謳歌
「「退院おめでとう!」」
「ん」
医務室から出ると、三人の美少女が出迎えてくれた。
「三人とも。来てくれたのか」
シトラは空と一緒に待機していたから分かるが、他の二人までいるとは思わなかった。
一緒にいたはずなのになぜシトラが空を出迎えられるかというと、空は退院前に診断結果を聞かなければならなかったからだ。そのためシトラには一足先に帰ってもらった。
「当たり前やん。エースパイロットの帰還やで?」
「エン、エースはアタシでしょ?」
「惨敗系ヒロインが何言うてんの」
「いくらなんでも言い過ぎじゃない!?」
ひどい言われ方をされているシトラが不満を露わに叫んだ。
「エンは冗談が上手いな」
「んーん」
「イリーナの言う通りや。冗談やあらへん」
「ははは」
「「「……」」」
冗談を言い続けるエンとイリーナの言葉を笑いながら聞いていたら、シトラも含めた三人に変なものを見るような目で見られた。
黙らないでくれよ。変なことを言ったみたいじゃないか。
「空、この後予定空いてる?」
「えっああ。特にしなければいけないことってのはないかな」
「じゃあ四人で町を回りましょう。空の退院記念ってことで」
シトラの提案に、エンとイリーナの表情が途端に明るくなる。
「ええやんそれ! さっすがシトラ。ウチらのリーダーや」
「そうでしょうそうでしょう。もっと褒めなさい」
珍しくエンが褒め、シトラも嬉しそうに無い胸を張っている。
「……大丈夫なのか? 四人で遊んだ覚えがないんだが」
「ん」
空の疑問に、イリーナが頷いた。大丈夫と言いたいらしい。
「大丈夫よ。空が寝ている間にエイロネイアではある方針が決定したから」
「方針?」
空が目を覚ましてから、誰もそんな話はしていない。
どうして誰も教えてくれなかったのか。他にも考え事をしていたから聞き流したという可能性は考慮しない。
「ええ。ここ最近のシュテルンはどういうわけか日本にしか現れない。だから必要最低限の戦力以外は、すべてこの国に注力されるようになったの」
「空が戦線離脱するかもしれへんって話になってな。兄さんが色々と動いてくれたみたいや」
発案者は恐らく健太郎だろう。エイロネイアを一か所に集めるなど正気の沙汰とは思えないが、シュテルンでもあるあの男ならゴーサインを出すかもしれない。
ちなみに空はシュテルンが日本を集中して狙ってくる理由にも心当たりがあった。
シュテルンにとって一番の敵は空の周りにいる少女たちだ。シュテルンの世界からの選抜試験に戦闘データが使われていることからも、どれだけわずらわしく思っているのか分かる。彼女たちに味方が、それも同胞が加わったと判明したのなら血眼になってでも撃墜したいはずだ。
「兄さん……ええっと」
「別に思い出さなくていいわよあんなヤツ」
「一応身内の前なんやけどな」
シトラの辛辣な態度に、エンは苦笑するが咎めはしない。
家族間の確執は解決したはずなのだが、まだシトラの方が好感度がたまっているようだ。
「まあ簡単に言うと」
シトラがコホンと咳払いをした。
「ウチらが全員で遊んでも構わへん程度には人がおるっちゅうことや」
人差し指を立て、人懐っこい笑みを浮かべてエンは言った。
まとめの一言というリーダーの仕事を奪われた金髪の少女がエンに恨めしそうな視線を叩き付けているが、当の本人は空の腕に抱き着いていて気にした様子もない。
「そっか。それなら安心だな」
シトラに触れてはならないと直感した空は、彼女を視界から外そうとあさっての方向へ視線を彷徨わせる。
「まあ、今だけしか遊べないだろうしね」
「そやな。司令官の言葉が本当なら、もうすぐ総力戦やし」
シトラはため息を吐いてエンから視線を外した。よかった。自分の感情より説明役という役目を優先してくれて、本当によかった。
だからエン。お前は少し黙ってろ。
「総力戦? だから集まってるのか」
「ん」
イリーナが頷いた。
「情報が漏れたとシュテルンは考えている。内通者だった教授は倒したわけだからね」
「やけどウチらはシュテルンの本拠地すら知らん。攻勢に出れるのは向こう側しかおらへんってわけや」
「そこに加えてエイロネイアは戦力を集中させている。シュテルンはいつ戦争が始まるかと痺れを切らすってわけか」
「そうや。さすが空やな」
シトラとエンの説明に空が結論付けると、エンが褒めてくれた。さっきは黙っていろなんて言って本当申し訳ない。
「存分に羽を休めなさい。これは司令官の命令よ」
「健太郎の――」
――なら謳歌しよう。
声には出さず、空は呟く。
――健太郎の下す最後の命令なのだから。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は明日午前8時更新予定です。




