さてはまた
空は甲板に座っていた。右には健太郎が同じように甲板に腰かけており、左側のイリーナは空に寄りかかり体重を預けてきている。
「なるほど。教授が裏切り者だったか」
「ああ、メルセデスを呼んで乗り込んでいた。裏切り者じゃなければなんだって話だ」
ことの顛末はシトラから報告されていただろう。しかし彼女もその場に居合わせたわけではない。
ネオン教授とイリーナのやり取りに一番詳しい空からも、事情を聞きたかったのだろう。
「ご苦労だ空。ただ、できれば本人から話を聞きたかったが」
「無理だ。俺たちだって死ぬところだったんだ。腕こそ大したことなかったけど、有能な策士だった」
残念そうに呟く健太郎に、空は首を横に振って答えた。
健太郎の気持ちは理解できる。だがネオン教授は生け捕りできるほど弱くはなかった。
シトラとのタイマン、空たちに加勢されて不利な状況に追い込まれても、ネオン教授はジョーカーを隠していた。もしかすると、空の知らないカードをまだ手札に持っていたかもしれない。
「ん」
「そうだな。イリーナのおかげで助かったよ」
傍から見れば無表情のドヤ顔をする少女を、頭を撫でながら褒める。
イリーナは嬉しそうに目をつむり、空の手の感触を堪能していた。
「それで、もう一つ聞きたいんだが」
「なんだ? まあ予想はつくけど」
イリーナの頭から手を離さず、年が離れた親友に顔を向ける。
「どうしてイリーナはさっきからずっとベッタリなんだ?」
やっぱりか。
空は苦笑してしまった。シトラやエンにも既に問い詰められていたからだ。
「教授から助けただろ? で、そのときの口論を聞かれたみたいなんだよ」
イリーナの意識は混濁していたが、どうやら記憶はあったらしい。
恐らくネオン教授は自分が楽しむ間は無抵抗になるよう眠らせて行為が終われば記憶を消して印象を操作していたのだろう。イリーナが調整の内容を覚えていないのにクソ野郎を慕っていたのもこれで説明がつく。
「さてはまた恥ずかしいことを言ったんだな?」
「さてはとかまたとか言うな。あんときは頭に来てたんだ」
シトラやエンからも似たようなことを言われた。いつもそんなに恥ずかしいことを言っているだろうか。空は不安になった。
「ん」
「カッコよかった? はいはいありがとな」
袖を引っ張ってまでアピールしてくれた少女の頭を、空はわしゃわしゃーっと強く撫でた。イリーナの髪がぐしゃぐしゃになった。
「それで、調査はどうなんだ?」
イリーナも大事だが、健太郎の仕事も重要だ。
エイロネイアの最高司令官である健太郎は、ネオン教授の研究室を調べていた。目的はもちろん、シュテルンとの接点を探すためだ。
「教授の部屋はほとんどがれきの山だった。だけど手がかりは見つけたよ」
「本当か!?」
シトラかエンが研究室を吹き飛ばしたから望みは薄いと考えていただけに、空は勢いよく食いついてしまった。
「教授がメルセデスを呼んだとき、車椅子みたいなやつに座ってなかったか?」
「ああ、座ってたな。禍々しいヘルメットみたいなのもつけてた」
「禍々しいヘルメットは知らないが、椅子の方は回収した。どうやらこの世界にはない物質を使っているみたいだ」
シュテルンの円盤もこの世界にはない物質だったはずだ。そう考えると手がかりとなる可能性は高い。
「それで、その」
「どうした? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
今さら遠慮し合う仲でもないだろうに。
「空に協力してほしい。具体的に言うとその椅子に実際に腰かけてシュテルンと交信してほしい」
「いいぜ。敵を知るには懐に潜り込んだ方が早いからな」
健太郎の申し出を、空は二つ返事で了承した。イリーナが信じられないとばかりに健太郎と空の顔を交互に見ているが気にしない。
戦争の終わりは、確実に近付いていた。
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次回は今日午後6時更新予定です。




