2.成果。
――それから一ヶ月。
俺はマルスに対して徹底的に基礎を叩き込んだ。
朝は走り込みに始まり、それが終わると素振りでフォームの確認。昼を挟んだ後は、具体的な体捌きを小さな魔物を相手にした模擬戦で確かめた。
どれも地味で、華のない鍛錬の数々だったが、マルスは文句を言わずにこなす。
「ふぅ……今日も疲れた……!」
「おう、お疲れさん」
ある日の鍛錬後、肩で息をする彼に水を差し出しながら。
俺はふと、気になっていたことを訊ねることにした。
「なぁ、マルス? どうして、そんなに強くなりたいんだ?」
「…………どうして、か」
すると青年は大きめの切り株に腰かけつつ、大きく息をつく。
そして、どこか遠くを見るような眼差しで語り始めたのだった。
「オレさ、昔……王都の騎士団長に、命を救われたんだよ」
「騎士団長……?」
「そう、騎士団長」
俺はそのことに少し驚きはしたが、あえてそれ以上は口を挟まない。
「その頃のオレは、ホントに悪ガキでさ。悪戯ばっかりしてたんだけど、そんな時に森の中で魔物に襲われたんだ。ガキじゃ、とても敵わないような強い魔物に」
やや自嘲気味に。
だけどすぐに、興奮したように続きを話し始めた。
「でも、その時に……現れたんだよ! 白い鎧を纏った騎士団長が、颯爽と! あっという間に魔物を片付けて、大丈夫かって……手を差し伸べられた瞬間、呼吸を忘れてた!」
拳を握りしめるマルス。
瞳はいままでの比ではないくらいに輝き、憧れに満ちていた。
「だから決めたんだ、オレもいつか強くなって……誰かを守れるようになりたい、って! ――だけど、何をやっても思った通りにいかなかったんだよ」
「そんな時に、俺が町に帰ってきた……か」
「そう! だから、師匠には感謝してる!」
そう言いながら、青年は嬉しそうに微笑む。
俺はそんな彼を見ながら、ふと――。
「そうか。アイツがこの町のこと――」
――昔を懐かしもうとした。
その瞬間だった。
「ルドルフ、マルス! 大変だ!」
「どうした!?」
町の男性が一人、大慌てで俺たちを呼びにきたのは。
血相を変えている彼を見て、ただ事ではないのを察して立ち上がった。俺とマルスが迎えると、男性は呼吸を乱しながらこう叫ぶ。
「オークだ! しかも普通のじゃなくて、キングオークが町に!?」――と。
◆
――並のオークであれば、そこまで焦る必要もない。
辺境とはいえ町の冒険者が手を取り合えば、撃退することも可能だ。しかし、
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
キングオークは、別問題。
その名の通りオークの中でもいっそう大きな体躯を持つそいつは、普通のオークの三倍以上はある。言ってしまえば、歩く災害のような存在。
奴のせいで村や町が廃墟と化した報告は、枚挙に暇がない。
「くそ、好き勝手に暴れやがって……」
俺たちが戻ると、そこには荒れ狂うキングオークの姿があった。
冒険者たちが一生懸命に応戦しているが、どれも効果的な攻撃になっていない。いまだって冒険者が三人束になって斬りかかったが、一撃で振り払われた。そもそもとして、キングオークの身体を断つには、並外れた筋力も必要になる。
それができるとすれば――。
「師匠。……オレに、やらせてくれ」
「――マルス」
天性の身体能力に、鍛え上げられた肉体を持つマルスだけ。
いままでのような力任せで無駄の多い剣術とは違い、彼のそれは鋭さを増していた。それならば、あるいは奴を相手にしても戦える。
俺はそう考えて、こう告げた。
「あぁ……成果を見せてこい」
「分かった。任せてくれ」
俺が背中を押すと、マルスは腰元からロングソードを抜き放つ。
そして、
「こっちだ、そこのデカブツ!」
キングオークを挑発し、注意を引き付けた。
マルスは剣を構えて大きく深呼吸一つ、迫りくる奴を見据えて肩から力を抜く。
その次の瞬間だった。
「………………ッ!」
呼吸が止まるような刹那。
重心の移動、足の運び、そして無駄のない剣の振り下ろし。彼の一撃には、自分が教え込んだすべてが込められていた。
断末魔の叫びすら上がらない。
マルスの剣は、キングオークの大きな身体を一刀両断に斬り伏せたのだ。
「嘘だろ、あのキングオークを……?」
「マルスの剣って、あんなに綺麗だったか?」
「いや、もっと力任せでどうしようもなく不器用だったはず……」
周囲が騒然とする中、マルスは息をついてこちらを振り返る。
そして、親指を立てて満面の笑みを浮かべたのだった。
次回、一方その頃の元パーティー。
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