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イケメンモデルは顔見知り

 翌日。7時30分。



「オハヨウゴザイマス。イッコ様」



 目を覚ました一虎を迎えたのは、キノコに手足が生えたような木製の〔形人(かたひと)〕、桧王だった。つまり、寮室には彼の主人たる、反咲柳児の姿はなかった。〔彼はどこへ?〕という一虎の問いに対し、桧王は、



「ソレハ内緒デゴザイマス」



 と言って取り合ってくれなかった。幾らルームメイトとはいえしつこく詮索するのもためらわれて、一虎はそれ以上の追及をやめて制服に着替え、学食へと向かった。教科書の詰まった学生鞄と、折れた自分専用の〔裏論武装〕も、袋に入れて持ち出した。

 そして、マンション風のエントランスを出て、昨晩も夕食を摂った〔企業群(ベンチャーズ)系〕飲食店、〔裏飯屋〕の前で、



「おはよっ!イッコ~!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 そこで同じく朝食を摂りに来ていた、再び子供形態に戻った赫夜と、相変わらず険しい表情を崩さない深夜と再会した。一虎は元気そうな赫夜の様子にホッと胸を撫で下ろし、共に朝食を摂ってから教室へと向かった。

 その途中で一虎は、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私、こっち」



 そう言って1年8組に向かった深夜と別れた。『四六時中赫夜を見守れと言われていたとはいえ、さすがに授業中は自分のクラスだよね』と、一虎は深夜の背を見送ってから、赫夜と自分の教室である1年7組に入った。グラウンドに面したガラス窓の列と、一段高くなった教壇、あとは緑がかった強化プラスチック製の机と椅子が並ぶだけという、簡素な教室だった。

 しかし、教室の中には様々な色が満ちていた。それは、生徒達がそれぞれに持つ、中空に展開させた赤や緑など、色とりどりの3次元ディスプレイ。旧時代に情報のやりとりに使用されていた黒板や掲示板などに代わり、スーパーコンピュータ並の性能と機能(アプリケーション)を備えた、情報統合端末の展開する〔裏論〕だった。

 それら色と会話の合間を縫って自分の席に着いた一虎は、どうやら学校側が気を利かせて用意してくれた赫夜用の椅子に、「みんながよそよそしいのはダイイチインショウが肝心だからなの!?すでに戦いは始まってるの!?ねえイッコ!?」と騒ぐ彼女をなんとか座らせた。落ち着きのない赫夜に気を付けながら、一虎は時計を見る。時刻は8時24分。あと1分経てば予鈴、6分で裏野高校で初めて迎えるHRだった。

 だから、



『とりあえず、大人しくしてよう』



 高校入学に際して地元を離れたため、この場には知り合いも友人もいない一虎がそう思った、矢先だった。



「ああ、そういや寮で同じフロアの生徒は同じクラスなんだったか?」

「え?」



 心地よく通る低音の声が、鳴り出した予鈴と共に一虎の机に近づいてきた。

 スラリと背の高い、見覚えのない男子生徒だった。

 しかし彼は、ただの男子生徒ではなかった。一虎や、教室に入ってきた彼に気づいた女生徒達の動きが止まり、呆けたように彼を見る。

 黒地に銀の刺繍入りのブレザーと長い黒髪を肩にかけ、春先だというのになぜか暑そうにしている白シャツ姿の彼を見ていた。

 なぜなら、



『どこかの、モデル?』



 一虎がそう感じてしまうほど、その男子生徒が醸し出す雰囲気は、ありていに言って、格好良かった。

 スッと通った鼻梁と細い顎。健康的な肌艶と、ヘアメイクアーティストによって見事なデザインを施されたウェービーな黒の長髪。その歩みと同時にフワリと香る、ミント系の香水。

 そして何よりも印象的な、深い洞窟の奥に輝く、紫水晶(アメジスト)を思わせる色の瞳と、それを際立たせる長い睫。

 そんな、登場しただけで何人の女生徒の目を奪ったのかわからないようなイケメンが、



「そうか。苗字が竹叢だから、名前順の席だと俺が後ろになるのな」



 イケメンは、まるで一虎を見知っているかのような、自然な言葉遣いでそう話しかけてくる。さらに長身は、狼狽える一虎の後ろ、ちょうど列の最後尾の席に収まって脱力した。そんな彼に対し、一人だけ動いた人物がいた。

 彼女は一虎の困惑を、たった一言で解いた。

 彼女、赫夜は椅子の上で振り返って言った。



「おはよ~!リュージ!」



 すると一虎の後ろの席に座る男子生徒が言った。



「おう。今日もゴミうるせぇな、お前は」



 言って、席に着くなり頬杖をついた男子生徒、反咲柳児は、軽く白い歯を剥いて意地の悪そうな笑みを赫夜に向ける。状況に混乱しすぎてフリーズする一虎は、状況を裏解するのに少し時間がかかった。


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