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雲のように掴めない少女

 同時、



「違う!」

「違う」



 必死の即答と不機嫌な応答が返り、柳児はクツクツと笑声を漏らす。



「〔治癒の(ヒール・ヒール)〕だったか?(ヒール)で踏みつけて打撲やら裂傷を治癒するとは、なかなかユニークな〔裏論〕だな」



 笑う柳児の側、そこには彼が言ったそのままの光景。寝そべった一虎をまたぐ椅子に座って上から脚で踏んづけ、先程彼が受けた打撲を治癒する深夜の姿があった。一見何かしら変態的な行為にも思えるが、深夜の〔裏力(ストレス)〕を〔裏論〕という名の超常現象に変換して〔発散〕する白い(ハイヒール)、〔ヒール12(トゥエルヴ)〕の構造が靴であることを考えれば、この構図がお互いにもっとも楽な体勢なのである。この行為自体は、一虎の怪我の原因となり、彼の荷物を破壊した深夜の罪悪感がそうさせたものであったのだが、



「あ、んっ」



 その治癒過程で生じる刺激は、一虎に否応なく妙な声を上げさせた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黙って」



 そもそも一虎にあまりいい印象を持っていない深夜は、自分で一虎に申し出たにも関わらず、不機嫌と不快感を隠そうともしない。



「ご、ごめん」



 すると、珍しく深夜が一虎に自ら口をきいた。

 それは、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうして?」



 という質問であり、対する一虎は、



「え?」



 と、その意図するところを捉えられずに背後に意識を向ける。

 だが、



「・・・そっか。一虎、力、抑えてる。だから荷物、避けなかった。流さんみたいな、いざという時本気出す人」



 深夜が1人納得した様子でブツブツ頷く気配だけが一虎には踵を通して伝わってくるだけだった。それに対して一虎は、



『天出雲さんの言いたいこと、イマイチ掴めないんだよなあ』



 と、少女とのこれからの付き合いに不安を抱いた。その思考を打ち切るように「わ~い!」と騒がしい声。反応し、一虎が視線を巡らせる。リビングに隣接する柳児と一虎のそれぞれの個室。シャワーとトイレ、洗濯機を完備した脱衣所兼洗面所。その先にある、キッチンに少年の目が辿りつく。



「ああ、そういえばもっと珍しい〔裏論〕がすぐ近くに展開されてたな。〔ジン核〕の〔意志〕を〔化身〕として表出する〔裏論〕、〔化身化(けしんか)〕が」



 柳児は言葉を切ると肘掛にかけた腕を起こす。黒い手袋に覆われた右手で自分の顎を支え、一虎や深夜と同じく部屋の奥にあるキッチンを見やった。

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