、マダ〔糸〕ノ〔筋力〕ガ?」
「ああ。現状では身体を持ち上げて、ただその状態を維持するので精一杯だからな。俺が〔超過出力状態〕だったとしても、まともにコントロール出来るのは2分がいいとこだろ」
少し悔しげに顔を俯かせ、黒髪の中に表情を隠した柳児が唸る。だが彼はすぐに面を上げると、言った。
「だがやれる。最初は腕一本も持ち上げることが出来なかったんだ。でも少しずつ、俺の得意な〔時環帯〕で訓練を続けて〔糸〕の〔筋力〕もついてきた。ならいずれ操れる。だろ?」
「柳児様ナラバ」
不敵に笑った柳児に、桧王がコクリと頷く。そして昨日とは打って変わって生き生きとした柳児の様に、一虎は再度目を見開いた。
『・・・反咲くんも、〔キラキラ〕を』
それは一虎が求めてやまないもの。一虎が、その感覚をどう表現していいかわからず、そう呼んでいるものだった。さらに昨日の様子を思い出せば、深夜もそれを持っている。
その事実が一虎の感情に、〔一体何をしていたのか〕、そして〔どうしてその何かをするのか〕と柳児に問うように急かす。
しかし柳児はそれより早く白シャツの胸ポケットから〔楽〕と書かれたアイマスクを取り出して、
「じゃあ、だりぃし寝るわ。どうせ午前中はガイダンスだろうし、〔模擬論戦〕までアピールポイントもないだろ。お前は基本〔待機モード〕で、移動時は〔家事モード〕だ。一応、〔裏力感知センサー〕のうち、〔素敵すぎて死ねる瑞季さんセンサー〕と〔死ねゴミ消えろ高嶺センサー〕だけは最高感度で動かしとけ。いいな?」
「了解シマシタ」
彼はそう言い置くと備え付けの椅子から立ち上がってそれをどけ、桧王が荷物を運ぶ台車代わりに使っていた車椅子に座り直す。どういった改造が施されているのか、リクライニングまでするそれの背もたれに身を預けて、柳児はすぐに寝息を立て始めた。
『ええええええ!?まだ今日始まったばかりですよ反咲くん!?そして〔素敵すぎて死ねる瑞季さんセンサー〕と〔死ねゴミ消えろ高嶺センサー〕って何いいいい!?そうやって秘密をチラつかせて思わせぶりな態度をとるのがイケメンモテ男の秘訣うううう!?』
質問の代わりに内心でツッコむことしか出来なかった一虎に、すでに寝入ってしまった柳児が気づくはずもない。ほぼ同時に本鈴が鳴って、生徒達が席についていく音が響き、一虎も仕方なく多くの疑問を収めて赫夜と前を向く。
そして同時に、男が現れた。
「やあ皆さん。おはようございます」
そう言った男、鎌足縁は作り物のような笑みを浮かべて、ガラス玉のごとく無機質な瞳で1年7組の面々を見渡した。




