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無論

「えっと、一虎さんは、他人の悩みを聞いたり、聞いてもらったりしたことはあります?」

「う、うん。一応」

「その時、相手の意見を聞いて〔そういう考え方はわかる〕とか、自分の意見に同意してもらって、〔なんだかすっきりした〕っていう経験は?」

「ある、かな」

「それを〔共感〕って言いますよね?そもそもなぜ、〔共感〕が起こるか、わかります?」

「あ~、ええっと、う~ぬ」



 赫夜の問いに、一虎はなんとか知恵を絞り、おずおずと答える。



「自分と相手の魂に、同じ〔論派〕があった、から?」

「正解ですっ。〔人間〕は、魂の中に様々な〔論派〕を持っている。そして、同じ〔論派〕を持っていれば、相手の考えや行動を裏解出来る。人が人に〔共感〕するのは、そういう裏由があるからなんです」

「ほへえええええええ!」



 感心の溜息を漏らす一虎を見て勢いを得たのか、赫夜が饒舌に続けた。



「そして、今一虎さんは、相手に悩みを聞いてもらった時、〔なんだかすっきりした〕経験があると仰いました。すっきりするということは、〔意志〕を悩ませていた過剰な〔裏力〕が、どこかへいってしまったということです。〔裏力〕は、どこに行ったと思いますか?」

「ええっと、そこには自分と相手しかいないんだから、つまり、相手の中?」

「ご名答ですっ。逆に、自分が相手の相談を受けた時、〔自分のことでもないのに相手のことで悩んだりする〕ということは?」

「あ、それは結構あるよ。もしかしてそれって、自分が相手の〔裏力〕を受け取っているから起きるのかな?」

「その通りっ。何が言いたいかと言うと、〔共感した状態では、裏力のやり取りが可能〕ということです。だから、〔ジン核〕とその使い手は、同じ〔論派〕でなければならない。その〔共感状態〕がもたらす効果を利用して、〔ジン核〕は使い手の〔裏力〕を抽出するからです」

「おおお!そういうことなんだ!」



 合点の叫びを上げた一虎に、どこか悲しげな微笑となった赫夜が言う。



「でも・・・本来〔ジン核〕は1つの〔論派〕しか持っていませんから、〔人間〕と違って1つの〔論派〕が持つ価値観にしか〔共感〕出来ないんです。私は・・・そもそもそういう兵器です。使い手と〔共感〕するためだけに1つの〔論派〕を与えられ、それを絶対視し、盲目的に信じてきた未熟な存在なんです。だけど・・・」



 急激に赫夜の声のトーンが、その面と共に下へと下がる。少女の言いたいことを察して、一虎は躊躇しながらも問いかける。



「つまりその、今は違うんだよね。〔人間〕と同じように、色んな〔論派〕を持ってる。だから、〔悩んだり不安を感じること自体も、初めての経験〕だ」

「はい・・・」



 一虎は、次いでこの時赫夜の抱えている、もう1つの不安材料を指摘する。

 それは、



「しかも、僕みたいな、初対面の〔人間〕が、使い手なんだもんね」

「いえ、あの、私、そういうつもりじゃ・・・」



 自虐的とも取れる一虎の言葉に、赫夜は焦って顔を上げた。赤の他人に相談をすることすら初めての少女は、あまりにも素直な感情を表し過ぎていた。それが一虎に責任を感じさせることすら、わかっていなかったのだ。赫夜は、そんな自分の失態を自覚した。我慢できない不安、罪悪感、そして恐れが、赫夜の深紅の瞳に涙を生み出す。

 しかし、



「・・・アハハッ!」

「え・・・?」



 潤んだ赫夜の瞳が、困ったように笑いだした一虎を捉える。眼差しがそのまま問いとなり、一虎はそれに笑って応えた。



「あ、ごめんね?笑ったりして。でも、おかしくって。だって、あんまり赫夜が、今の僕にソックリだったから」

「ソックリ、ですか?」

「うん。正直僕、ここへ来てから何が何やら。むしろ驚いてる時のほうが、状況に振り回されてる分いくらかマシで・・・一人になったら不安になっちゃってさ。でも・・・」



 言いながら、一虎は自分のパジャマの右袖を、左手で掌を覆うように引き上げる。そしてそれをぎこちなく赫夜の目元へと近づけ、零れ出た涙をゆっくりと拭った。

 そして、



「僕だけじゃなかったんだってわかって、ゴメン、僕みたいな赫夜を見て、ちょっと安心しちゃったんだ。あ!でも初めて身体を持って、初めて色んな〔論派〕を感じることが出来るようになって、感情を表現するのも初めての赫夜に比べたら、僕の不安なんて大したことないか」



 一虎はもう一度、困ったような、近しい者を見つけて安堵したような、穏やかな笑みを浮かべた。対する赫夜は、その無防備な笑顔にほんの僅か頬を赤くして問うた。



「あの・・・」

「ん?」

「柳児さんのように、ずっと傍に桧王さんのような方がいて、そう思うのならわかります。でも、なら一虎さんは、どうして私を、〔ジン核〕の〔化身〕とか、〔裏論〕が作り出した〔物〕だとか、そういう風には・・・?」

「ん・・・?」



 一虎は、赫夜の問いの意味を今一つ掴みかねた。なぜなら彼の中で赫夜が〔人間〕であることは〔無論〕、つまりすでに論ずるまでもないことだったからだ。

 だから、



「んん?なんか僕、またおかしなこと言ってる?だって僕、君みたいな〔女の子〕と一緒にいたら緊張するよ?しかも、大人赫夜とは初対面だし?あれ?そういうことじゃない?」



 赫夜は、〔人間〕として生きることを望んだ〔ジン核〕の〔化身〕は、何の抵抗もなく自分を〔人間〕として受け入れてしまった一虎の〔器〕の広さと深さに目を見開く。少女の姿を見て赤面し、焦り、今は眉根を寄せて真剣に考えこむ少年を見つめる。

 光景に、赫夜の瞳が再び潤む。

 そして、



「・・・ごめ、なさい」

「へ!?な、何が!?」



 俯いて嗚咽を上げ始める赫夜をどうしたらいいのかわからず、一虎は内心で慌てふためいた。


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