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だんまり

 海が暗闇に包まれたころ、イリーナは帰ってきた。

 食堂で腕を組む空。彼の目の前には、肩身せまそうにしている十二、三ぐらいの年の少女がいる。

 はたからは少し年の離れた兄に怒られている妹、に見えるかもしれない。もっとも、彼らが乗っている船の乗組員たちは、彼らの関係を熟知しているため誤解は生まれようがなかったが。


「調整で何されたか分かったか?」

「んーん」


 イリーナは無表情で分かりにくいが、心苦しそうに首を横に振った。


「分からなかった? あれだけ言ったにもかかわらずか!?」

「……ん」


 今度は申し訳なさそうに頷く。

 空は額を抑えて深くため息を吐いた。激情が口からこぼれそうになるが、ため息のおかげで幾分かマシになる。落ち着けと自分に言い聞かせて空は腕を組みなおした。


「何考えてんだよ。俺は言ったよな? ちゃんと教えてくれって」

「ん」


 イリーナが頷く。


「なんで分からないんだ。また寝てたのか?」

「ん」


 もう一度頷いた。


「なんっ、なんで寝たんだよ! 俺をうっとうしく思うならって言ったよな」

「……」


 今度は悲痛な表情を浮かべ、イリーナは黙り込む。

 彼女も負い目は感じている。そんなことは顔を見れば分かる。だが、期待を裏切られた空はイリーナを責めることをやめられない。


「ならどうして寝てたんだ」

「ん」

「眠くなってきた? 寝るなって言われたにもかかわらず?」

「……ん」


 普段の空ならしょうがないと笑って許すところだ。

 イリーナはそれ以上落ちないであろうぐらいまで肩を落としており、反省しているのは伝わってくる。

 きっとこの場にシトラかエンがいれば空を止めていただろう。彼のブレーキは長い間お預けをくらったおかげで見事に壊れていた。


「言い訳があるか?」

「ん。んー……」

「――ちゃんと喋れよ!」

「……っ」


 イリーナの顔が曇った。


「いつもいつも他人に代弁させやがって! 自分で話せよ! 言い訳してみせろよ!」

「……」


 イリーナは肩を震わせて、空の怒りを受け止めていた。

 苛立っている空は、彼女の目尻が光っていることに気付かない。


「だんまりかよ。何とか言えよ。卑怯者!」

「っ――」


 何かを言おうと口を開いて、結局何も言わずに閉じて、イリーナは食堂から飛び出していった。


「逃げるなよ!」


 後を追いかけようとした空は、口元を抑えて立ち止まった。

 ――俺はなんてことを言ってしまったんだ。

 謝ろうと口を動かすが、食堂から飛び出していったイリーナの背中は当然なかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は明日午前8時更新予定です。

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