丸投げ
「なあシトラ」
三日ぶりの出撃から帰投し、健太郎への報告も終えたシトラを空は呼び止めた。
「何? 今日は疲れたんだけど」
「お前今日は大して働いてないだろうが」
ふぅ、と艶かしさすら感じるため息に空は冷たい視線を叩き付ける。胸が高鳴ったりなんてしていない。決してない。
「どうしてイリーナに頼ったんだ?」
適材適所と言われることは予想がつく。だけど空は聞かずにはいられなかった。
「はぁ? 仲間を頼ることの何が悪いわけ?」
案の定、シトラは不機嫌に眉を寄せる。
分かっていた展開に表情を動かさず、空は口を開く。
「そういうわけじゃなくてさ。シトラはサイキョーじゃん?」
「なんだかバカにされている気がしないでもないけどまあいいわ。それで?」
「適材適所の采配はするけど、今まで一人に丸投げってしてこなかっただろ」
いくらシトラでも誰かに頼ることぐらいはできる。空の初陣でも一応頼ってくれたし、スイに至っては指揮権を丸々譲渡したりもしていた。
だが、まったく戦闘に参加しなかったことはない。シトラは常に戦場を好み、状況によってフォローに回っていた。
「だから気になったんだよ。らしくないっていうかさ」
「ああ、なるほど。アタシが指くわえて眺めてるなんておかしいって言いたいわけね? イノシシみたいに突っ込むものだとばかり思っていたと」
「……」
「否定しなさいよ! ったく」
その通りだったので黙り込むと、シトラの稲妻が落ちた。
だって、ねぇ。
基本的に前進するのみじゃないですか。シトラの戦術って。どう視点を変えれば猪突猛進じゃないと考えられるのだろうか。
「アタシたちだって人間で、個人ごとに調子の波はあるわ」
「お前、人間だったのか」
「アンタ話を聞きたいの? それともぶっ飛ばされたいの?」
シトラが半眼になって指の骨を鳴らす。ポキポキなんて可愛いものではない。お前それ指折れてんじゃね? と思ってしまうぐらいえげつない音だ。バキベキッとかいっている。
「もちろん話が聞きたいですサー」
「マムよアタシは。ああもう、話を脱線させないで」
空は右手を額の前に構え、これまでの人生で間違いなく一番の綺麗な敬礼をした。
シトラの冷たい視線は無視だ。嘘だ。とても茶化せない。怖がっているわけではない。本当だ。
「イリーナの場合は調整の前後が調子の波が激しいときよ。直前は悪くて、直後はすこぶる良い」
シトラが話を始めたので、空はそっと敬礼をやめた。何か言われるかと警戒していたが、彼女は空について言及しなかった。
「メンバーの調子管理もリーダーの立派な仕事だし、一人の負担で済むのなら任せた方が楽に済む。だから今回はイリーナに任せたのよ」
「そういえば、俺の初陣のあとも気にかけてくれたな」
「そんなこともあったわね。情けない顔だったわ」
「うるせぇよ」
思い出したかのようにクスクスと笑うシトラに、空は口を尖らせて不満を訴えた。
「スイも、調整のあとは調子が良くなったりするのか?」
「さあ? さすがに部下じゃない奴の調子なんて分からないわよ」
シトラは首を横に振った。
それもそうか。シトラは日本で、スイはアメリカが拠点だ。気軽に会いに行ける距離ではないし、わざわざ連絡を取るような間柄でもないんだろう。
「ただ、初めとあとでイリーナみたいな上下があったわね」
「そっか。悪いな時間を取らせて」
それだけ聞けたら十分だ。空は少々強引に話を切り上げた。
「別にいいわ。今度何か奢ってね」
「ぬいぐるみでいいか?」
「は、はぁっ? 他にも色々あるでしょ」
シトラは真っ赤になった顔を隠すように背ける。照れ隠しならもう少しうまくやってほしいものだ。共感覚のない空でも、彼女の意思は手に取るように分かる。
「はははっ分かったよ。UFOキャッチャーがあったらまた取ってやる」
シトラが怒っているのを背中で聞き流しながらその場を後にする。
イリーナと同じ調子の上下。
それはつまりイリーナもスイと似たような状況下にあるという証明だった。
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次回は今日午後6時更新予定です。




