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ジレンマ構造

「まず、〔ジン核〕に〔意志〕があるってことを裏解するには、〔裏力(ストレス)〕について裏解する必要がある。そもそも〔裏力〕っていうエネルギーは、〔人間〕やあらゆる生物の存在の核、魂が作り出すエネルギーだ。前時代は、活力とか生命力とか言われていたこのエネルギーは、生物のあらゆる活動において消費されている。その前提はいいな?」

「あ、うん」

「じゃあ、ストレスという言葉の意味が、物裏学で言う応力のことだってのはわかるか?」

「あ、ええっと・・・ストレスが、応力?」

「コイツを見ろ」

 不安げな一虎に見上げられた柳児が、中空に停止していたバネを右手の指先で摘まんだ。摘まんだ指に力が加えられ、バネが縮む。

「今、バネは両側から力を加えられて変形してる。同等の力を持つ2つの何かに押さえつけられることを、〔ジレンマ構造〕と言うんだ」

「〔ジレンマ構造〕・・・板挟みってことか」

「そうだ。で、もし力を加えるのをやめると」

 柳児の指の力が緩み、バネが元の形に戻る。

「バネには元に戻ろうとする性質がある。だから元の形に戻る。なら・・・」

 再び柳児の指に力が加えられ、バネが縮む。

「こんなふうに両側から力を加えられて縮んだ状態のバネの内部には、元に戻るためのエネルギーが蓄積されている。それはイメージ出来るか?」

「う、うん。もし元に戻ろうとする性質とエネルギーが無かったら、バネはそのまま潰れたままだもんね」

「そうだ。この元に戻ろうとするエネルギーこそが応力。英語で言うと、ストレスだ」

「ス、ストレスって、英語だと応力なの?だから、〔裏力〕も応力ってこと?」

「そういうことだ」

 柳児が少し満足げな口調で驚く一虎を肯定し、続ける。

「魂が生み出す〔裏力〕に応力と同じ意味のストレスって呼び名があてがわれていることには裏由がある。それは〔裏力〕が、〔押さえつけてくる2つの何か〕に〔バネのような性質を持った何か〕が挟まれ、〔ジレンマ構造〕が出来たことによって生まれるエネルギーだからだ」

「〔人間〕の内部にある〔ジレンマ構造〕によって生まれるエネルギーが、〔裏力〕?」

「そうだ。ということは、だ」

 柳児が言葉を切って、言った。

「〔裏力〕というエネルギーを消費して動いてる〔人間〕にも、〔押さえつけてくる2つの何か〕と、間に挟まれた、〔バネのような性質を持った何か〕があるはずなんだ」

「そうか。そもそもその3つが無いと、〔裏力〕を生む〔ジレンマ構造〕が出来ないもんね」

「おう。じゃあ次に、その〔ジレンマ構造〕に必要な3つが何なのかを説明する。人間の魂には〔現実を裏想に近づけようとする本能〕があるってのは知ってるか?」

「う、うん。さっき入学式で聞いた」

「なら、魂には2つの領域、〔意志〕と〔精シン世界〕があることは?」

「あ、えっと・・・」

「やっぱ知らないか。じゃあ、これを使おう」



 言いよどんだ一虎に応えるように、柳児の右手が閃く。作業台の上に置かれていたバスケットボール大の木製の球体が浮き上がり、中空で停止する。それに右手を置いて、柳児が言う。



「コイツは、〔人間〕を簡単な構造の模型にしたものだ」

「その、木のボールが?」

「ああ。俺もガキの頃、〔裏力〕や〔ジン核〕を裏解するのに苦労してな。全然わかんねぇから、母さんに質問したことがある。困った母さんが、母さんも職人なんだが、その腕を活かしてこれを作ったんだ」

「ほへえええ~」



 感心の溜息を漏らす一虎に、



「ソノ時ノ映像ガ、コチラデス」



 と言って、赫夜の鼻水まみれのかりんとうを指先で摘まんだ桧王が振り返り、視線を中空に向けた。〔形人〕の赤い単眼から光が放たれ、中空に3次元ディスプレイが展開する。

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