仲立ち
「〔人間〕の魂は、この2つの領域、〔意志〕と〔精シン世界〕で成り立ってる。このモデル図で言うと・・・」
空中に浮いた、赤い球体を中心とする半球から、新たに光の線が伸びる。黄色い果肉の部分から伸びた光の線は、〔精シン世界〕と書かれたディスプレイに、黒い皮のような部分から伸びた光の線は、〔意志〕と書かれたディスプレイに伸び、それぞれ繋がる。
「こことここが、〔意志〕と〔精シン世界〕だ」
「赤い種が〔本能〕、黄色い果肉が〔精シン世界〕、黒い皮が〔意志〕」
「だな。で、見た目でわかると思うが、〔意志〕って奴は、〔精シン世界〕の上澄みみたいなもんなんだ。果物で言うと、果肉と皮みたいな感じだな」
「そうなの?」
「ああ。なんでこれも詳しく話すと時間かかるからやめとくが、そういうもんなんだと思ってくれ。もっと大きくイメージをするなら、そうだな、海がいい。水面が〔意志〕。それ以外の海水は全部〔精シン世界〕。どれだけ領域の大きさが違うかわかるだろ?」
「〔精シン世界〕の表面に〔意志〕があるってことだよね?」
「ああ。逆に言えば、〔精シン世界〕って海が無ければ、〔意志〕っていう境界面は存在出来ないってことだな」
ふむふむと頷く一虎を確認し、柳児が新たな3次元ディスプレイを展開。魂と書かれたディスプレイから光の線が伸び、黒い皮に包まれた半球を囲む。
「でもって、この魂って奴は、〔肉体〕の中にあるよな?」
柳児が魂と示した半球を手に取り、それが元々はまっていた、断面を青い色で塗られた半球を示す。
「うん。あ、もしかしてその青い部分が〔肉体〕?」
「ああ。青い部分だけでなく、半球の表面も〔肉体〕だ」
青い断面から光の線が伸び、展開された、〔肉体〕と書かれたディスプレイに繋がる。次いで柳児が、黒い皮で覆われた半球を青い断面を持った半球にはめ込み、元の形に戻す。
「そっか、〔肉体〕の中に魂を持った存在が、〔人間〕だもんね」
「ああ。じゃあ聞くが、この〔肉体〕って奴は、どこにある?」
「え・・・?」
柳児が半球を再び分離して、〔肉体〕と表示されている青い断面を一虎に向ける。一虎はしばし考え込み、顔を上げて言った。
「に、〔肉体〕は、〔現実世界〕にある、ます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ある、ます?」
歯切れの悪い文法間違いの言葉に深夜が怪訝な声を出し、一虎の焦りが高まる。しかし、どうやら少年は正解を引き当てたらしく、
「そうだ」
と柳児は首を縦に振った。安堵した一虎に、顔面不明の長身が半球の青色部分を指さしながら続けた。
「この青い部分と半球の表面が、〔人間〕の〔肉体〕。で、〔肉体〕ってのは、〔人間〕を構成する要素の中で、〔現実世界〕に接している部分だ。実際この球体を元の状態に戻すと」
一虎の前で、浮遊した2つの半球がガチリと音を立てて球状に戻る。
「そうか。その球体の表面も〔人間〕の〔肉体〕で、魂はその内部に完全に埋まってる。だから、〔現実世界〕に触れているのは〔肉体〕だけってことになるね」
「もっと言うと、〔肉体〕って奴は、〔人間〕を構成する要素の中では〔現実世界〕に含まれる部分ってことになる。そして大事なのは〔人間〕の〔肉体〕を制御している魂は〔肉体〕の内部にあり、とある部分を除いて直接〔現実世界〕と接することはないってことだ」
再び球体がバカリと割られ、露わになった半球の断面が一虎を向く。その構造を見て、一虎は聞いた。
「あ、もしかしてその、〔現実世界〕と接している魂の一部っていうのが〔意志〕?だってその構図だと、黒い皮の部分、魂の一部分である〔意志〕が、〔現実世界〕に含まれる〔肉体〕に接してるよね?」
一虎は、構図の中で青い部分と黒い部分、〔肉体〕に接している〔意志〕を指さした。どうやらこの示唆が次の話に関係があったらしく、柳児は「その通り」と1つ頷いてから続けた。
「つまり〔意志〕は、〔現実世界〕と〔精シン世界〕の仲立ちをしている。〔現実世界〕と〔精シン世界〕、異なる2つの世界に挟まれているのが〔意志〕なんだ」
「あれ、なんか、それって・・・?」
一虎は柳児の言い回しに疑問を覚えて、頭を捻る。2つの何かの間に挟まれるという構図を、どこかで聞いた覚えがあった。
つまり、
「〔現実世界〕と〔精シン世界〕に〔意志〕が挟まれて、〔ジレンマ構造〕が出来てる!」
柳児の声が、笑みを含みながら聞き返す。
「〔ジレンマ構造〕が出来てるってことは?」
「もし〔意志〕がバネのような性質を持っていたら、挟まれた〔意志〕の中に応力が、〔裏力〕が生まれる!」
「いいぞ。なら、ここから一気に行くぞ」




