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器の小さい男の子

 柳児は言葉を切ると肘掛にかけた腕を起こす。黒い手袋に覆われた右手で自分の顎を支え、一虎や深夜と同じく部屋の奥にあるキッチンを見やった。

 すると、備え付けの食器棚の影から、



「わ、あああ~い!ははは初めての~、おおおお、やあああ、つううううううううう!」



 お茶うけを山ほど盆に載せ、しかしその重量に耐えきれずにプルプル震えている幼女が姿を現した。一虎が大和から借り受けた〔ジン核〕、その意志の〔化身〕である赫夜の姿だった。

 その光景に、



「か、赫夜!?」

「このゴミガキ、俺の駄菓子を」



 一虎の焦った声と、柳児の嫌悪を隠さぬ辟易した声。そんな2人に対して、赫夜の隣に控えた影が答えた。



「申シ訳アリマセン。オ止メシタノデスガ」



 影は片手で器用に緑茶の乗った盆を持ち、幼女を手助けするべきか迷う。影は、円盤のような頭と木製の肉体、赤い単眼(モノアイ)を動かす桧王の姿だった。赤い視線で指示を仰ぐ彼に、柳児はゆるく否定に首を振る。さらに一虎と深夜が見ている前で、けだるげに左手を持ち上げる。細く長い指がゆっくりと動く。

 すると、



「ああああ!?」



 赫夜の小さな口から響く大きな悲鳴。しかし叫びもむなしく、柳児の指の動きに合わせて空中に浮きあがった9割のお菓子達は、正確に元の位置、柳児の引っ越し荷物が詰まった段ボールの中へと去っていく。そして赫夜の盆にたった1つ残ったのは、〔カッチカチだぜ!俺のかりんとう!〕と書かれた卑猥なデザインの菓子袋だけだった。

 だから、



「ふうううぅ」



 柳児に向かって幼い怨嗟の唸りを上げ、赫夜の大きな赤い目に涙の雫がプックリと浮き上がる。深夜の足元で成す術がない一虎は、ただ女の子が泣きそうな状況に戸惑うしかない。

 しかし、顔面不明男、柳児は狼狽えなかった。

その代わりに、



「あ?お前、泣くのか?ああ!いいさ泣けよ。だが言っとくぞ?俺は面倒くさいこととガキが嫌いだ。だからお前が泣いてもなんとも思わないし、ヒーローが助けに来ることもありゃしない。それに俺は礼儀を知らないヤツが嫌いだ。人の駄菓子を遠慮も断りもなく奪っといて、被害者面すんじゃねぇよゴミガキ」



 安楽椅子に座る怠惰男は、呵責のない言葉を赫夜に浴びせかけ、怒りを露わにした。

 そんな柳児の言葉に、ついに赫夜の口からヒクッヒクッとしゃくりあげる嗚咽が漏れ始める。同時に幼女の左頬にある罅が深くなり、その内側の黒い肌がハッキリと見える。さらには罅の周囲の肌が、新たに出来た細かな罅に浸食され、白い陶器のような欠片となってポロポロと剥げ落ちる。

 しかし、



「ああそうだ、俺は特に、簡単に泣く女も嫌いだった。ありゃあ最悪だな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あ、えっと、反咲くん?」

「柳児様・・・」

「お前らは黙ってろ」



超強いけど人見知り・深夜、右往左往する変態未遂・一虎、最新型お茶くみ木人(もくじん)・桧王による制止は、しかし怒り出した柳児を止めることは出来ない。

そして、「いいか?」と続けた柳児が言った。

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