鎌足という異形
「先の状況において、私は〔入学式〕を〔続行〕するべきでした」
男が息を吸い、続ける。
「なぜならあの場においてかの〔論害〕・白骨の屍竜を全くの損害なし、つまり〔新入生、天出雲深夜を無傷で救いだし〕、同時に〔新入生の皆様〕を完全に守り抜くことが出来たのは最高国家戦力たる〔裏庭十八番〕の〔四番衆〕である〔全段〕、私、鎌足縁のみであります」
男が自らに右腕を差し向け、続ける。
「それはあの場で唯1人、名実ともに私に次ぐ〔論客〕、天出雲時雨氏が奥方、絶薙大和氏の〔論害〕への〔裏論〕展開に対する躊躇、そして実際に〔論害〕へ攻撃を加えた、私と同じ〔全段〕の一角を務める反咲流氏の〔裏論〕に、かの脅威が耐え切ったことが証明しています」
男が大仰に手を広げ、続ける。
「また〔教師陣〕は新期入学生を所定の手続き、つまり〔入学式〕を経て初めて〔保護者〕の方々より守護義務を引き継ぐことになります。よって式を完遂していないあの状況下では、私の守るべき〔次世代〕、つまり〔生徒〕は誰一人その場にいなかったことになります」
男が嘆き、続ける。
「そして私は皆様方に申しあげました。〔私にお子様方の守護義務を移譲して頂きたい〕と。しかし皆様方は、否応ない混乱によって冷静な判断を下せなかった。私の申し出に対しそれを行った方はおらず、守れる見込みもなく自らの守護義務を維持した。もちろん私には説明の義務がありましたが、急を要する事態。さらにあの場には、〔入学式〕を完遂しなければ守護義務移譲を行えない者、つまり〔保護者〕の同伴していないお子様方もおられました」
男が頭を振り、続ける。
「確かに私には、裏野高校敷地内において敵性の〔裏生物〕および〔人物〕、つまり〔論害〕と呼ばれるそれらを排除し〔次世代〕を守る責任があります。が、これはあくまで正式に守護義務移譲を受けた〔生徒〕に対してのみ、発生する責任であります」
男が眉間に手を当て、そして、
「よって現在皆様が予定している、私の責任と実力、損害賠償を問う〔論戦〕は、〔保護者会〕の方々におかれましては自らの守護義務を果たせる見込みがないにもかかわらず、それを果たせる私に権利と責任を移譲せず、それらを引き受けようと尽力した私に責任を押し付け追及しようという〔大前提〕を持ったものに。〔企業群〕の方々におかれましては、裏野高校の施設に使用されている、本来事前に〔論害〕の襲撃を知らせる感知レーダーがかの脅威に反応していなかったこと、不可視の物裏防御壁・〔論裏障壁〕が白骨の飛来を完全には防ぎきれなかったことが問題に。そして〔政府団〕の方々におかれましては、裏野高校担当管理官であり感知レーダーの不備にも気づいた美作氏の、状況の収拾を放棄した敵前逃亡行為が問題になりますが、皆様それでよろしいでしょうか?」
それはまさに言葉による物裏的な攻撃。〔言撃〕とでも呼ぶべき畳み掛けだった。
絶句の沈黙が会議室を包み、〔保護者会〕や〔企業群〕、〔政府団〕の面々に、笑顔のままの鎌足の言葉が時間差を持って染みこんでいく。そんな中で一人、背もたれに深く体を預けて天を仰いだ男がいた。
「あ~」
男、汚野校長は感じたまま、素直に傍らの鞍馬に呟いた。
「なんか、全部台無しじゃのう?のうっ!?」
瞬間、四方八方から〔反論〕の怒号が轟き、呆けていた鞍馬青年がビクリと身を竦ませ、
さらには、
「私と戦え鎌足いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
一瞬で円卓を飛び越えた大和の咆哮が、裏野全土を揺るがした。




