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こんな街並み

 すんなりと陸地に下りられた。

 ステラはもともと接岸されており、パイロット三人の申請もあっさりと通った。三人の話通り、戦力は十分足りているらしい。


「ああ、そう言えばこんな街並みだったな」


 三千年ぶりに見る地平線、シュテルンに幽閉された果てなき世界は一面水が張っていたから水平線になるはず、に空は感慨深く呟いた。

 シュテルンから逃れるために地下に潜ったとされる町。実際、住む人間も海で暮らす兵士たちもほとんどが同じように勘違いしているだろう。

 だがもしシュテルンの言葉が正しいのなら、実体はまったく違う。

 彼らが戦うのは、彼らが武器を捨てないからだ。環境を破壊し、放射能を振りまく戦闘機を見て見ぬふりをするために地表という目隠しを選んだのだ。


「初めて会ったときが懐かしいわね」

「そやな。何しやがったぁって騒いでたな」

「うるさいな。仕方ないだろ」


 左手にエン、右手にシトラの腕を絡ませて空たちは歩く。イリーナは仲間外れ、というわけではなく、空たちの後ろをちゃんとついてきていた。

 ちなみに離れろとは言った。聞き入れてはもらえなかった。


「絶世の美少女三人に囲まれてたんや。動揺しても仕方あらへん」

「そういうことにしといてやるよ」

「素直やあらへんな」


 ため息を吐いて首を左右に振るエン。正直言ってそのときの記憶がない空は、それでいいかと否定はしなかった。


「イリーナ? どうしたの離れて。一番空に懐いていたのに」

「ん?」

「イリーナはアナタだけでしょう?」


 さすがシトラ。なんという余計なお世話だ。

 空は後ろをついてくるイリーナに目を向ける。彼女は困ったように笑っていた。いや無表情で表情金はピクリとも動いていないが。


「ん」

「いいんだシトラ。イリーナの好きなようにさせてあげれば」


 困っているイリーナに、空は助け舟を出す。

 嫌がっている女の子を無理やり侍らせる趣味なんてない。というかそもそも女の子を侍らせる趣味がない。

 いい加減離れろ、と言いたいところだが力関係は間違いなく少女たちの方が上だった。


「空何か知ってるの?」

「いいや何も」

「ホンマか? 隠すとためにならへんで?」

「俺が隠すメリットがないだろ」


 エンからの疑いの目は、微笑みで濁す。空はイリーナがつかず離れずな距離を保っている理由に心当たりがあった。

 多分イリーナは勘付いている。空がシュテルンの一人だと。

 空がイリーナから正面へと顔を戻すと、眼前の青空に違和感を覚えた。

 空間が歪んでいく。歪みはやがて大きくなっていき、銀色の円盤をいくつも吐き出していった。


「シュテルン……!」


 シュテルンが出てくるところを、空は初めて見た。

 なるほど確かに恐ろしい。虚空から前触れなく現れる円盤たちが人間を攫っていけば、人類の敵だと思われても仕方ない。間違っても救世主には見えないだろう。


「大丈夫よ空」


 シトラがひときわ強く抱き着いた。その声は平静で、狼狽えるなど愚かだと語っているようにすら感じた。

 シトラが落ち着いている理由はすぐに分かった。

 どこからともなく、まあ主に空たちが歩いてきた海岸側から、戦闘機の集団が円盤へと向けて飛んでいく。まるで獲物を見つけた鷲のようだ。瞬く間に円盤の数を減らしていった。殲滅も時間の問題だろう。


「なんだか変な感じやな。ウチらが守られる側なんて」

「そうね。いつもなら上にいるはずだし、下で黙って見てるってのも変な感覚だわ」


 エンとシトラが二人そろって頭上で行われている撃滅戦を見入っていた。

 最強格の二人だ。万全を期すなら二人を温存しておく理由がない。だからただ観戦するという今の状況は、彼女たちにとって珍しい事態だった。

 だが、同じく最強と名高い実力者は違うものを感じていた。


「叫び声が聞こえてくる」

「えっ? 何か言った?」

「悲鳴が聞こえるんだ。お前らは聞こえないか?」


 空は右手を耳にあてて、どこからか聞こえてくる音に意識を集中させていた。


「いや、聞こえへんな。仲間が落とされたときに聞こえるっちゅう話はたまに聞くけども」

「今回も脱落者無しだしね。聞き間違いじゃないの?」

「そんなことは、ないと思うんだけど」

「……っ」


 聴覚に意識を集中していた空は、背後から聞こえてきた後ずさるような足音を捉えた。

 背後を振り返ると、銀髪の少女が信じられないものを見るような顔をしていた。いつも凍っている表情筋まで動かして。


「イリーナ?」

「イリーナ。お前は聞こえるのか?」

「……んーん」


 シトラと空がたずねると、イリーナは首を横に振る。

 聞こえてないというよりは信じられないみたいな顔をしているのだ。とぼけるには少々無理がある。


「あっちょっとイリーナ」


 シトラの制止も聞かず、青い顔になったイリーナは来た道を真っ直ぐ引き返していった。


「なんやったんやろうか」

「今日のところは帰ろう。俺も気分が悪い」

「ごめん。病み上がりに無理させて」

「違う、シトラたちのせいじゃない」


 肩を落とすシトラとエンに、空は苦笑いを返した。

 確かに二人はすこーしばかり調子に乗った。だけどそれは空も同じ。怒って帰る理由にはならない。


「多分、アレのせいだ」


 空は指を上に向ける。

 ちょうど最後の円盤が撃墜された。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後12時更新予定です。

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