魂
柳児が言うと同時、断面を見せる半球の周囲に、青い矢印が幾つも出現。半球の外側から、中心に向けて矢印が向きを変える。
「俺達の〔肉体〕は五感を介して〔現実世界〕から様々な影響を受ける。それを魂は受け取る」
矢印が伸びて、〔肉体〕を通り、〔意志〕にぶつかって止まる。
「魂の中で、〔本能〕を持つ〔精シン世界〕は、その〔現実〕の上に〔裏想〕を描く」
今度は半球の中心にある赤い球体、〔本能〕の部分から赤い矢印が伸びて〔意志〕にぶつかる。
「そして、〔現実〕と〔裏想〕は、絶対に一致しない。なぜなら・・・」
柳児の言葉を先取りして、一虎が答える。
「なぜなら〔現実〕があって初めて、〔目の前の現実より優れた現実〕である〔裏想〕が生まれるからだ。〔現実〕がある限り、〔人間〕の〔裏想〕はその上を行く。2つの異なる世界が、終わりのないイタチごっこをしてるんだ」
「だが、〔現実世界〕は〔肉体〕に対して影響を止めることはない。〔肉体〕も、与えられる影響を感知し続ける」
一虎の言葉に柳児が応えると同時、青い矢印がその太さと本数を増して〔意志〕に突き刺さる。
「止まらない〔現実世界〕の影響は〔本能〕を刺激し、さらに新たな〔裏想〕を〔精シン世界〕に生み出す」
一虎の声に従って、今度は〔本能〕から伸びた赤い矢印が太さと本数を増す。
「すると、〔認識出来る意識〕である〔意志〕は、この世に生まれた瞬間から互いに影響し合って〔膨張〕を続ける〔現実世界〕と〔精シン世界〕が相容れないことを認識する。自分がその間に挟まれていて、圧迫されていると認識する」
柳児が半球の黒い部分、〔意志〕を指さして続ける。
「そして〔意志〕にはバネのような性質がある。2つの何かに押さえつけられることでエネルギーを作ることが出来る。つまりここでついに、俺達を動かす活力とか生命力とか言われるエネルギー、〔裏力〕が生まれるってわけだ」
「ほおおおおへええええええええええ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふうん」
一虎と深夜が、それぞれに得心の溜息を漏らす。2人が集中している瞬間を見逃さず、柳児が言葉を差し込む。
「だが、エネルギーと言うものはそのままで使えるものは少ない。人間は〔裏力〕を活動しようとするんだが、〔裏力〕もそのままでは2つの世界の間に発生したエネルギーってだけで、あらゆる活動において必要な〔肉体〕は動かせない。〔裏力〕は〔現実世界〕と〔精シン世界〕の両方に溢れ出すだけだ。つまり、〔現実世界〕に影響は及ぼせない」
「そう、なの?」
「ああ。実際〔肉体〕ってのは、超簡単に言うと、脳から送られた電気信号が神経を通り、それに筋肉が反応することで動く。〔裏力〕なんてエネルギーは、どこにも使われていないんだ」
「そっか。でも、じゃあ?」
「だから〔人間〕は〔肉体〕を動かすために、〔裏力〕というエネルギーを〔現実世界〕に影響を及ぼせる現象に変換する必要があった。前時代に使われていた主要エネルギーである電気もそうだった」
柳児の手が動き、工具箱の中から見慣れない緑の板のような物体が中空に浮き上がった。
「それは?」
「これは、前時代にパソコンっていう機械、今でいう情報統合端末に使われていた基盤だ」
緑の板、基盤を右手で掴んで示しながら柳児が続ける。
「電気ってエネルギーは、この基盤を覆ってる回路を通ることで、様々な現象を起こせた。例えば基盤の回路を通った電気は光という現象に変換されて、ディスプレイを点灯させた。同じ電気というエネルギーを使ってモーターを回し、パソコンの中で冷却ファンを回すことも出来たし、スピーカーから空気を振動させて音を出すことも出来た」
つまり、と言い置いて、柳児が言った。
「エネルギーと呼ばれるモノの多くは、そのままではほとんど意味がない。必要とする現象に変換されて初めて役に立つんだ。〔裏力〕も例外ではなく、〔肉体を動かすのに必要な現象〕、神経を流れる電気信号なんかに変換しなければならなかったんだ」
「じゃあ、〔意志〕には〔裏力〕を現象に変換する機能があるってこと?〔意志〕は、〔パソコンの基盤と回路のようなもの〕で、そこを〔裏力〕っていうエネルギーが通ると、〔肉体〕を動かすのに必要な現象に変換される?」
「いや、その機能は魂そのものが持っている。だってお前は、〔意志〕で決めて〔肉体〕を動かしてはいても、〔裏力〕を〔肉体〕を動かす現象に変換するのは、〔無意識〕にやってるだろ?」
「そう、か。〔意志〕は〔認識し、コントロール出来る意識〕。でも、僕らは意識して〔裏力〕を変換しているわけじゃない。だけど、僕らは〔肉体〕を動かせる。それは〔無意識〕、つまり〔精シン世界〕が〔裏力〕を変換してるからなんだ」
「エネルギーを生み出すのが〔意志〕、それを変換するのが〔精シン世界〕、そして〔肉体〕を動かすのはまた戻って〔意志〕ってことだな」
柳児の傍らに紫がかった3次元ディスプレイが開き、そこに魂の持つ3つの機能が文章で表示される。




