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命中

 蒼龍に乗ってステラに帰った空たちは、既に出撃準備の終わっていた愛機に乗り込んだ。蒼龍は一人用だから三人も乗るときつかった。もう二度と乗らない。特にずっと密着していたからかずっとニヤニヤと嬉しそうにしているエンとは。

 焦る気持ちはあったが、黄龍も轟龍も蒼龍の後ろを後を追った。三機の中で一番推進力に乏しいのは蒼龍だ。そして四人揃わなければ勝てない強敵である以上、空たちが先行しても大して意味がない。

 シトラへの負担が重い作戦だが、彼女なら大丈夫だろう。だって天才だし。


「シトラ、大丈夫か!?」


 行きは十分、帰りは五分の航路を終えた空は、一人で足止めを買って出てくれたシトラに通信を飛ばす。


『遅かったじゃない。思わず一人で落とすところだったわ』

『へらーず口をー。逃げ回ーっていただけのくせーにー』

『るっさい』


 いくら天才でも、自分用の対策をされた機体相手では逃げるのが精いっぱいだったようだ。

 むしろよくここまで持ちこたえたと褒めるべきだろう。鼻を高くするだろうから本人には絶対伝えないが。


「一旦退け。態勢を立て直すぞ」

『……分かったわ』

『援護するで』

『めざわーりなー』


 蒼龍とメルセデスが同時にミサイルを放つ。

 メルセデスのミサイルは空中で爆発し、数えるのも億劫になる蒼龍のミサイルは明後日の方向へと飛んでいった。


『厄介やな』


 メルセデスが機械の制御を無効化するのは既に伝えている。しかし実際に目の当たりにしたエンは改めて唸った。


「機銃を重点的に使っていけ。速いが慣れれば当てられるはずだ」

『ウチの武装はミサイルがほとんどやねんけど』


 武装の搭載量のほとんどをミサイルに回している蒼龍では相性が悪いだろう。

 攻撃は不可能ではないだろうが、一工夫は必須だ。


「イリーナは攪乱を――イリーナ?」

『………………ん?』


 イリーナの反応がいつもより遅かった。

 確かにいつも静かだ。だが、反応が悪いということはなかった。

 まだ薬か何かの効果が抜け切れていないのだろう。


『今ボーっとしてたでしょ』

『まだ本調子やないか』

「分かった。攪乱は俺がやる。シトラ」

『分かってるわ。美味しいところは貰うわよ』


 名前を呼んだだけで、シトラは空が言わんとしていたところが分かったらしい。さすがシトラ。略してさすシス。


「頼んだ。相性がいいのはお前だけだ」

『任せなさい』


 エンには何も言わない。空が指示するより自分で動いた方がきっと効率がいいだろう。エンだって百戦錬磨の猛者だ。対策を考えるのなら、自分の機体に特化している彼女の方がずっといい。


 ――さあ、こちらの準備は整った。


「潰そうか!」


 空は左手のスロットルレバーを強く押しこんだ。エンジンの出力を全開にした轟龍が震えだした。


『やれーるものなーら――ッ』

「どうした? スピードを活かせよ」

『くっ』


 生意気にも口答えしようとしたメルセデスのコクピット付近に機銃を一発撃ちこむ。動きが読まれないよ蛇行しながらの攻撃に、ネオン教授も危機感を抱いてくれたらしい。

 今まで余裕ぶってちんたら飛んでいたメルセデスが、黒い閃光となって視界から消えた。


「んじゃあ作戦開始だ」


 空の言葉を待たずして三機は散開していた。

 なんだか恥ずかしい奴みたいじゃないか。空は少しだけ恥ずかしくなって右手の操縦桿に付いている引き金を小刻みに引き絞る。


『どーうしてーあてられーるんでーすかー?』

「そっちこそどうして当たってるのに落ちないんだ?」


 空の放った銃弾はほとんどが空中で火花を散らしていた。つまり黒い閃光と化したメルセデスに当たってはいる。やっぱり装甲は相当厚いらしい。前回の反省を生かしているようだ。実に面倒くさい。

 ちなみに空が目視出来ない速度で飛んでいる機体に機銃を当てられているのは、レーダーに敵機の様子が映っているからだ。赤い点がものすごい速度で縦横無尽に飛んでいるが、見えていればタイミングを合わせることぐらい造作もない。


『なーらばー』

「だよな。やっぱり無効化してくるよな」


 虚空から放たれたミサイルを難なく回避するが、空中で爆発したミサイルによって轟龍がわずかに揺れる。

 レーダーが無効化された。まあ当然だろう。使える武器は活用すべきだ。

 空は読めていた展開に焦らず、回避行動に重点を置いた。単調な動きを避けるために、最強の三機を混合した動きだ。いくら学者で頭のいいネオン教授であろうとも、簡単に先読みはできないだろう。

 お互いに攻撃を当てられない均衡状態になるが、突如起こった爆発によって均衡は崩れた。


『ッ!?』

『やったで! 命中や!』

「ナイスだエン」


 こちらはチームだ。一人に集中していれば手痛いしっぺ返しを食らってしまう。空も何度も味わった。気持ちは痛いほどよく分かる。

 特に無力化したと思っていたエンのミサイルなんかはさぞ驚いただろう。しかも運がいいことに当たった場所はエンジン付近だったようだ。黒い閃光はすぐに正体を現した。もう高速での移動はできないだろう。


『エンに先越されたのが悔しいけど、今なら!』


 エンと同じくタイミングを計っていたシトラが、機銃を撃ちながらメルセデス目掛け突撃する。

 あわやぶつかるというところで紅龍は身をひるがえして自爆を回避する。避けると分かっていた空はシトラが避けたタイミングに合わせてメルセデスに鉛玉を叩きこんだ。

 いくらメルセデスの装甲が厚くても、紅龍と轟龍から集中砲火を食らえば無事では済まない。しかも三つあるエンジンの一つは煙を上げており、逃げようにも逃げられない。


『たすけーてくださーい。なんでーもはなーしまーすからー』


 ネオン教授も自分の不利を悟ったようだ。不快な口調は変わらず、撃墜される恐怖からか声を震わせる。


「ストップ。言い訳があるそうだ」

『手加減する必要はないわ』

『そうもいかへんやろ。裏切り者しか持たへん情報があるかもしれへんし』


 シトラの過激な発言に、エンが正論で返す。

 空も同じ意見だ。可能ならネオン教授は生かしておいたほうがいい。

 ネオン教授はメルセデスに乗っている。そしてメルセデスはシュテルンの誇る最高傑作。今回を合わせても二回しか戦場で遭遇していない。

 どうやってネオン教授とシュテルンは接点を持ったのか、あの車椅子のような機械はどこで手に入れたものなのか。突き止める必要がある。


『そーうでーすねー。何から話しましょーうかー』


 メルセデスを取り囲むようにして、赤、青、黒の機体は周回していた。逃げようとしたときにすぐ反応するためだ。

 もちろんメルセデスの射線、機体前方と後方には近付かない。シトラやエンも前回の戦闘で学んでいたようで、空と同じように避けている。


『皆さーんのきたーいをおとーしてかーらかんがーえまーしょう!』


 前回の戦闘で学んだ。それは大きな失態だった。

 装甲が厚くなっているメルセデスが、他に改良されていないとは限らないからだ。


『ッ! 全員退避!!』


 空の背筋に寒気が走るのと、シトラからの通信が入ったのはほとんど同時だった。

 反射的に操縦桿とスロットルレバーを操作しながら、空はメルセデスの挙動を確認するために後方へ顔を向ける。


 メルセデスの全身からハッチが開き、蓋が開いた様子はハリネズミのようだ。まるでミサイルを発射する直前の蒼龍にも見える。

 もしも蒼龍と同じ空間爆撃が使えるとしたら、最低でも一人のパイロットを失う。エンは装備の関係上機動力に乏しいし、空も初見で弾幕が避けられるとは思っていない。

 逆転の一手をうたれたことに空は歯ぎしりした。これなら初めから拳銃で撃ち殺せばよかったのだ。


 今まさにミサイルが飛び立とうとしたその瞬間、メルセデスのエンジンからコクピットまで、一筋の弾痕が刻まれていった。


「……なんだ?」


 弾のいくつかはミサイルに直撃したらしい。メルセデスを中心に大規模な爆発が発生した。距離を取っていなければ空たちも爆発に巻き込まれていただろう。


『ん』

「イリーナ? お前が助けてくれたのか?」

『ん』


 肯定の通信が一つ。

 どうやら空たちの窮地を救ってくれたのはイリーナのようだ。


『さっすがイリーナや! 伊達に最高の才能って言われてるだけあるで!』

『そうね。気付かれずに待機しているなんて、アタシには無理だわ』

『猪突猛進やもんな』

『誰がイノシシよ』


 通信越しに言い争いを始めるエンとシトラ。

 二人とも絶体絶命のピンチを乗り越えたのだ。空もその興奮は理解できるので、二人のやり取りには触れないことにした。


「助かったよイリーナ」

『……ん』

”どういたしまして”


 イリーナの声はどこか悲しそうだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後12時更新予定です。

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