職人
ベランダから曇天の鈍い光を受けたリビング。雑多に段ボール箱の置かれた寮室で。
「・・・というわけです」
フローリングの上に寝そべった体勢の一虎は見上げるようにそう言った。〔論害〕が襲撃してきたこと。その〔論害〕から深夜が一虎の〔裏論武装〕を守り、届けてくれたこと。新入生の寮室待機命令。そして、本来自室にいなければならない深夜がここにいる裏由、一虎に〔ジン核〕を貸与した大和により赫夜のお守りを任されたことを、彼女の代わりに伝え終わる。
対して、
「ふ~ん・・・」
頭の後ろで両手を組み、リクライニングした安楽椅子に寝転がる長身、相変わらず顔面マスク状態の反咲柳児は、気のない声を返した。入学式をバックれて惰眠を貪り、そのために何も知らなかった彼に、一虎は現在の状況を説明していたのだ。しばらくすると、寝癖のはねる黒の長髪を指先でもて遊びながら、柳児が気だるげな調子で口を開いた。
「その、〔論害〕を斬ったトンボ野郎、俺の親父だな」
「お父、さん?あの、トンボの人が!?」
一虎は、驚きに目を見張る。天を斬り裂いた超常の一刀。小1時間前に見たトンボ男の印象は、まだまだ一虎の中で鮮烈な太陽の色を帯びていた。
反して、柳児は退屈そうに肩をすくめて言った。
「ああ。〔ジン核〕を〔裏論武装〕へと加工する〔武装化職人〕であり、最大国家戦力たる〔全段〕の称号を取る者の1人、反咲流。知らないか?」
「・・・流さん?あ、れ?どっかで聞き覚えが・・・」
一虎はその名前に、頭を捻る。大事なことを忘れてしまうという間の抜けた行為が、先程大和を大いに怒らせたことが、一虎を必死にさせていた。
そして、一虎は初めて深夜が口を聞き、その時に緊張した彼女が早口でその名前を口にしていたことを思い出す。断片的な彼女のセリフから判断すれば、その人物は、
「あ、多分、赫夜を僕に合わせて〔裏論武装〕に鍛えた職人さん、かも」
すると、
「これは、〔抜刀術〕に適した刀、〔抜刀〕だな。つうことは、竹叢はうちの親父と同じ、〔抜刀術〕の使い手ってことか」
と、アイマスクで視界もないはずの柳児が、両手に着けた黒い手袋、その右手の指先を動かしながらそう言った。
対して、
「いや、僕・・・」
柳児の言葉を聞き、そこにあった誤解を訂正しようとした一虎だったが、
「ああ、すまん。ルームメイトとはいえ、俺達は〔裏論使い〕同士だ。こういう、懐を探るような真似はするべきじゃないな」
「あ、いや・・・うん」
柳児が遮るようにそう言って、一虎は深く考えずに小さな誤解を解かぬまま頷いた。
代わりに、右手の指先を動かしながら柳児が告げた。
「うん、確かにこれは親父の仕事だ。一貫した拵えに雰囲気。俺の良く知ってるモノだよ」
「わかるの?」
「ああ。一応俺も親父と同じ、〔反咲工房〕に所属する〔武装化職人〕だからな」
言葉に、一虎は一転して感心した声を出す。
「す、凄いんだね、反咲くんって!学生なのに職人で、しかも見ただけでお父さんの作品ってわかるなんて!それに反咲くんのお父さんも!〔裏論武装〕も作れて、あんな〔論害〕とも戦えるなんて!」
「んなことねぇよ。親父は刀型専門の職人だったから、ガキの頃からそこらに似たようなのが転がってた。俺が職人になってなくてもわかるさ。それに、アイツはそんな凄くねぇよ」
「え?」
「休みの日は一日中軒下でボーっとしてて、正直ゴミ同然だからな。箪笥の角に足の小指ぶつけて泣くとかしょっちゅうだし、パンツがどこにあるかわからなくて全裸で徘徊とかさ。家族の間ではブリーフ侍って言われてるぞ?」
一虎の賞賛に、柳児はぶっきらぼうにそう言った。その声音に、感じるモノがあった一虎は、
「でも、いざという時は、頼りになる?」
そう、聞いていた。これに対して、柳児は鼻を鳴らして、
「どうだか」
と、そっぽを向いて答える。どうやら言葉ほどには父親を馬鹿にしているわけではないと確信する。一虎は柳児に対して、微笑ましい天邪鬼の印象を抱いた。
そんなことには気付かない柳児が、
「ん?だが、なんかおかしくないか?」
「え?」
怪訝な柳児の声に一虎が聞き返すと、彼は疑問を述べる。




