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絶対に

「何があったわけ?」


 医務室の前で、シトラは腕を組んで壁によりかかっていた。

 スライド式の扉。取っ手はなく上部に設置されたセンサーにより、近づいただけで開く自動ドアとなっている。医務室前も通路は変わらず白の外壁だが、他の部屋とは違い黒い長椅子が設置されている。基本的に診察中は部外者の立ち入りは禁じられているから、心配で離れられない人への配慮だろう。今はエンが座っている。


「イリーナが倒れた」

「知ってるわよ。どうして倒れたのか聞いてるの」

「分からない。急に倒れたんだ」


 空が医務室をたずねたのは二度目だ。一度目は明確な変化があり原因も特定しやすかった。

 しかし、今回イリーナが倒れた理由の特定はできていなかった。直前の行動といえば頭を撫でたことだが、今まで何度も撫でてきた。今さら気持ち悪すぎて気絶したというわけではないだろう。ないと信じたい。

 では他に要因があるのかと問われれば、空は首をかしげることしかできない。デコピンをしたからだろうか過去を思い出させたからだろうかプレゼントを贈ったからだろうか体調不良気味なのに町に出たからだろうか。

 分からない。すべて関係しているのかもしれないし、すべて関係ないのかもしれない。空には判断できなかった。


「なんや。空と一緒に遊び行くと倒れるジンクスでもあるんやろうか?」


 医務室に初めておとずれた原因のエンが、暗い雰囲気にのまれずケタケタと笑い声をあげる。


「アタシは倒れてないわよ」

「はいはい。シトラは凄いんやねー」


 フンと胸を張るシトラはぞんざいな扱いに頬をふくらませた。


「あるぇー? イリーナさーんがたーおれたのでーすかー?」

「……教授」


 不快を煮詰めたような間延びした声に、パイロット三人の顔はこわばった。

 ネオン教授が、そこにいた。

 医務室前の通路は直線が続き、曲がり角までは十メートルもある。限られた空間の隙間を縫うようにして通路が入り組んでいるステラでは珍しい場所だった。

 しかし教授は既に医務室まであと一歩という距離まで近づいていた。声をかけられるまでネオン教授に気付けなかったという事実は、パイロットたちを余計と警戒させた。


「これはちょーうせーいがあまかーったのかもしれませーんねー」

「待てよ教授」


 パイロットたちなど知ったことではないと、あと一歩を踏み出そうとするネオン教授を、空は肩を掴むことで止めた。


「なーんでしょーかー?」

「なんでイリーナは倒れた? ここのところ調整してばっかりだろうが」


 そもそもイリーナの体調が優れないのは、教授がステラ内で調整をしてからだ。

 それ以降ほぼ毎日している調整は体調回復のためと謳っているが、ネオン教授が原因である可能性だってある。むしろそちらの方が高いのではないだろうか。


「んー? ぶがーいしゃはひっこんでーろと言いーませーんでしたっけー?」

「ならアタシに説明しなさい。イリーナの上官になら、報告義務があると思うけど?」


 シトラが医務室とネオン教授の間に立ち、空を援護する。

 さすがは天才。彼女の位置は扉に近いがセンサーが反応する範囲より外のようだ。センサーの範囲を見極めているらしい。


「こまーりましーたねー。しれーいかーんからだまーるよーうにいわれーてるんですがねー」

「パイロットたちの最高責任者はアタシよ。調和を崩す原因は知っておかなければいけないでしょ?」

「それもそーうでーすねー」


 組織としては健太郎のほうが立場が上だが、こと戦闘にかんしては立場が逆転する。シトラがあらゆる情報を求め、健太郎も彼女の姿勢をよしとしたからだ。シトラが本人より先にパイロットの体調の変化に気付くのも珍しいことではなかった。


「イリーナさーんは共感覚が弱まってまーす。恐らくながーくはたたかーえなーい」

「笑えへん冗談やな」

「冗談かどーうかー、エンさーんなら分かーるでしょー?」

「どうなんだエン」


 エンは無言で頷いた。本当みたいやね、と目が語っていた。


「でーすからーイリーナさーんはさーいちょーうせーいをしまーす。やはーりけんきゅーしつでなけーればなーりませーんねー」

「ええ、どうぞ」

「たすかりまーす」


 ヒラリと妨害を解いたシトラに一言残し、ネオン教授は空の手を振り払って医務室へと入っていった。


「シトラいいのかよ」

「教授が正しいと認めたわけじゃないわ。でも辻褄は合う」


 辻褄がどの部分をさしているのかは分からない。しかしシトラには思うところがあったのかもしれない。空が気付かなかった何かが


「明らかにおかしいだろ。再調整って」

「ええアタシもそう思うわ。だからこれを」


 シトラが鮮やかな青色のスカートをあげて、ふともものホルスターから銀色に輝くものを抜いて空に渡された。


「これは……銃?」


 空の手に重みを与えるのは、ゲームかアニメでしか見たことのない殺傷兵器だった。


「空、教授が何をしているのか突き止めなさい」

「ホンマにイリーナの体調が悪いだけなんか、突き止めてぇな」


 シトラとエンにそれぞれ依頼される。

 今銃を手渡されたということは、最悪の事態も想定されているということだ。そんな状況で二人は空を頼ってくれた。

 ならば返事は一つしかない。


「分かった。イリーナは絶対に助ける」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後6時更新予定です。

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