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ですから教えません

 漆黒の中央管理塔を中心に同心円状に張られた3枚の対戦防壁が、3つに区分けされたエリアに深い影を落としていた。

 まず、中央管理塔とその足元を防壁が囲うエリア、12歳以下の子供とその親が居住する〔養育区〕。

 次いで、その防壁の外にオレンジに染まる校舎や研究棟が並ぶ、裏野高校たる〔学術区〕が。

 そしてその防壁の外側に、〔養育区〕や〔学術区〕に収まらぬ全て、小さな商店や住居、巨大なショッピングモールや複合施設などを雑多に収める〔市街区〕が広がる。

 汚野の視線は、そんな裏野の全景のさらに先、〔市街区〕を囲う対戦防壁の外を見る。そこは〔論害〕との主戦場となるために周囲一体が荒野と化しており、今も赤茶けた裸の大地に戦場の傷を生々しく残していた。

 この都市と子供達を守る存在たる、〔教師陣〕たる汚野校長は、戦場の姿がもたらす感傷を振り軽く首を横に振って払う。隣に並ぶ鎌足が何を見ているのかを探る。ニタリと笑う同僚をサングラスに映し、汚野の視線は下がった。そして、ほぼ真下に位置するレンガ敷きの街路に立ち、鋭い眼差しでこちらを見上げる黒いスーツの女に目を止めた。それに気づいたらしく、女が眼差しを返す。不快に眉を寄せた黒スーツの女傑、絶薙大和が、一度何かを拾うように屈みこみ、身を起こすと同時に振りかぶる。



「ん?」



 汚野が怪訝な声を出して身を乗り出した、瞬間、

 シュ!バガン!



「きゃひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」



 絶薙大和は、地上300mの高さにある校長室の窓に向かって路面からはぎ取ったレンガを投擲、〔論裏障壁(ロジカル・シールド)〕を備えたガラスに見事にぶち当てた。あらゆる物裏的干渉に抵抗力を持つガラスには罅1つ入りはしなかったものの、突然の凶行に汚野は野太い悲鳴を上げて怯む。しかしそれを見ても気が済まないのか、眉を寄せたままの大和は、先端を切りそろえた黒髪を不機嫌そうに揺らして去った。

 しかし、心臓をバクバク言わせている汚野を尻目に、



「いやあ、流石、娘の入学に際し〔保護者会(プロテクターズ)〕へ加入。さらには離婚した元夫と共に、裏野の〔自警団(ボランティア)〕、そのエースを務めることになった〔女傑〕ですね。幾多の戦場の最前線で培われた彼女の第六感は、あくまで私が悪だと定めている。いや、単に私が嫌いなだけですか」



 鎌足縁は、さも楽しげにそう言った。対して、ビビったことを紛らわすように1度咳ばらいして、汚野がそれに応える。



「・・・反咲(たんざ)(ながれ)と双璧を成す〔侍〕。かつて〔大蛇(おろち)〕の異名をとった戦闘狂か。鎌ちゃんも、あんな人物とよう戦るわ」

「もし絶薙氏の戦闘力が現役時代と同じレベルだったら、私でも危なかったでしょうね」

「じゃけど、もし今ここに居った相手が絶薙大和の元夫、〔見つけられぬ真実(モノ)のない男〕、〔英雄探偵〕・天出雲(あまいずも)時雨(しぐれ)だったとしたら、今回の鎌ちゃんの刺激的教育、上手く切り抜けられたと思う?」



 鎌足は、汚野の質問に少しの間も置かず応える。



「天出雲深夜が反咲流と〔裏生物(トンボ)〕で現れたのは誤算でしたが、それでも〔腐骨竜(ふこつりゅう)〕がアドリブを効かせてくれたことで問題はなくなりました。ただ、もし私が、私の唯一無二の〔裏論武装〕、〔王金の瞳火(ランプ・オブ・アルハザード)〕を、今回の教育の要であるザユトウトスを操るために使っていれば、〔弁論術士〕たる彼から強烈な指摘と〔反論〕を受けたでしょう」

「じゃけど、今回はその〔裏論武装〕を使っていない。だからさっき〔立証〕した〔論裏〕で勝てたと?」


 鎌足は、間を置かずに汚野の質問に答える。



「たとえそれを使っていたとしても、私はかの〔弁論術士〕を〔論破〕する自信があります。ですが、この仮定自体がそもそも間違っているかもしれません。そう、かの〔英雄探偵〕ならば、まず私の責任追及に〔論点〕を置かないでしょう。それよりも探偵らしく、私の企みそのものを看破するために動き、確かな〔根拠〕と〔論裏〕をもって公のものにする」

「確かにのう」

「ですが、私がどうやってあれほど強大な〔裏生物〕をコントロールしていたのか。その謎が解けなければ、私が敗れることはありません」

「そうじゃのう・・・」



 汚野校長は考え込むフリをして、さらに質問を繰る。



「それで?どうやってあの白骨の屍竜、非敵性〔裏生物〕、正式名称〔腐骨竜(ふこつりゅう)ザユトウトス〕を、〔王金の瞳火(りろんぶそう)〕も使わずにコントロールした?幾ら非敵性、つまり人類の敵ではないとは言っても、〔裏生物〕とワシらの〔精シン世界〕の構造は違う。しかも奴は世界に7頭しか確認されず、今や4頭にまで減った最強の〔裏生物種〕、〔純竜種〕の2番目じゃろ?人間で言えば、反咲流や鎌ちゃんみたいな国家戦力たる〔全段〕に当たる地上最強の存在じゃ。そんな相手と、取引が成立するとは思えんのじゃが?」

「実はそれが1番聞きたかったから会話の流れを持ってきたのでしょう?校長?」



 そう言って笑顔で振り返った鎌足を見つめ、視線を外してココアを啜った汚野は言った。

「やっぱバレ・・・」

「ええ、ですから教えません」



 夕暮れの中、汚野が沈黙する。

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