いらねぇならやらねぇ
柳児の自身に満ちた声が、室内の空気を震わせる。
「涙を簡単に大安売りしてその場を切り抜けるようなゴミ女はな、それに価値があると勘違いした、優しくすればヤレると思ってる節穴ゴミ野郎の目にしか留まらねぇ。〔いい女〕ってのはな、耐えて耐えて耐えて、それでも無裏な時にだけ、涙を流す。そしてその苦しみを隠そうとする。誰かに心配をかけまいと振る舞う。それが〔いい女〕だ。そして〔いい男〕ってのは、その強がりに気づける。そしてその女のためなら、幾らでも馬鹿になれんだよ!」
だらしなく安楽椅子に座る顔面不明男が、右手で幼女を指し、決めゼリフ的な調子で偏見混じりの持論を叫んだ。さらに叫んだ直後、柳児は熱くなって〔論点〕がずれたことに気づいたのか、
「んん!?」
と自分の言葉に怪訝な声を出し、場に気まずい沈黙と、幼女の爆発を待つ慄きが満ちた。
だが、
「・・・?」
いつまで経っても赫夜の泣き声は響かない。疑問に思った一虎が、おずおずと口を開き、
「赫夜・・・?」
顔を伏せ、微動だにしない幼女を見た。
すると、
「〔いい、女〕・・・」
赫夜は、必死に涙を堪えていた。
〔いい女〕。それは子供であり、しかし同時に〔女〕でもある赫夜のプライドを刺激する言葉だったらしい。幼女はそう呟くと、唇をへの字に曲げて涙が流れるのを堪える。涙は決壊寸前で、しかし流れ出ることはなかった。その様子を見て、一虎は安堵の息を吐く。
すると、
「・・・フン」
鼻を鳴らした柳児が左手をクイッとひねる。どういう原裏か、空中に、色とりどり、種類様々の菓子が並んだ。さらに問いかけたのは、ばつが悪そうな柳児の声。
「どれだ?」
「え?」
ハッと顔上げた赫夜から〔楽〕のマークが入ったアイマスクを逸らし、
「いらねぇならやらねぇ」
「いいの?」
思わぬご褒美に、赫夜の目に輝きが戻る。
「1つだけな」
小さな丸っこい手が〔バルッとバルーン〕と書かれたオマケ付の袋を指し、空中から降りてきたそれを赫夜が受け取る。幼女が笑みを見せ、言った。
「ありがとリュージ!」
「・・・人から何かしてもらったらお礼。忘れるなよ?」
「うん!」
「全く・・・コイツ一体どんな〔裏論〕なんだよ?」
柳児のその言葉は、一虎への問いかけだった。




