1.第一歩。
「教えてくれって言っても、俺は基礎的なことしか分からないぞ?」
「いいんだよ! こっちは何がなんでも上達したいんだから!」
「何がなんでも、か……」
マルスに連れられてやってきたのは、町外れにあるちょっとした森の広場。
広場と呼ぶにはあまりに雑然としているのは、おそらく彼が自分の手で切り開いた場所だからだろう。それでも、剣を振るには十分な広さだった。
俺は置いてあった木剣を一本取りマルスに渡す。
それが了承の意だと伝わったらしく、青年はまた目を輝かせた。
「それじゃあ、ひとまず素振りから」
「分かった!」
そして指示をすると、彼は見るからに我流であろう動きで剣を振るい始める。
俺はそんな動きを見て少しばかり考え、こう提案した。
「……マルス。一度、俺に向けて全力で打ち込んでみてくれるか?」
「え……?」
するとマルスは目を丸くして、少し困ったような表情になる。
怪我をさせたら、という可能性を考えたのだろうが――。
「――分かった」
意を決したようにそう言って、俺に対して剣を構えた。
そして、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
気合いをつけて、思い切り剣を振り上げる。
だが、あまりにも大振り。俺は品定めをするように見ながら、半身を動かしただけで回避してみせた。その動きが予想外だったのだろう。マルスは振り下ろした剣で地面を叩きながら、目を丸くしていた。
しかし、それで終わりはしない。
二撃、三撃……続けて繰り出してくる。が、どれも分かりやすい。
「ぜぇ……ぜぇ……! ぜんっぜん、当たらねぇ……!」
やがて、もう降参だとばかりに大の字になって転がってしまった。
それでも俺の想像以上に、多くを打ち込んできていたが。
「なるほど。マルスの課題は分かったよ」
「……課題?」
こちらがそう告げると、マルスは整わない息のまま半身を起こした。
そして首を傾げて、こちらの言葉を待っている。
「マルスの剣は、全部が力任せなんだ。振りが大きいから、簡単に見切られる」
「振りが大きい……? でも、剣なんてそうしないと振れなくないか?」
「そうじゃないんだ。そうだな、試しに――」
立ち上がった青年に木剣を握らせて、俺はこう言った。
「前に倒れ掛かるようにして、そのついでに剣を振ってみな?」
「倒れ掛かる……?」
眉をひそめながらも、マルスは言った通りに剣を振るう。
すると、先ほどとは打って変わって鋭い音が響いた。
「うわ、なんだコレ! 凄く軽く振れる!!」
「そうだろ? 剣の基本は体捌きなんだよ。力がすべてじゃないんだ」
「すげぇ! すげぇ、すげぇ!!」
先ほどまで上がっていた呼吸が嘘のように。
マルスは新しい玩具を与えられた少年のような眼差しで、何度も剣を振るっていた。その鋭さはさっきまでの力任せな剣筋とは、見違えるほどに美しく無駄がない。
とはいえ、まだまだ粗さは残ってはいたが……。
「これで、少しは役に立てたかな?」
「少しどころじゃねぇよ! なぁ、ルドルフさん――いいや、師匠!!」
「……師匠?」
俺が首を傾げるより先、マルスはこちらの手を取った。
そして、鼻息荒くこう続けるのだ。
「これからも、俺に指導してくれ!! ――絶対、強くなるから!!」
曇りなき眼。
俺はそれを見て、自然と笑みがこぼれた。
「分かったよ。基礎しか教えられないけど、それで良いなら」
手を握り返し、そのように答える。
こうして俺は故郷の片田舎で、教育者として一歩を踏み出したのだ。
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